2011年12月の発売以来、累計112万台を販売。もはや新国民車と言っても過言ではないのがホンダのN-BOXだ。それが証拠に今年9月1日から2代目が発売となったが、約1ヵ月で5万2千台を受注!
今回、初のフルモデルチェンジとなったそんな軽スーパーハイトワゴンだが、まずはスタイルを見てびっくり。一見すると初代から全然変わってない。まあ、鼻の下が延びてTバック顔になったワイルドな「カスタム」はイメチェンできている気もするが、ボディサイズを見ると全長全幅はまったく同じで、厳密には全高が1cm延びたくらい。
ところが! N-BOXのLPL(ラージ・プロジェクト・リーダー)の白土清成(しらと・きよなり)氏に聞いてみたところ、「まったく同じパーツはネジ、ボルトぐらいです」とのこと。マジか!? つまり一見、努力してないようで中身は全力でフルチェンジ! それこそが新N-BOXの真骨頂なのだ。
インテリアを見ても確かに全力。相変わらず使いやすい位置にあるシフトレバーを中心に実用的にまとめられている。もちろんこちらも旧型から全取っ換え。助手席前の棚はより機能的に四角く大きくなっているし、メーターは小さく上部にまとめられ、ステアリング前には巨大なフタ付き収納ボックスまでついた。外観も前後ライト類はすべてLED化され、先進安全のホンダセンシングまで全車装備!
何より進化したのは全体の質感だ。明るい茶系でまとめられた樹脂に安っぽさはなく、その広さは5ナンバーミニバン顔負けで、「もはやステップワゴンなんかいらないんじゃないの?」と思うほどだ。さらにビックリするのがその走り味だ。
ボディは骨格のプラットフォームから完全新作。こんなことは少なくとも2世代、へたすると3世代は骨格を使い回すような、軽自動車じゃありえないお金のかけ方で、まさにホンダのやりすぎ全力投球なのだ!
そのおかげで乗り心地、ボディの剛性感はクラス随一で「これで軽自動車かよ?」って味だし、クラストップだった室内長はさらに延びた上、雨の日に助手席側リアドアから入って子供を乗せ、そのまま運転席に座れる助手席スーパースライドシートまで選べてしまうのだ。
さらに注目なのはエンジンである。初代も新設計だったが、今回もビシッと新設計! それもピストン口径のボアストロークまで変え、特にターボは軽で初めて圧力を制御する電動ウェイストゲートを採用しているのだ。それでいてターボ&ノンターボ共にピークパワーの64馬力&58馬力はまったく変わらずだから、要は実用トルクと実燃費にこだわった結果。
ホンダの軽がことごとく惨敗した黒歴史…
【SPEC】
では、なぜN-BOXの開発はこんなにも全力投球なのか。ズバリ言うと、長年の軽自動車造りにおけるホンダの負の歴史と、トヨタ、日産への積年の恨みではないか。
1990年代に軽の絶対王者だったスズキのワゴンRに挑んだ個性的なホンダの軽(ライフ、Z、ザッツ)はことごとく惨敗した黒歴史がある…。
要するにホンダはそこで軽はそもそも奇抜さ、個性で勝負する市場ではなく、時にはライバルのマネすら辞さない、仁義なき戦いをしないと勝てない現実を知り、それを踏まえて初代N-BOXを出した。
それともうひとつはミニバン市場をつくったホンダのステップワゴンやオデッセイの失速だ。つまり、業界のパイオニアでも、特に実用車はモデルチェンジで力を抜くとトヨタや日産などに追い抜かれてしまう。もはやホンダはアイデアだけで勝負できないと悟ったのでは?
よって今後は生き残りをかけてどの人気モデルでも仁義なき全力投球モデルチェンジに取り組むはず。今回の2代目N-BOXはまさにその象徴であり、今回は値段がカギとなる軽業界であえて「安さより質・味にこだわる」戦略に出ているのだ。
もちろんそこにはリスクもあって、実際2代目N-BOXがそうだが値段はどうしても高くなる。具体的には2代目は初代より10万円程度は高くなっている。もちろん、クルマの質や装備は良くなっているが、それでも価格はやっぱし高いと思う。
ホンダは今回投入したこの2代目N-BOXで軽の常識に挑んでいる。販売は好調のようだが、しかし本当の勝負はこれから。モデルサイクルを通じてずっとスズキやダイハツに負けずにいられるのか。ライバルだってN-BOXの独走を指をくわえて眺めているとは思えない。
今後も仁義なきニッポン軽バトルから目が離せないぜぇ~!
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●小沢コージ 1966年生まれ、神奈川県出身。青山学院大学卒業後、本田技研工業に就職。90年に自動車誌の編集者に。著書に『マクラーレンホンダが世界を制する!』(宝島社新書)など多数。TBSラジオ『週刊自動車批評』レギュラー出演中。日本&世界カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。