“打倒ロッシ!”を目標に開発された自動操縦ロボ・モトボット

昨年11月、NASAが火星探査用の人型二足歩行ロボット「ヴァルキリー」を開発したというニュースが話題となるなど、もはや“SFの世界”が“未来の現実”に変わろうとしている21世紀。

だが、ひと口に人型ロボットといっても、ホンダの「ASIMO」やソフトバンクの「Pepper」のように人とコミュニケーションを取るロボットに限らず、その活躍の分野は多岐にわたる。そんな人型ロボットたちの最前線にスポットを当てていこう。

まずは産業用ロボ。工場のラインなどで稼働することが多く、ロボットアームが主流の現場のため、形なんてどうでもいい…と思われがちだが、ここにだって立派な人型ロボットが存在している。

バイナスが開発した「'Duo'The RoboMeister」の特徴は、人のように2本の腕がある“双腕型”。薬品や化粧品分野の検体検査工程や電子製品などの組み立てを行なうロボットだ。

「本体に搭載されたセンサーやカメラを基に両手が協調動作を行ない、組み立てや搬送など、従来、一台のロボではできなかった作業を一手に担います」(バイナス担当者)

例えば、片方の腕で持ち上げた容器を器用に持ち替えたり、化学者のように容器に液体を注入したりと、その様子は工場の作業員さながら。

'Duo'The RoboMeister NEXTAGEふたつの腕が各部位と協調して作業を行なう、次世代人型産業ロボ。頭は飾りと思うなかれ! しっかりとセンサーが作動し、正確な作業をサポートする

カワダロボティクスの汎用ロボット「NEXTAGE」も同じく双腕型。こちらは頭部と手先のカメラで周囲の環境を見ながら動作するだけでなく、作業スペースがコンパクトに設計されているため、製造ライン上で人間と一緒に働けるような仕様。

まさに“同僚はロボット”という職場が実現してしまうとは…。価格は約740万円と高価だが、何年も働いてくれる“人手”と考えれば決して高くないかも。

続いては、一見、生産性はないように見える、けん玉ロボット。だが、人間でも難しい微妙な力加減を、この6軸ロボット「RV-4FL」はいともたやすくやってのける。

マシン上部にある2台のビジョンセンサーと力覚センサーによって玉の位置を補正し、見事に大皿に載せるのだ。このように、ロボットの技術はエンタメ分野にも応用されており、人間では不可能な驚くべきショーをする日もそう遠くなさそう。何しろ、今のロボットはバイクにだって乗れるのだから!

RV-4FL垂直多関節型ロボットである「RV-4FL」をエンタメに応用。けん玉は百発百中で成功というわけにはいかないが、このような遊び心から技術はどんどん進歩していくのだ

YAMAHAが開発中の「MOTO BOT(モトボット)」は“史上最高のライダー”と呼ばれるイタリアのオートバイレーサー、バレンティーノ・ロッシに勝利するために生み出された人型自律ライディングロボット。バイク自体は一般に市販されているものと全く同じで改造などもされておらず、ロボット自身が人間と同じように運転する。

「現状でも最高速度は時速100キロでスラロームや旋回走行もこなしますが、来年には時速200キロでのサーキット走行を実現し、将来的にはラップタイムでロッシを上回ることを目指しています」(YAMAHA担当者)

速度やエンジンの回転数、姿勢などの情報からステアリング、アクセル、各種ブレーキ、クラッチ、シフトペダルを操作し、自律的にドライブするというから驚きだ。

この挑戦で培った技術を、将来的には完全自動運転化に役立てるつもりだとか。

MOTO BOTバイクを乗りこなすロボとして、昨年の東京モーターショーで初公開され話題になった「MOTOBOT」。乗りこなすのは実際に売られている人間用のレース特化バイク「YZF-R1M」

ロボがアイドル界に新風を巻き起こす!

エンタメといえば、群雄割拠のアイドルシーンにもロボットは進出中。“世界初の卓上ロボットアイドル”とうたうのは、DMM.comから発売中の「プリメイドAI」

サーボモーターが25個も搭載されており、かわいい見た目からは想像できないほどのキレッキレなダンスを披露してくれる彼女たち。「自宅に劇場を造って、自分だけのためにアイドルが踊ってほしかった」(DMM.com担当者)という情熱のたまものだ。

ほかにも、数量限定でマンガ家の有坂あこ氏デザインによる「ゆかり」と、同じくマンガ家の佐久間結衣氏デザインの「マリ」もラインアップ。将来的には、3人(体!?)そろって、オリコンチャートをにぎわすなんてことがあり得るかも!?

