「ニミッツ級空母」1975年から2009年にかけて建造され、世界最強の米海軍の象徴となった10隻の大型原子力空母シリーズ。長距離&長期間の作戦行動が可能で、乗員3200名、航空要員1700名、航空機70~90機を搭載できる

大型空母の君臨、ステルス戦闘機の衝撃、原子力潜水艦の脅威、最新型戦車の破壊力、そして超ハイテクな無人兵器へ――。

この50年間、軍事の世界では常に「衝撃の新兵器」が生まれ、国際情勢を動かしてきた。創刊から50周年、いつも時代の新潮流を追い求めてきた週プレが、その歴史を再検証する!

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【1966-1975】 ドロ沼のベトナム戦争が変えた冷戦のパラダイム

■重厚長大な兵器から「使える」兵器へドロ沼化したベトナム戦争で西側陣営の強国アメリカがつまずき、旧植民地の「民族解放運動」と結びついたソビエト連邦(ソ連、現ロシア)率いる東側陣営が兵器の質・量ともに優位に立った時代。

独自のドクトリンを推し進めるソ連が次々と新しいコンセプトの兵器を生み出す一方、アメリカの重厚長大な兵器は対ゲリラ戦になるとひどく効率が悪く、大きな方向転換を余儀なくされた。

「核戦争を含む国家同士の正規戦に特化した、カタログスペックに重きを置いた兵器から、対ゲリラ戦、対テロ戦まであらゆるレベルの戦いで『使える』兵器への転換です。

この時期に登場した兵器は、50年近くたった今も改良されながら第一線で活躍しているものが多数。後に開発される兵器も、大半はこれらのコンセプトをなぞって発展させたものです」(軍事アナリスト・嶋田久典氏)

現代兵器の礎は、この時期につくられたと言っても過言ではないのだ。

【1976-1985】 エスカレーションする対立

■戦場のデータを活用する兵器の登場冷戦の激化は兵器の高威力化を推し進め、東西両陣営は高コストをいとわず開発合戦をエスカレートさせた。とりわけ軍拡路線に拍車をかけたのが、81年に就任した米ロナルド・レーガン大統領が打ち出した「スターウォーズ構想(SDI)」だ。

「従来型兵器を大量に投入するだけでなく、戦場情報の分析・活用が進んだのがこの時代です。精密誘導による“ハチのひと刺し”を狙う兵器も登場し、82年のフォークランド紛争では、イギリス海軍の駆逐艦が、アルゼンチン海軍機のエグゾセミサイル一発で沈められました」(軍事評論家・菊池征男氏)

一 方、ソ連では莫大(ばくだい)な軍事技術開発費、そして79年のアフガン侵攻がドロ沼化したことによる戦費の高騰が次第に国家経済を圧迫。東西の力の均衡が崩れ始めたことにより、イラン・イラク戦争(80年~)など、内戦や紛争が世界中で頻発し始めた。ソ連崩壊(91年)へと続く“時限爆弾”は、この時期にセットされたといえるだろう。

米空軍が初めて実用化したステルス機。レーダー波の反射をそらす形状を重視した設計で、飛行中はコンピューターが姿勢を自動制御。湾岸戦争とコソボ紛争で爆撃作戦に従事したが、運用コストが高く、2008年に全機が第一線を退いた 「F‐117ステルス攻撃機」(1983)

非対称化する戦場9・11と対テロ戦争

【1986-1995】 冷戦終結と湾岸戦争ハイテク兵器の時代へ

■湾岸戦争に圧勝したハイテク兵器の衝撃85年にソ連共産党書記長に就任したミハイル・ゴルバチョフは従来の米ソ対決姿勢を改め、アフガン撤退、東欧諸国の民主化容認、核兵器削減を次々と実現。そして89年12月、米ソ首脳が地中海のマルタで会談し、ついに冷戦が終結した。

だが、世界を覆っていた重い空気が晴れたと思ったのもつかの間、2大国の支配というタガが外れた世界では紛争が頻発。その最初のピークが、90年8月のイラクによるクウェート侵攻に端を発する湾岸戦争だ。

