“現代の魔法使い”落合陽一氏(右)と『ギズモード・ジャパン』斎藤真琴氏(左) “現代の魔法使い”落合陽一氏(右)と『ギズモード・ジャパン』斎藤真琴氏(左)

『週刊プレイボーイ』で短期集中連載中、“現代の魔法使い”落合陽一の「未来教室」。最先端の異才が集う最強講義を独占公開!

落合陽一をゲスト編集長に招いたこともある先鋭的なテクノロジー情報サイト『ギズモード・ジャパン』。斎藤真琴は東京大学工学部在学中からこの編集部でアルバイトを始め、卒業と同時に編集者になった。その経歴からも推察されるように、一般書から科学の専門的な文献までをカバーする読書力と高いリテラシーが斎藤の武器で、落合は初めて彼女のインタビューを受けた時の感銘をこうふり返る。

「ふつうに僕の論文を読んで来てくれたから、すごく話しやすかった」。

「編集は天職」と自負し、現在はギズモード・ジャパンのみならず、新たなデジタルカルチャーメディア『FUZE』でも活動する25歳の敏腕編集者が、「トランプ現象」を軸に、旧来のメディアに代わって大きな影響力を持つようになったソーシャルメディアの面白さと危うさ、そしてAI(人工知能)が活躍する近未来の編集職について語る。

前編に続き、白熱する今回は…。

* * *

落合 じゃあ、ポピュリズムについてどう思いますか?

斎藤 米大統領選の結果について、立場とか関係なく、超個人的に言えば、悲しいなと思います。「正しさ」ってやっぱりあって、人のことを傷つけるなとかですね。そういうものがポピュリズムに負けたっていうのは、なんかすごく悲しい

落合 あれは自らを律する心よりも、快楽的なもののほうが勝ったってことなんだよね。

斎藤 トランプの発言に傷つく人がいるとか、彼が当選することで傷つけられる人がいるとか、そういうことが明らかなのに。富裕層ならより金が儲かるとか、白人男性たちは自分のいらだちが救われるとか、少し税金や医療負担が軽くなるとか、そういう利己心に負けたんだと思います。

最後、(一部の有権者が)ウソついてたじゃないですか。世論調査で「ヒラリーに入れます」って、そこまで体裁繕ったくせに、投票ボックスの前では負けたんだなと思うと、すごく悲しい

落合 なるほどね。人間が持つ原初的な感情に従っていって、イヤなものからは目を背け、それがどんな結果を生むかというのは関係ない…っていうスタンスがポピュリズムのコアだと思うんだけど。そこはインターネットメディアの登場でだいぶ助長されてきたなあとは思っています。

斎藤 そうですね、ウェブメディアって今でもやっぱりPV主義で、正しいものよりも、人気なものが手堅く儲かる。

斎藤氏が想像する「よき21世紀人」とは?

落合 でね、「人って流されちゃいけないのかなあ」っていうのに興味があって。20世紀までは、羊飼いによって人類が飼われていた時代だと思うんですよ。つまり、エスタブリッシュメントとか呼ばれる一部の先導者が棒を持って、「そっちいっちゃだめよ~」とか言って囲い込むっていう。それが“映像の時代”。

ところが今はサーフィンみたいな時代で、羊飼いも流路を調整できないような、もっと液体的な流れになってきたなと思っていて。そういう流れのなかで、真琴ちゃんが想像する「よき21世紀人」ってなんですか?

斎藤 よき21世紀人?

落合 そう、周りに流されるべきかどうか、とか。

斎藤 そうですね…人は、流されましょう。でも、社会がそれで雪崩(なだれ)みたいにバーッと行っちゃうと大変なので、選挙とかは全部botにやらせる(笑)

落合 だよね。

斎藤 自分のAIにやらせるとか。

落合 そう思うよね。要は、どこにバイアスがかかるかわからないものについては、人間の脳で決めないほうがいい。それは僕もけっこう同意です。

ちょっと話を変えて、今年の8月にギズモード・ジャパンが立ち上げた『FUZE』でも仕事してるんだよね。そこでは何を担当してるんですか?

斎藤 最近担当したのは「アルスエレクトロニカ」(オーストリアで毎年開催される先進的なメディアアートの祭典)の特集。あんまり“イベント切り”ってやらないんですけど、これはやりました。

落合 何が面白かったですか?

斎藤 展示で面白かったのは『ビハインド・ザ・スマートワールド』ですね。

落合 あれ、めっちゃ面白かったね! ハードディスク漁ってくるやつでしょ?

