ケータイ業界に異変! 昨年までひとり勝ち状態だったソフトバンクがここにきて急激に失速し、逆にこれまで苦戦を続けてきたNTTドコモが猛烈に巻き返している。

今年6月にMNP(モバイルナンバーポータビリティ)制度を利用した転入・転出数で、ドコモが6年5ヵ月ぶりに転入超過。さらに純増数でも4~6月期のドコモは90万件程度で、前年同月比で約2倍に増えた。

一方、好調を続けてきたソフトバンクは8年3ヵ月ぶりの転出超過。KDDI(au)が転入超過なので、ソフトバンクが携帯三大キャリアで“ひとり負け”となってしまったのだ。

原因はいくつかある。ドコモ好調の理由は、同社の回線を借りて通信サービスを提供する仮想移動体通信事業者(MVNO)経由のユーザーが増えたことが大きかったし、通信料金定額制や固定回線とのセット割などサービス面でも充実してきたことも引き金となった。

反対に、ソフトバンクはiPhoneを他社も扱うようになったことでアドバンテージが薄くなり、通信料金の高さや2年契約縛りに対する不満ばかりが目立つようになってしまった。そのためITに詳しい層がドコモのMVNO回線などに転出してしまう事態となった。

しかし、ソフトバンク不調の最大の原因は他ならぬソフトバンク自身にあるという。携帯電話ライターの佐野正弘氏が言う。

「国内の携帯電話事業に対する孫正義会長のやる気が、このところ薄れていたんですよ。日本の携帯電話ユーザーはほぼ飽和状態で、今後大きく数を増やせる見込みはない。だから米携帯キャリアのスプリントを買収してアメリカでの事業に乗り出したり、中国やインドの有望そうなインターネット企業に投資して上場益を生み出すビジネスのほうに孫氏の関心が移っているのです」

来春までに大きな地殻変動が?

確かに、最近の同社はドコモやKDDIの後追いのようなサービスしか打ち出せていない。ソフトバンクといえば、かつては業界の常識をぶち壊すような勝負を仕掛け、世間に大きなインパクトを与えてユーザーを増やしてきたのに、そうした暴れん坊ぶりはすっかり鳴りを潜めている。ITジャーナリストの石川温(つつむ)氏が語る。

「そこでテコ入れのため、携帯電話事業の新社長に孫会長の片腕だった宮内謙氏を据えたのですが、彼は営業畑出身。孫会長のようにどんどん新機軸を打ち出すタイプではないので劇的に何かが変わるとは…」

ではズバリ、6月の契約者数の動きは、三大キャリアの勢力図に地殻変動が起こる前兆?

「私はそうみますね。今後のカギになるのは、今年5月に始まったSIMロック解除の義務化と、9月発売と噂される新型iPhoneです。同機ユーザーを最も多く抱えているのはソフトバンクですが、彼らが9月に新型へ機種変更して半年たてば、新制度では手数料なしで解約して、新型のまま他キャリアやMVNOに移ることができるのです。その時にどういった動きがあるか。

キャリアやMVNOの側としては、流出を防ぐために囲い込み策を講じるのはもちろん、逆に流入を増やすため『前キャリアの解約時に支払う端末代の残債の一部、あるいは全部を肩代わりします』というところも出てくるかもしれません。そうなれば、かなり活発なユーザー移動が起こり、大きな地殻変動が見られそうです」(石川氏)

勢力図が書き換えられるのも面白そうだが、キャリア各社が以前のキャッシュバック並みの大盤振る舞いをしてくれるというなら、ユーザーとしてはありがたい。これは9月の半年後、つまり来年3月が待ち遠しい。