今年2月度のスマホ売り上げランキングで、アップル製以外の端末では最上位の6位と健闘した「P9 lite」

“中国の巨人”が、日本のスマホ市場でもじわじわと存在感を増している。格安スマホ人気の追い風を受け、今やキャリアショップを除く家電量販店とネットショップでの端末販売実績はアップル、ソニーに次ぐ第3位。

これまで中国、韓国の家電は日本市場で不人気だった中、また一部では端末の情報セキュリティへの不安の声も囁(ささや)かれるが、今後もァーウェイ(華為)の躍進は続くのか?

■巨額マネーで技術力は日本メーカー以上

中国の通信機器メーカー、ファーウェイのスマホが、日本で売れまくっている。

全国の主要家電量販店、ネットショップの実売データを集計したBCNランキングによれば、2016年12月のスマホ国内シェアにおいて、アップル、ソニーモバイルに次ぐ3位にファーウェイが躍進。

さらに今年2月度の機種・容量・キャリア別の国内スマホ売り上げでは、iPhone勢が幅を利かせるなか、アップル製以外では最上位の6位、同時にトップ10内では唯一のSIMフリー機として、同社の「P9 lite」がランクイン。破竹の勢いを見せているのだ。

携帯電話ライターの佐野正弘氏が語る。

「そもそもは大手キャリアの寡占(かせん)と通話・通信料金の高止まりを緩和すべく、昨年総務省が端末を0円で販売することを禁止し、MVNO(仮想移動体通信事業者)の競争力を高める方針を打ち出したことが、大きなきっかけとなりました。これにより、MVNOのサービスが利用しやすいSIMフリー機の市場が一気に拡大したのです」

なかでもファーウェイの端末に人気が集中しているのには、理由がある。

「現在、日本におけるファーウェイ端末の主力は、ビジネスマン向け大画面フラッグシップ機『Mate』、デザインやカメラ重視のハイエンド機『P』、手頃なミドルレンジ機『nova』、ネット販売限定の『honor』の4シリーズ。

Mate、P、honorはデュアル(ふたつの)カメラを搭載して被写体の背景をぼかせる面白い機能があり、novaは若い層向けに自撮り機能が充実しているといった具合に、それぞれ強い個性を打ち出しています」(佐野氏)

SIMフリー機を投入している国内外の他メーカーに比べ、品ぞろえが豊富なのだ。「しかもコスパが抜群にいい。8万円以上するiPhoneに勝るとも劣らない機能を持ったMateやPは5万から6万円台、novaやhonorは4万円前後で手に入れられますからね。さらに、質感や信頼性も高い。売れるのは当然ですよ」(佐野氏)

アメリカで発覚した“安全性”の問題は!?

ただ、これまで日本市場では、サムスンのGalaxyに代表されるように、中国や韓国のメーカーの製品だというだけで敬遠されてきた過去がある。その前例がなぜファーウェイには当てはまらなかったのだろう。ITジャーナリストの石川温(つつむ)氏が言う。

「日本におけるGalaxyは、メーカーのロゴこそ消していたものの、世界的に有名な韓国のサムスン製ということが広く知られているため、今に至るまで日本市場では苦戦しています。しかしファーウェイは、もともとブランド自体が日本でサムスンほど知られていない上、中国色を前面に打ち出してもいない。その一方で、昨年末にはクールな雰囲気の街頭体験イベントを行なうなど、巧みなイメージ戦略を仕掛けて、うまく“地雷”を避けています」

それでも、その正体はパクリ体質丸出しの中華ブランドなんでしょ、と意地悪な見方をする向きもあるが…。

「その点は否定できません。昔は技術にせよデザインにせよ、他社製品を平気で模倣していました。今も日本以外の国でファーウェイが展開している自社キャッチコピーは、キヤノンのそれとまったく同じ『make it possible』だったりするし(笑)」(石川氏)

ただ、そんな悪癖は急速に改まりつつあるのだとか。

「日本では携帯端末のメーカーという印象が強いファーウェイですが、基幹事業は世界第2位のシェアを誇る携帯基地局設備。こちらの分野で巨額の収益があり、端末の開発にも潤沢に資金を投入しているので、独創性も獲得しつつあります。

Pシリーズなどの目玉機能であるデュアルカメラは、ファーウェイが世界でいち早くヒットさせたもので、アップルら他社が後追いし、今やスマホ業界の最新トレンドです。正直なところ、技術力ではすでに日本の携帯メーカーを抜き去ったといえるでしょうね」(石川氏)

■アメリカで発覚した“安全性”の問題は!?

では、安全性はどうなのか? 12年にアメリカ下院で、ファーウェイの部品が組み込まれた通信・電子機器が政府、軍、民間企業のシステムを破壊したり、データ傍受を行なっている恐れがあるとの報告がなされ、それが引き金となって同社は米市場から撤退したはずだが……。

「あれはファーウェイの創業者が中国人民解放軍のOBであることから浮上した疑惑なのですが、結局、米下院は具体的な証拠を示せませんでした。それに当時、問題視されたのは同社の端末ではなく、基地局設備。

また、端末にせよ基地局設備にせよ、スパイ機能などを仕込んでいたら専門家にすぐにバレてしまうし、もし本当に不正を働いていることが明るみに出たら、世界を相手にしている商売が立ち行かなくなってしまうのですから、そこまで愚かなまねはしませんよ。しかも現在、同社の端末は米市場に再参入していますしね」(佐野氏)

となれば、考えられるマイナス要素はない。ズバリ、ファーウェイは買いですか?

「どうしてもiPhoneでなきゃとか、おサイフケータイや防水といった日本的機能が絶対必要といったこだわりがなければ、誰が使っても満足でしょう」(佐野氏)「『P9』は昨年、日本のスマホ記者たちの投票で決まる『スマートフォン・オブ・ザ・イヤー』を受賞しました。P9に限らず、ファーウェイはどのシリーズもよくできているので、SIMフリー機の中では安心してオススメできるメーカーです」(石川氏)

知らぬ間に日本のスマホ市場の一大勢力となりつつある“中国の巨人”ファーウェイ、恐るべし。