先月、SNSがざわついた。女子たちに大人気のアプリ「SNOW」を復元させるアプリが開発されたというのだ。
SNOWは認識された顔に小動物の耳や鼻などが加えられ、さらに美白や目の拡大など、様々な加工が施される自撮りアプリ。どんな顔でも(?)カワイくなれるため、女子たちがこぞってSNSにアップしたことで爆発的な人気を得た。
しかし、東京理科大の学生であるちっちさんが、その加工を元に戻すアプリを開発。それをTwitterで報告するや、瞬く間に拡散されたというわけだ。結局、復元アプリはリリースされなかったが、「すばらしい!」「面白過ぎ!」「有料でも買う!」など絶賛する声が相次いだ。
そこで、彼はなぜこのアプリを作ったのか…そして、なぜ公開することなくお蔵入りにしてしまったのか? 本人を直撃した。
―復元アプリのツイート、すごく反響がありましたね。男性からは好評だった印象ですが、女性からはやはり批判も多かったんですか?
ちっち いえ、特にはなかったです。「すごい」「ヤバイ」といった感想はありましたけど、非難されるようなことはありませんでした。
―そもそも、どうして作ろうと思われたんですか?
ちっち 暇つぶしです。大学の卒業も決まって就職するまで暇なので。あと、『おっさんのゥチのアンパンマン』っていうWEBマンガも描いてたり、CG作ったり、モノ作り自体はよくやってます。
―WEBマンガは何年か前からSNSで拡散されてますよね。まさか、その作者でもあったとは。
ちっち あれも元々、続きを描くつもりはなかったんですけどね。反響がそこそこあって、暇だったので描きました。ちなみに先日やっと完結しました。
―ただ、開発報告のツイートには「よっしゃ~これで大儲けだ。震えて眠れ豚ども」とありましたよね。暇つぶし以外にも意図はあったのでは?
ちっち 幻想に依存してる人が多いんですよ。以前、他の人がやってたニコニコ動画でミスコンみたいなことをして写真を募集したら、7割ぐらいの人がSNOWを送ってきていて、観てる自分もふざけんなと思ったりしました。SNOWの画像がまるで自分かのように思ってる人が多いんですよ。あれって“美人のお面”をつけてるのと一緒じゃないですか。
―それは本人バレしたくないからとかではなく?
ちっち いえ、単純に自分を良く見せたいからですよ。知り合いでも「今日盛れたんだー」って感じでSNOWの画像を送ってきたり、SNSにアップしてます。もう加工された状態が普通になってるんですよね。そこに違和感というか嫌悪感があったんです。
“偽り”のネット社会に一石投じた
―なんかこじれているような気がしますけど、なぜそんな状態が嫌なんですか?
ちっち 女性に対してとかじゃなくて、偽りの評価とか嫌いなんですよ、過大評価とか。SNOWとか、まさにそれじゃないですか。それで投稿して周りの人からカワイいとか言われて、真に受けちゃって調子乗っちゃうコいるじゃないですか? 大多数そうなんですけど。
―特に今はそれが蔓延(まんえん)していると。
ちっち 見合ってない評価をされてる人や、されたいと思う人は多いですね。ネットって現実世界より何倍も評価されるんですよ。過大評価される側もその優越感に依存しちゃって、余計、評価する側もヒートアップしていってると思います。僕もそういうタイプっていえばタイプだと思っていますけど。
―それが自覚なく、気軽に浸透しちゃっているわけですね。そこに一石投じた手応えはありましたか?
ちっち まぁあります。SNOWを自分の顔のように使う人が減ればいいなって、半分脅しみたいな感じでやったんですけど、賛同の声が多くて嬉しかったですね、「あぁみんな同じこと思ってたんだな」って。
―であれば尚更、公開しなかったのが悔やまれるというか不思議です。
ちっち 精度の問題が大きいですね。世に出すなら、ちゃんとしたクオリティでと思ってたんですけど、ジョークアプリのようになってしまったので。実際、ツイートしたほうの復元した画像も、本来よりもブサイクになってしまってるんですよ。
―それは意外ですね。
ちっち きれいな人ほど精度が落ちるんです(苦笑)。ツイートを投稿した段階では「こんなもんじゃね」って感じだったんですけど、後からモデルの実物を見直した結果、結構違ってて自信失ったんですよ。
―人によって精度が変わってしまうということですか?
ちっち そうです。だいたい65%くらいは復元できたんですけど、カワイいコだと本当にひどい時は10%くらいの精度でしたね。
復元アプリの精度を比較
―そんなに違うんですか!?
ちっち SNOWの核にあるデータを読み取って元に戻してるわけじゃないんですよ。ざっくりいうと、SNOWによる加工は、変換結果が概ね一律なので復元に求められる変化率が写真によって違うんです。10変わる人がいれば1変わる人もいる。
今回の復元アプリは、加工前後を比較して、目の拡大率や顎(あご)のラインなどの平均をとって一律で戻しているだけなので、人によって変化が違うんですよ。
―それがクリエーターとしては許せなかったと。
ちっち あとはアンチの存在ですね。画像の許諾も取ったし、法的になんの問題もないんですけど、2・3人、法律違反だとか騒いでいて学校にも通報されたんですよ。それで教授から呼び出されて…。別に怒られたりはしていないんですけど、かなり大ごとになったので一応事実確認ということで。呼び出された時は深刻な感じだったんでビックリしましたけど(笑)。
―そういうことだったんですね。では今後、公開することもない?
ちっち そうですね。これ以上、精度を上げるのも無理ですし、プログラミングが好きなわけでもないですし。でも、主に絵だと思いますけど、いろいろな創作はしていこうと思います。
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ちなみに復元アプリに対して、本家SNOWもTwitterで容認するようなリアクションを示した。しかし、「復元アプリに関しまして弊社のイメージとは異なる」とコメントはもらえなかった。
(取材・文/鯨井隆正)