携帯電話の市場シェア(2017年6月末時点) 携帯電話の市場シェア(2017年6月末時点)

NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクの3社寡占が続く携帯キャリア事業に、楽天が風穴をあけそうだ。通信料金、端末、使い勝手など、どんな違いを打ち出せるのか!? 今後の展開を予想する!

■楽天グループの次の成長エンジンに

インターネット通販国内大手の楽天が、携帯電話事業への参入を表明した。総務省から認可が下りれば、2007年のイー・モバイル(現・ソフトバンク)以来、13年ぶりとなる「第4の携帯キャリア」が誕生することになり、来年中にもサービスが開始される予定だ。

だが同社はすでに、14年からグループ内でMVNO(=仮想移動体通信事業者、いわゆる格安スマホ)の「楽天モバイル」を展開している。事業は好調で、昨年11月には競合のフリーテルを買収し、格安スマホ業界で3位にのし上がったばかり。なぜここへきて、携帯キャリア事業に乗り出そうというのだろう。

携帯電話ライターの佐野正弘氏が言う。

「楽天は本業のネット通販事業において近年、王者アマゾンに大きく引き離され、下からはヤフーに突き上げられと、頭打ちになっています。FCバルセロナのスポンサーになったりして、懸命に存在感をアピールしていますが、絶対王者であるアマゾンの多種多様なサービスには、とうてい太刀打ちできません。そんななかにあって楽天モバイルは、順調に契約者数が伸びている数少ない好調部門。三木谷浩史会長はそこに目をつけたのでしょう。

とはいえ、MVNOはキャリアから回線を借りているので、儲けが出にくい。そこで自らがキャリアとなることで利幅の大きいビジネスに育て、楽天グループの次の成長エンジンにしようと考えたのだと思います」

携帯電話業界は今、かつての通信料金値下げ競争が鳴りを潜め、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクの3キャリアが同水準でにらみ合っている。そこに楽天が殴り込みをかけるとなると、新規会員獲得のために通信料金の価格破壊を仕掛けるなど、積極的な戦略の期待が高まる。3社寡占の膠着(こうちゃく)状態に風穴をあけてくれるのか!?

が、話はそう簡単ではないらしい。ITジャーナリストの石川温(つつむ)氏が語る。

「携帯電話事業の基礎である通信インフラを全国に整備するには、莫大(ばくだい)なコストがかかるのです。楽天はそのための費用として、19年から25年にかけて最大6千億円を調達するようですが、そんな額ではとうてい賄えない。すでに全国くまなく通信網を張り巡らせているドコモでさえ、維持・管理等のためだけに毎年5千億~6千億円を費やしているのです。

ゼロから全国にネットワークを構築していくとなると、ヘタをすれば数兆円規模の予算を投下しなければなりません。まずそれを工面できるのか? そして整備には当然、時間も必要。来年からサービスを開始するとなると、不完全なネットワークのまま見切り発車をするしかありません」

インフラが不完全なのに、どうやって全国をカバーするというのか?

「例えば、人口の多い都市部から整備し、手の回らない地方部は既存キャリアの回線を借りるローミングでカバーしながら、徐々に自社回線の地域を広げていくとか。これは、イー・モバイルも採っていた方法です。あるいはSIMを2枚挿せる端末を提供し、キャリアとしてのSIMと、MVNOである楽天モバイルのSIMを入れる裏技もあります。自社ネットワークがある地域ではキャリアのSIMで、そのほかの地域は楽天モバイルのSIMでと切り替えながら通信するわけです。こちらも、自前で全国を網羅するまでの暫定的な手法ですね。

ただ、どちらにしても、サービス開始当初の自前ネットワークは地域が限定され、やり方によっては自社回線と他社回線の切り替わり時に接続が切れる恐れがあるなど、3キャリアに比べて通信品質が劣るのは確実です」(佐野氏)