プリメイドAIベーシックな「プリメイドAI」の身長は46.5cmとやや小柄だが、これを手に入れればいつだって自分のためだけにダンスを踊ってくれる。価格は13万8千 円+税

また、ロボットにかわいさを求めるなら、東芝の「地平(ちひら)ジュンこ」ちゃん。同社開発のロボット「地平アイこ」の2号機で、きめ細かな肌質やリアルな表情や仕草は美人OLと比べても全く見劣りしないほど!? しかも日本語、英語、中国語の3ヵ国語を操るトリリンガルと、まさに才色兼備!

「現在は、臨海副都心の『アクアシティお台場』にある、世界初のコミュニケーションアンドロイドによる観光案内所に東京都臨海副都心おもてなし促進事業の一環として常設されています。2020年の東京五輪では、訪れる外国人相手に観光案内をしてくれるはずです」(東芝担当者)

彼女に会いたい人は、すぐにお台場へ急げ!

地平ジュンこ身長165cmで「26歳」という設定を持つ美女型ロボ! 長女「アイこ」を姉に持つ次女という位置づけで、さらに現在は妹の三女・かなえが現在開発中とのこと

もちろん、かわいいロボットもいいけど、やっぱりカッコいいロボットに憧れるのが男ってもの。人間と協調・共存できるロボットシステムを研究開発する、国立研究開発法人NEDOが主導するプロジェクトの一環で、2003年に生み出された「HRP-2」と2007年登場の「HRP-3」は、そんなカッコいい系ロボットの代表格だ。

これらは『機動戦士ガンダム』や『機動警察パトレイバー』シリーズのメカニックデザイナー、出渕裕(いずぶち・ゆたか)氏がデザイン! シャープで硬質なフォルムが男心をくすぐる。その「HRP-2」は、すでに世に出ていた「ASIMO」に比べて動きの自由度が高く、二足歩行の人型ロボットにおけるプラットフォーム的存在となった傑作機。見た目がカッコいいだけじゃないのだ!

後継機である「HRP-3」はさらに複雑な作業が可能になった上に、関節軸部や電装実装部が防塵(ぼうじん)・防滴仕様となり、滑りやすい路面でも歩行が可能と多方面でバージョンアップ。日本の技術の神髄を見ることができる。

HRP-2 HRP-3メカニックデザイナー、出渕裕氏がデザイン。日本ならではのイカしたデザインだ。「HRP-2」には同氏が命名した「Promet」(プロメテ)という愛称もある

パワードスーツも大進化中!

一方、ロボットと並んで、SFのもうひとつの定番である強化スーツだってスゴイ! アクティブリンクが製品化している「AWN-03」は、体幹の動きに合わせてモーターを回転させることで作業者の腰への負担を軽減させた、実用的なパワーアシストスーツ。重い荷物を軽々持ち運べるので、特に物流現場での活躍が期待されている。

同社は脚力を増幅する「PLL-01」や『エイリアン2』に登場した搭乗型人型フォークリフトのパワーローダーなどもリアルに開発中。こうしたアシストスーツは災害現場での使用が見込まれる。

AWN-03これがあれば重量物の揚げ降ろしも体に負担が少なくラクラク。さらに上体を保持して搬送を補助するなど、自動で動作に追従してくれるスグレモノ。企業向けにレンタルもしている

だが東日本大震災での被害のように、人間が立ち入れないような危険な場所での作業が必要となったら、やはりロボットの力を借りたいところ。そんな時のための災害対応ロボットも着々と開発が進められている。それが前述の「HRP-2」をベースにする「HRP-2改」「JAXON(ジャクソン)」、そして世界で最も人に近い可動部位を持つ「HYDRA(ハイドラ)」だ。

「『HRP-2改』は従来機のコンピューターシステムやモーターなどの部品を一新し、作業能力がさらに上がっています。また『JAXON』は人間と同じようなスピードとパワーを出せるように設計されており、オーバーヒート対策で内部を通るパイプに水を流して冷やす工夫もしています」(NEDO担当者)

この2体に比べると「HYDRA」はさらにゴツい。

「これは首以外の40関節すべてに、油圧アクチュエーターというパワーショベルなどで使われる装置を採用していて、バランスを失いやすいほかの2体と違い、外圧を受け流すことに長たけています」(NEDO担当者)

この3体は、昨年12月に開かれた「国際ロボット展」で初披露され話題になった。

「『HRP-2改』と『JAXON』は仮想災害現場で障害物をどかす、ドアノブやバルブを回すなどのデモンストレーションを行ない、多くの方からの反響を受けました。まだ実際に災害現場で仕事をするには及びませんが、研究の成果は見せられたと思います」(NEDO担当者)

人型ロボット開発には、莫大(ばくだい)な時間と費用が必要。だが、いつかきっとロボットが人の命を救う、そんな世界が実現するはずだ。

JAXON HRP-2改災害対応人型ロボットとして現代の技術が結集されたヒューマノイド。産業技術総合研究所が「HRP-2改」を、東京大学の稲葉・岡田研究室が「JAXON」を開発している

(取材・文/武松佑季、昌谷大介(A4studio) 撮影/下城英悟)