トランプ氏が勝利をおさめた米大統領選の裏で、ロシアンハッカー集団が暗躍していた!?
『週刊プレイボーイ』本誌で「石川英治のホワイトハッカーなんでも相談室」を連載中のホワイトハッカー・石川英治が、ロシアンハッカーの実態について解説する!
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米大統領選挙が大詰めの10月下旬。『ウォール・ストリート・ジャーナル』の電子版が衝撃的な記事を配信した。
そこには大統領選中にロシアのハッカー集団がクリントン陣営と民主党全国委員会(以下、DNC)に対してサイバー攻撃を行なっていたというもの。
―石川さん、これはいったい?
石川 ロシアのハッカー集団がDNCのサーバーに侵入し、メール約2万通を盗み出したという事件についてですね。
―大流出事件じゃないですか!
石川 盗み出された情報は、民主党内の選挙委員同士のメールやチャットなどのやりとり。なかには民主党がトランプ大統領を調査した情報もあったそうです。
―すご腕のハッカーの正体はどんなヤツらなんですか?
石川 侵入したのは、ロシアの諜報機関と関係があるといわれる「Cozy Bear」と「Fancy Bear」という集団です。実は私、「Fancy Bear」に知り合いがいましてね。
―つーか、アンタもグルか! FBIさん、コイツですっ!
石川 違う、違う! ちょっとした知り合いだから。このハッカー集団がロシア政府とどんな接点があるのか聞いただけですよ。
―で、取材の結果は?
石川 「Fancy Bear」の言い分ですと、「『Cozy Bear』は政府の手先だ! うちは無関係!!」ということでした。でも、お互いに「あいつらは政府の手先だ!」と言い合っている連中なので、結局真相は闇の中ですね。
“○○Bear”は、悪い意味で信頼と実績の証
―ところで、どうしてどっちも“○○Bear”なんですか?
石川 ロシアではペットとしてクマを飼う家庭も多く、野良クマを見かけることも珍しくない。日本人が考える以上にクマが身近な存在なんです。それもあって“○○Bear”と名乗る集団が多いんです。
―ほかにもクマさん集団が?
石川 以前、スイスで監視カメラメーカーがサイバー攻撃を受けて、監視カメラ用アプリをウイルス付きに置き換えられた事件がありました。この実行犯も「Energetic Bear」というロシアのハッカー集団でした。また、彼らはアメリカのエネルギー関連企業にも攻撃を仕掛け、電力障害を発生させようしたこともあります。
―なるほどー。“○○Bear”は、悪い意味で信頼と実績の証(あかし)なんですね。では、このような事件は国内でもあったりするのでしょうか?
石川 今年の2月に、国際的ハッカー集団「アノニマス」を自称した少年がウイルスを収集して送りつけるための予行演習をしていたことで書類送検されました。現在、国内では正当な理由なくウイルスやハッキングツールを所持しているだけでも罰せられるようになっています。
このような現状では、それこそ“○○Bear”と対峙(たいじ)する有能なホワイトハッカーが育つ環境が、どんどん失われてしまうような気がしますね。
●石川英治(いしかわ・ひではる) 1969年生まれ。現役の“ホワイトハッカー”で、ネットワーク犯罪評論家。不正アクセス禁止法の施行(2000年2月13日)以前は、バリバリのハッカーとしてやんちゃなことも