「今、“現代のゴールドラッシュ”が来ちゃった。私たちはゴールドは求めませんが、ゴールドを求める人たちに銀行のように両替をするし、つるはしも出す」と語る大塚雄介氏

仮想通貨「ビットコイン」の高騰が止まらない。昨年末に1ビットコイン=10万円を突破したかと思えば、今年5月には1ビット=34万円まで上昇し、その後は乱高下を繰り返している。ちなみに、ほんの5年前までは1ビット=500円ほどだった。

この短期間で、ここまで高騰した背景には何が? そして、ビットコインをはじめとする仮想通貨は「新しい通貨」に成り代わるのか? それとも金儲けの投機対象で終わるのか?

『いまさら聞けないビットコインとブロックチェーン』の著者でビットコイン取引所を運営する、コインチェック株式会社の共同創業者・大塚雄介氏を直撃した!

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―今、世界にはどのくらいのビットコインが流通していて、どのくらいの人が利用しているのでしょうか?

大塚 今、世界で流通しているビットコインの時価総額は、おおよそ2兆円といわれています。そのうち46%ほどを日本が占めています。

一方、日本のビットコイン利用者は大ざっぱに言って60万人ぐらい。アカウントの数がそれだけあるということです。ちなみにFX(外国為替証拠金取引)は開設されている口座の数が約650万といわれているので、だいたいその10分の1というイメージでしょうか。

―利用者は最近になって急激に増えている?

大塚 そうですね。以前はビットコインの利用者って、例えば「東京にいる30代のITの好きな方」っていうイメージだったんです。けれど、もうその時代は過ぎてしまっていて、全国の30代から60代までの幅広い層がどんどん押し寄せてきています。

皆さん、「ビットコインとは何か」ということにはあまりピンときてないようですけれど、「価格が上がっていくものだよね」と。そういう一面に反応して、買われる方が非常に増えていると感じています。

―そういう意味では投機対象としての興味が動機になって、市場が急成長している?

大塚 まあ、そういうことになりますね。

月間取引高は500億にまで膨れ上がっている

―大塚さんは「コインチェック」というビットコイン取引所の経営責任者なわけですが、このビジネスを始めたきっかけはなんだったのでしょう?

大塚 スタートしたのは今から2年半ほど前、当時は「マウントゴックス事件」(*)の後で、多くの人が「ビットコインは怪しいもの」ととらえていましたし、私自身もそうでした。しかし、その一方で「ビットコインが欲しい」という人はたくさんいて、その受け皿はなかった。そこで我々がサービスを立ち上げることにしたのです。当時の相場は1ビット=2万円ほどでしたね。

ビジネスを立ち上げた頃の月間取引高はそれこそ何百万円でしたけど、それがあっという間に1億円を超え、見る見るうちに30億円、100億円となって、現在は500億ほどにまで膨れ上がっています。

爆発的に増えた理由は、我々が頑張って広げていったというよりも「ビットコインを買ってみたら相場が上がって儲かったから1口やってみなよ」「それならやってみよう」、そんな口コミでどんどん広がっていったのだと思います。時代の流れとして、引きつけられるような形で皆さんがビットコインを持っている。今はそんな時代なんじゃないでしょうか。

(*)2014年2月、当時、大手ビットコイン取引所だった「マウントゴックス」を運営していたMTGOXが、顧客から預かったビットコインが消失したとして民事再生法の適用を申請し、破綻。その後、同社CEOのマルク・カルプレス氏が業務上横領の容疑などで逮捕された

―ビットコインは、パソコンやスマホさえあれば「いつでも」「どこでも」「いくらでも」、国境を超えて自由にお金のやりとりができる便利なテクノロジーです。

ところが、その一方で「パナマ文書」で話題になった富裕層の資産隠し、また犯罪およびテロ資金の送金やマネーロンダリングなどに悪用される可能性もあるのでは? これはあらゆる仮想通貨にいえることだと思いますが。

大塚 ビットコインはその特性上、「匿名のお金」ともいわれるので誤解される方も多いのですが、仮想通貨は取引の記録がデータにしっかりと残ります。それに今年4月から仮想通貨に関する新たな法律が施行されていて、取引所の設置基準や利用者の本人確認が徹底されました。取引所が一種の“関所”になっているのです。不正な資金の動きを後から追跡することが可能ですし、必要に応じて警察のサイバー犯罪課に情報を提供することもします。

―それでも、送金すること自体は止められないという懸念もあります。例えば、経済制裁中の北朝鮮に送金したり、イスラム国(IS)に国外から資金を送ることも可能なのでは?

大塚 もちろん、そうした可能性もはらんでいます。現時点で、このテクノロジーは人間の使い方次第という側面があるのは事実です。それはビットコインだけなく、人工知能(AI)にしてもそう。これは人間の「性(さが)」との戦いなのではないでしょうか。ビットコインも「100%素晴らしい」わけではなくて、闇の部分というのは必ずあります。

そういう意味では、人間そのものが問われている。これまで生活してきて「お金って何?」って考えたこととか、性善説、性悪説をきちんと考えたことはほぼありませんでしたが、そういうことに直面する技術なんだと、この仕事を通じて実感しています。そこに面白みを感じて利用される方もたくさんいらっしゃいますね。

“現代のゴールドラッシュ”が来ちゃった

―つまり「人間の欲望」が市場を急拡大させている?

大塚 はい、そこの怖さというのは感じています。今はまだインフラを整えている状況なのにお金が先行してバァーっと集まっている。法整備はもちろん、技術革新の面でもまだまだ改善しなきゃならないことはたくさんありますし、暴落する可能性も否定できません。

私が言うのもおかしいですが、今は仮想通貨に投資するにしても資産の5%以下くらいにとどめておくのが賢明だと思います。ヘンな話、我々の事業は長く続けられないと利用者と共存していくことはできない。利用者にも無理はしないでいただきたいというか…。私の母は60代で、先日「ビットコインを買いたい」と言ってきたのですが、「パソコンもスマホも扱えない人が始めるのはやめておけ」と言っています。

でも、人間は欲望に突き動かされますからね。その意味では今、“現代のゴールドラッシュ”が来ちゃった。取引所である私たちはゴールドは求めませんが、ゴールドを求める人たちに銀行のように両替をするし、つるはしも出す、そういう事業をやっているつもりでいます。

(インタビュー・文/川喜田 研 撮影/樋口 涼)

●大塚雄介(おおつか・ゆうすけ)1980年生まれ、群馬県出身。コインチェック株式会社共同創業者兼COO(最高執行責任者)。早稲田大学大学院修了、物理学修士号取得。リクルートから分社、独立した株式会社ネクスウェイでB2B向けITソリューションの営業・事業戦略・開発設計を経験の後、レジュプレス株式会社創業(2017年4月よりコインチェック株式会社に社名変更)。現在、取締役COOを務める。日本最大規模の仮想通貨交換取引所Coincheckならびにビットコイン決済サービスcoincheck paymentを運営

■『いまさら聞けないビットコインとブロックチェーン』(ディスカヴァー・トゥエンティワン 1500円+税)時価総額とユーザー数がこの数年で爆発的に増加し、急成長を遂げているビットコイン市場。ブロックチェーンという新技術によって生まれた「仮想通貨」は、どんな仕組みで成り立っているのか? 安全性や法整備は? そんな疑問に、日本の大手ビットコイン取引所を運営するコインチェック株式会社の共同創業者兼COOが答える。通貨のあり方がひっくり返る、新たなテクノロジーの「今」と「未来」とは?