『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが全世界で拡大するストリーミングサービスの背景について語る。
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全世界でライブストリーミング市場が急拡大しています。英BBCの報道によると、アメリカでは18歳から34歳の若年層の6割以上がライブストリーミングを視聴し、かつ4割以上がなんらかの配信をしているそうです。また、中国のエンターテインメントライブストリーミング市場もすでに約7300億円にまで拡大。2021年までに、世界全体の市場規模が700億ドル(約8兆円)になるとの予測もあります。
その背景には、スマホのコモディティ化、通信インフラの整備、その他もろもろの技術革新により、C to Cの動画配信がかつてないほど“お手軽化”したという事情があります。僕は約20年前、脆弱(ぜいじゃく)なインフラとCPUをフル稼働させ、まるでヒマラヤ山脈の山頂同士を糸電話でつなぐような“綱渡りの動画配信”をして興奮していた記憶がありますが、まさに隔世の感があります。
当時は、ITリテラシーが異常に高いギーク層だけが動画配信を嗜(たしな)んでいました。しかし、今や猫も杓子も動画を手軽に生配信でき、世界中の人がそれをストレスなく視聴できる。これほどの「革命」は、しばしば混沌をつくり出します。プチ炎上くらいなら自己責任でいいと思いますが、10代のポルノ、ストーカー被害、自傷行為や自殺の実況など、あらゆる“負のプライバシー行為”が個人の承認欲求のタネになったり、時には収入源にもなる状況を「それも時代の進歩だ」と能天気に見過ごすことはできないでしょう。
そして、僕が特に恐れているのは、この“人類総配信時代”が世論や人々の意識を歪めていくことです。ユーザーに「場」を提供している新興のネット系メディア企業は、往々にして社会的・道義的責任について極めて無頓着だからです。
「自分たちはメディアではなく、あくまでもプラットフォームだ」
かつてフェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOはそう説明しましたが、その後、“巨大メディア装置”に成長したフェイスブックで拡散された「フェイクニュース」が米大統領選などに大きな影響を及ぼし、現実の世界をねじ曲げてしまったのは周知のとおりです。しかも、おそらく今後力を持つ多くのライブストリーミング配信事業者は、フェイスブックよりもさらに無責任な振る舞いをするでしょう。
銃ではなくスマホを持った市民たちの“ノールールの戦い”が始まる
数多(あまた)あるストリーミングサービスのあちこちで極端な政治的主張やヘイトがお気軽に送受信されるリスクに対して、「それはコンピューターのアルゴリズムで検閲すればいい」というのはあまりにも楽観的すぎる姿勢です。プラットフォームが提供された時点で、人の意識は暴れだし、時に制御不能となる。(フェイクとはいえ)ニュース事業者が主体だった米大統領選や欧州での極右台頭を「ウェブポピュリズム1.0」とすれば、シロウトが直接殴り合うストリーミング時代は「ウェブポピュリズム2.0」に突入するのかもしれません。
かつて統制経済から開放路線に移行する際、国民の3分の1が全財産を失い大混乱に陥ったアルバニアでは、一般国民たちが軍の武器庫から銃を勝手に奪い、市街戦が行なわれるというカオス状態に陥りました。今度は全世界規模で、銃ではなくスマホを持った市民たちの“ノールールの戦い”が始まるのでしょうか。
●Morley Robertson(モーリー・ロバートソン) 1963年生まれ、米ニューヨーク出身。国際ジャーナリスト、ミュージシャン、ラジオDJなど多方面で活躍。フジテレビ系報道番組『ユアタイム~あなたの時間~』(月~金曜深夜)にニュースコンシェルジュとしてレギュラー出演中!! ほかにレギュラーは『NEWSザップ!』(BSスカパー!)、『モーリー・ロバートソン チャンネル』(ニコ生)、『MorleyRobertson Show』(block.fm)など