「VALUの正体は『クラウドファンディング×先物』」と語る落合陽一氏

“現代の魔法使い”こと落合陽一が、人類の未来を予言する『週刊プレイボーイ』本誌の月イチ連載『人生が変わる魔法使いの未来学』。

個人に対する“みんなの評価”がお金になる――そんな「評価経済」という概念がこの夏、新興サービス「VALU」の炎上騒動とともに話題となった。

そして、その取引をスムーズにさせているのが、ビットコインをはじめとする仮想通貨だ。どこかつかみどころのない、この魔法のような経済潮流はどこまで広がるのか? “現代の魔法使い”がズバリ解説!

* * *

―ユーチューバー・ヒカル氏の“売り逃げ騒動”で炎上した「VALU」に続いて、個人の時間を売買するサービス「タイムバンク」がスタートしました。みんなの評価が価値になる、いわゆる“評価経済”がいよいよ本格化していくんでしょうか。

落合 うーん……VALUって、評価経済なのかなあ。

―ちょっと違う?

落合 あんまり関係ない気がします。だってVALUは、その人がSNSで急に有名になったとしても、価格に本質的な影響はないですよね。VALUは、要するに「売買できるように証券化されたクラファン(クラウドファンディング)」なんですよ。

―あのヒカル事件の前までは、VALUはバブルといっていい状況でしたよね。

落合 ええ、うちの研究室の学生も、お小遣い稼ぎにいろんな人のVA(仮想株式)を買っていましたからね。でも、ヒカルさんの事件の後は全体的に低調で、取引量も下がったのでテコ入れが必要かもですね。VALUの時価総額上位のなかで、市場が健全に動いているのはLINE上級執行役員の田端信太郎さんと、僕くらいじゃないですか。問題は、VALUの本質がクラファンだと理解して使っていた人がほとんどいなかったってことだと思います。

―「VALUはクラファン」というのを、もう少し詳しく説明すると?

落合 つまり、「サービス内容×期間」に見合う価格を設定してVAを発行すればいいという簡単な話です。それが他人に売買できるというだけの話だから。例えば、僕はVALUというサービスが2年くらい続くと仮定して、24ヵ月でペイできるようなイメージで始めたんですね。

僕の場合、ほかのサービスでもオンラインサロンで月に2時間くらい生でいろいろ話したり、講義したりしてだいたい1万円とかなんですけど、VALUはフェイス・トゥ・フェイスじゃない分、その半分の5千円くらいかなと。それが2年間だと5千円×24ヵ月で12万円だから、VAを12万円分買ってくれた人は、それくらいのサービスを受けられるように設定したわけです。

「クラファンを先物取引する」

―確かに、これはまさにクラファン。こういう使い方をしていれば、詐欺だとか言われて炎上することはありえないわけですね。

落合 そう。それより価格が上がればバブルだし、下がればお得だよね、というだけの話です。あまりにも価格が見合わなくなってきたら、期間やサービス内容を調整すればいいわけだから。この認識がたぶんヒカルさんにはなかったと思う。

―でも、単なるクラファンならそれでいいんですけど、「売買できる」という部分はどう理解すれば?

落合 これは完全に、VALUを買う側にとってのメリットですよね。例えば1年間サービスを受けて、その後に買ったときと同じ値段で売れれば、お金は減らずにサービスを受けられるわけで。

―ん? お金の減らないクラファンって、なんかおかしくないですか?

落合 本来的にはおかしいですけど、こういう考え方もできる。例えば服を買って、ヤフオクに出すとします。ここでいつ出品するかが重要なんですけど、服を買う前、お店で見つけた段階でヤフオクに「中古、新品同様、数回使用」と出品したら、どうなりますか? 服を買って、クローゼットに入れて、1シーズンで10回くらい着て、それから落札者に発送する…。

―おお! これなら、服を使ってもお金はほとんど減らないですね。

落合 これが「クラファンを先物取引する」という概念です。つまりVALUが「運用可能」というのは、先物買いの概念も含まれているということ。…こういう投資感覚のある人がVALUの提供者側にもっとたくさんいれば、健全に盛り上がったはずなんですけど。

★後編⇒“現代の魔法使い”落合陽一がビットコインを解説──“脱国家”したマネーは現実通貨を駆逐するのか?

(構成/小峯隆生 撮影/五十嵐和博)

●落合陽一(おちあい・よういち)1987年生まれ。筑波大学学長補佐。同大助教としてデジタルネイチャー研究室を主宰。コンピュータを使って新たな表現を生み出すメディアアーティスト。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学大学院で学際情報学の博士号取得(同学府初の早期修了者)。最新刊は『超AI時代の生存戦略 シンギュラリティに備える34のリスト』(大和書房)