近年、「戦争」という言葉の定義が揺らいでいる。
インターネットなどのネットワークを介し、サイバー空間で相手にダメージを与える“戦場なき戦争”ーーいわゆるサイバー戦が常態化しているのだ。政府発表によれば、日本も2013年には500万件のサイバー攻撃を受けたという。
9月25日の米中首脳会談でも、この問題は“両国間の最大の懸案事項”として取り上げられた。情報セキュリティ大学院大学客員准教授の小林雅一(まさかず)氏はこう語る。
「今年6月、アメリカ連邦政府の人事管理局のサイトが中国のハッカーにハッキングされ、2千万人以上の個人情報が盗まれたことが発覚しました。この情報を他のデータとつき合わせることによって、中国国内に潜入しているアメリカのスパイ網が壊滅的なダメージを受けると懸念されています」
当然、米中両国はサイバー戦にかなり多くのリソースを割いている。
「アメリカは2009年、統合軍司令部傘下にサイバー軍を創設し、現在2千人以上がサイバー戦に従事。来年度にはなんと予算約1兆7千億円、人員規模も一気に6200人ほどの体制に拡充する見込みです。
一方、中国もサイバー戦を非常に重視しており、予算規模は不明ですが、1万人規模の専従者がいるとみられています。さらにSEやハッカーなどの“サイバー民兵”を加えれば、数万人という世界最大のサイバー戦部隊を有していることになります」(軍事評論家・古是三春[ふるぜみつはる]氏)
しかし、それと比較すると日本の現状は非常にお寒い。「防衛省は昨年1月に『サイバー防衛隊』を創設しましたが、隊員は約90人、年間予算は141億円。また今年1月には国家のシステム防衛を目指し、内閣官房にサイバーセキュリティセンター(NICS)が設置されましたが、こちらも従事者100人、予算規模は16億円程度というレベルです」(前出・小林氏)
一番怖いのは原子力発電所への攻撃
米中が予算1兆円だ、人員数万人だというのに防衛省はその100分の1の規模…。
しかも、従来のような情報漏れを狙った攻撃だけならまだいいが、今後は“実害”を伴うサイバー攻撃も予測されるという。小林氏が続ける。
「考えられるのは金融機関のシステムダウン、交通システムのまひ、電気や水道といったインフラへの攻撃。そして一番怖いのは原子力発電所への攻撃でしょう。数年前、ロシアで発生したダム爆発事件もサイバーテロだったとの見方があります」
国際法の整備も追いつかない中、サイバー攻撃は「やったもん勝ち」というのが現状。自分の身は自分で守るしかないのだが…。
(取材・文/世良光弘&本誌軍事班)
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