3キャリアに比べて通信品質が劣るのは確実

■まず格安スマホ業界の料金競争が激化する

だったら「第4のキャリア」というより、楽天モバイルとさして変わらないような気もするのだが…。

「現実的なビジネスモデルを考えれば、『楽天モバイルの通信品質が強化されました』というところから始めざるをえないでしょう。現在の楽天モバイルは、都市部で正午あたりの通信速度が落ちる傾向がありますから、自社回線を持っていれば、そこは改善できる。さらにユーザーが楽天のネットワークにつながっているときは、データ消費をカウントしないようにし、お得感を出すとか。並行して通信インフラ網を徐々に広げていき、しかるべき時に正真正銘のキャリアとして仕切り直すのだと思います」(石川氏)

したがって端末ラインナップも、現行の楽天モバイルと代わり映えのしないものとなりそうだ。

「iPhoneの最新機種の取り扱いは難しいでしょう。アップルはiPhoneを大量に売りさばけるキャリアにしか供給しませんから、誕生間もないキャリアは相手にしません。まして楽天モバイルを母体にするのなら、中国ブランドのファーウェイあたりを中心に、あとは国内メーカーのSIMフリー機を若干そろえる程度でしょう。つまり中低価格帯の端末が主体で、その中に楽天関係のアプリを入れて提供するのではないでしょうか」(佐野氏)

結局、楽天がまったくの新事業としてキャリアを立ち上げるのではなく、当面はMVNOである楽天モバイルのサービスが拡充されるにすぎないもよう。だとするとキャリア間での料金値下げ競争の再燃など期待できない?

「既存キャリアは、自前の通信網も整っていない楽天を同格のライバルと見なしていませんから、値下げ圧力になるはずがない。それどころかインフラ整備に多額の資本を投入するのですから、本来なら逆に楽天モバイルのほうが通信料金を値上げしなければならないところです」(石川氏)

でもそんなことをしたら、既存会員が逃げてしまう。

「だから、据え置くしかない。楽天モバイルはしばらくの間、相当厳しい収支バランスに耐えねばなりません。結局、キャリア事業の認可を総務省から受けたところで、3キャリアに対抗できる強みといえば、楽天スーパーポイントの付与や使用ができることぐらい。だったら現在の楽天モバイルとなんら変わらないわけで、同じ6千億円もの資本を投下するのなら、今のMVNOのまま、楽天モバイルをより魅力的にするために使ったほうがよほど有効です。

今回のキャリア事業参入は、業界内でも疑問視する声しか聞こえてこないし、楽天内でさえ『理解できない』と首をかしげている社員が少なくありません。私はこの先、正式な電波取得申請の前に、三木谷会長が心変わりして撤退宣言しても驚かないし、もし彼がその決断を下せたら、むしろ評価しますね」(石川氏)

スタートする前からすでに八方ふさがりと目されている、楽天のキャリア事業。しかし既存キャリアの間になんの波風も立たず、通信料金がこのまま高止まりしているのもしゃくに障る。楽天に起死回生の逆転シナリオは、まったくないのだろうか。

「楽天にしても、いきなり3キャリアに対抗しようとは考えていないはずで、まずは格安スマホ業界トップ、ソフトバンク傘下のワイモバイルをターゲットに定め、サービス面で、例えば楽天ポイントの付与や使用を今以上に優遇するような対抗策を打ってくるでしょう。だから格安スマホ業界上位同士の競争は、これから間違いなく激化するはずです。

そうした戦略でワイモバイルを打ち負かすのが、第一目標。さらにその目標をクリアして、iPhoneを扱えるまでの規模の契約者を獲得し、全国に自社ネットワークが整備されれば、既存キャリアの脅威となるはずです。ただ、投下した資本の回収を考えれば時間との勝負。すべての施策が順調に進んで初めて、キャリアへの挑戦権を得られるという、極めて低い成功率であることは間違いありません」(佐野氏)

楽天のキャリア事業に、果たして楽天的な未来は待っているのか?