斎藤 はい。簡単に説明すると、アフリカにハードディスクを捨てるところがあるんですよ。パソコンとかってリサイクルするとお金がかかるので、安い料金でアフリカの業者に頼んで捨てちゃう人がたくさんいて。で、そこで働いてる子供たちは、水銀とかに触るから20代くらいでかなり亡くなっちゃうんですよね。がんとかで。

そういうゴミ捨て場から、アーティストがハードディスクをいくつも拾ってきて、それを勝手に復元して、中に入ってた写真を展示してるっていうエモいアートなんです

アートと犯罪の境目

落合 ヌードとか自撮りとか出てきて面白いんだよね。

斎藤 そうそう。その元所有者の個人情報も突き止めて、その人にメールを書くんですよ。「あなたが非正規ルートで捨てたハードディスクを復元した者です。あなたのことを教えてほしい」みたいな手紙を書く。そういうところまで含めてアートっていうことですね。

落合 うちの研究室も展示とかしてたんですけど、今回のアルスでは、いわゆる「社会派」と受け取られるような作品と、形や表現技法を追求する作品との間のギャップがわりときれいに埋まって、全体としてなめらかな展示だったなって思いました。要はサイバーでギークなものから、いわゆる文化性の高いものまでいろいろあって面白かったな。

斎藤 賛否両論湧くのがやっぱり面白いですね。これの記事を日本で公開した時に、意外だったんですけど、「それ犯罪じゃん」みたいな反応が多かったんです。「えっ?」って。この作品に対して最初に思うことがそれなんだ、ってびっくりしました。日本には意外と「社会通念上正しい」のを求める人がいるんだなあ、と

落合 あー、なるほどなあ。

斎藤 アートとして受け入れる前に、まず「犯罪じゃん」ってシャットアウトしちゃう人がすごく多い。

落合 それは非常にポピュリズムと近いですね。アルスってすごくヨーロッパ的なフェスで、ヨーロッパ人はアートと自分の間に一枚の壁を作ってから話をするんですよ、だいたい。文化っていうフィルターで見るから、どんなヤバいことがそこで起こっていても、これはアートだからOKという目線が存在する。

一方、アメリカ人にアートを見せると、クールかクールじゃないか――要はエモいかエモくないかっていう判断基準で見るので、それはそれでまた面白いんだけど。

確かに日本人の場合は、社会の常識と自分がオーバーラップするところは譲らないから、そういう反応するっていうのは面白いな。

斎藤 面白かったです。

みんなbotみたいになっている

落合 ところで、2016年はどういう時代でした? そろそろ年の瀬だし、真琴ちゃんが見た2016年を聞いてみたいな。

斎藤 今年は結構、外部の人と関わることが多かったんですけど、やっぱり、みんな自分の意見がなくなっているのかなっていうのはすごく感じますね。「どう思う?」とか聞いても、「いやー、うーん、あー」みたいな感じで、好きか嫌いかも教えてくれないみたいなのがあって。なんかどんどん、いい意味でも悪い意味でも、みんなbotみたいになってるのかなって

落合 それは俺もね、大学で講義してるとすげえ思う。「これ、○○だと思う人」っていうと、手を上げる人は10%くらいで、次に「じゃあ××だと思う人」っていうと20%くらい上がるんだけど、残り70%の人はそもそもわからないのか、興味がないのか。主たる意見の表明っていうものをあんまりしないなあ、としょっちゅう感じます。

斎藤 人間はそういう風に変わってきたなあ…というのはちょっと思いますね。

落合 これは僕が2014年くらいに持っていた世界の展望を、自分なりに修正せざるをえないところなんですけど。以前は、もっと多様な意見にあふれる世界になると思ってたんですよ。でも、ならなかった。意見だけじゃなく、「知りたい」って思う気持ちも年々減ってきていると思う

斎藤 やっぱり皆さん、楽なほうに流れると思うんですよ。例えば、記事を一本全部読むのはしんどいし、ゲームしてるほうが楽だから。

私たちはそういう人たちの暇を奪いつつ、好奇心を刺激するような記事を発信していきたいと思っています

◆「#コンテンツ応用論」とは? 本連載は筑波大学の1・2年生向け超人気講義「コンテンツ応用論」を再構成してお送りします。“現代の魔法使い”こと落合陽一助教が毎回、コンテンツ産業の多様なトップランナーをゲストに招いて白熱トーク。学生は「#コンテンツ応用論」付きで感想を30回ツイートすれば出席点がもらえるシステムで、授業の日にはツイッター全体のトレンド入りするほどの盛り上がりです。

●落合陽一(おちあい・よういち) 1987年生まれ。筑波大学助教。コンピューターを使って新たな表現を生み出すメディアアーティスト。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学大学院で学際情報学の博士号取得。「デジタルネイチャー」と呼ぶ将来ビジョンに向けて研究・表現を行なう。現在マレーシア・クアラルンプールで初の大規模個展を開催中

●斎藤真琴(さいとう・まこと) 1991年生まれ、岡山県出身。2015年3月に東京大学工学部卒業後、株式会社メディアジーンに入社し、学生時代からアルバイトとして働いていた『ギズモード・ジャパン』編集部に所属。16年8月からデジタルカルチャーメディア『FUZE』にも携わる

(構成/前川仁之 撮影/五十嵐和博)