「それまで、軍事の世界では『たとえ個々の兵器の性能が劣っても、数の力があれば拮抗(きっこう)できる』というのが常識でした。ところが、この湾岸戦争ではアメリカを中心とした14ヵ国からなる多国籍軍が、レーザー誘導爆弾やGPSといったハイテク技術を投入し、圧倒的なワンサイドゲームとなったのです」 (前出・菊池氏)

以後、各国の軍は、ハイテク兵器とそれを支えるバックボーン技術の整備に邁進(まいしん)していく。

米軍がボスニア紛争で初めて実戦投入した中高度長時間滞空無人機。ヘルファイア対地ミサイルを搭載した攻撃型「MQ-1」もある。現在では人工衛星を利用したリレー通信で、地球上どの地域でも米本土から操縦できる 「RQ-1無人機」(1995)

【1996-2005】 非対称化する戦場9・11と対テロ戦争

■各国から流出した兵器がテロリストへわずか1ヵ月半でカタがついた湾岸戦争、そして91年末のソ連崩壊を経て、アメリカ一強体制の下で世界は平和を取り戻すはずだった。各国は“平和の配当”と称し、冷戦期に膨張した兵力の削減を進めた。

「かつてのようなカネに糸目をつけない兵器開発は鳴りを潜め、コストパフォーマンスに優れた兵器を中心とする再編が各国で行なわれました。ところが、こうした流れのなかで行き場を失った“余剰兵器”は裏で大安売りされ、紛争地に流入。戦いを激化させたばかりか、次なる火種を提供することになったのです」(前出・嶋田氏)

そして、2001年9月11日にアメリカを襲った同時多発テロ、03年3月に始まったイラク戦争で世界は一変。湾岸戦争以上のハイテク戦でイラクのフセイン政権は倒したものの、アメリカはその後の占領政策でつまずき、過激派組織の捨て身のテロ攻撃に悩まされた。これが世界中のテロリストを刺激し、活動を活発化させてしまう……。

米陸軍の再編計画の一環を担う緊急展開部隊用の装甲車両。ピラーニャ装甲車ファミリーの「LAV-Ⅲ」をベースとし、多様な任務に対応する。105mmライフル砲や40mm擲弾発射器などを搭載したバリエーションもある 「ストライカー装甲車」(2002)

米中“新冷戦”と激化するテロ

【2006-現在】 米中“新冷戦”と激化するテロ

■中国の台頭とロシアの復活で“新冷戦”へ中東でつまずいたアメリカが疲弊していく一方、ソ連崩壊から立ち直ったロシアと世界第2位の経済大国となった中国が、それぞれの立場から従来の世界秩序に対して挑戦を始めた。

「軍事大国化した中国は、西大西洋への海洋進出に本格着手。かつてのような人海戦術ではなく、海・空軍における精強部隊の育成と、サイバー空間という“新たな戦場”での攻勢を軸に、アメリカへの対抗心を隠そうともしません。

そして、ロシアはその中国と連携しつつ、しばしばアメリカやEU諸国との“対極”を形成。世界は“新冷戦”の時代に入ったといえるでしょう」(軍事評論家・古是三春[ふるぜ・みつはる]氏)

こうした大国の思惑が交錯するなか、シリアやイラクなど国家秩序を喪失した地域での非正規戦は激化。さらに、核開発と弾道ミサイルに体制維持をかける北朝鮮、IS(イスラム国)をはじめとする過激なテロ勢力の拡散など、世界は先の見えない混沌(カオス)に覆われている―。

★続編⇒「核兵器に代わる抑止力に? 軍事戦略を大転換させる最新兵器の進化」

最大37.5tの貨物を搭載でき、旅客機と同等の巡航速度を持つC-1輸送機の後継機。C-1が2.6t搭載時で約1700kmだったのに対し、このC-2は12t搭載時で約6500kmと、航続距離も飛躍的に向上している 「F-35ライトニングⅡ戦闘機」(2015)

(取材・文/世良光弘&本誌軍事班 写真/笹川英夫 ボーイング ロッキード・マーチン ロシア航空機製作会社ミグ スホーイ・カンパニー レイセオン MBDA サーブ Franck Dubey 米海軍 米海兵隊 米空軍 米国防総省 米海洋大気庁 イスラエル国防省 防衛装備庁)