3月1日に販売開始となったエクリプス クロスは、三菱自動車の命運を握るニューモデル。
群雄割拠の国内小型SUV市場で果たして勝機はあるのか。小沢コージが迫った!
■コンパクトSUV市場に三菱が殴り込み!
ついにコンパクトSUVバトルが超戦国時代に突入したぜぇ! 思い返せば2010年に誕生した日産のジュークから始まった全長4mちょいのスタイリッシュSUVブーム。そのバトルが激化したのは2013年にホンダが投入したヴェゼルからだ。
フィット譲りの1.5リットルハイブリッドが選べ、静かで滑らかな発進加速と最良27km/リットルのモード燃費で人気爆発。3年連続国内SUVセールスナンバーワンに輝き、2017年12月までに国内累計販売台数は30万8000台超!
そして昨年はウナギ犬系のデザインをトヨタ流に研ぎ澄ませ、さらにプリウスと同じハイブリッドシステムを搭載したC―HRが大ブレイク。最良モード燃費は30.2km/リットルで、2017年4月にはSUVとして史上初の新車販売トップを記録。ヴェゼルを抜き、SUV販売トップに躍り出た。
ライバルのヴェゼルも黙っていない。今月、一部改良を行ない、デザイン、走り、全体の質感を大幅に強化。C-HRの追撃態勢を整えた。
三菱自動車は3月に、この激アツ市場へ4年ぶりの新型車エクリプス クロスを投入する。北海道の雪上クローズドコースで開催された試乗会に突撃し、エクリプス クロスの商品戦略本部CPS(チーフ・プロダクト・スペシャリスト)、林 祐一郎氏に復活の意気込みをたっぷり聞いた。
■三菱らしさを残した理由
―久しぶりの新車ですね。
林 国内だと4年ぶりです。相当気合いが入っています。
―三菱はリコール隠しや燃費偽装などの不祥事を立て続けに起こし、ルノー日産アライアンスの傘下となり、経営再建中です。このエクリプスクロスで、その汚名返上っていう気持ちは開発陣にある?
林 当然、あると思います。襟を正した、開発手法を見直した、三菱の姿勢がエクリプス クロスにはあります。
―今回、雪道でエクリプス クロスに乗ってその思いは伝わりました。確かにとてもSUVとは思えないクーペフォルムで、特にエッジの効き方がスゴい。ちなみに車名にエクリプスを使用した狙いというのは?
林 ストレートにクーペスタイルのSUVを訴求したいので、この名前を使いました。主要マーケットであるアメリカではエクリプスが三菱クーペの象徴ですので。
―なるほど。走りも印象的で、非常に三菱らしいしっかりした乗り心地だし、ハンドリングも進化した四駆システム「S―AWC(スーパーオールホイールコントロール)」がスゴかった。滑りやすい雪道で、ステアリングは切った方向にクルマがスーッと曲がる。ブレーキ時もそうですけど、アクセルを踏んで曲がれるのには驚きました。
林 ありがとうございます。
―エクリプス クロスの中身は現行アウトランダーの進化版と聞いています。具体的にどう進化したんですか。
林 システム的には前輪の電子制御デフが省かれて逆にシンプルな構成になっています。細かいブレーキ制御やアクセル制御を進化させて自然な動きになっているかと。
―そこはよくわかりましたが、とにかくエクリプスクロスに乗った本音としては、昔ながらの電子制御四駆バカっていう印象ですよ。
林 はい、そのとおりです(笑)。
三菱が日産になっても生き残れない
―特にS‐AWCですが、試乗前のプレゼンテーションからも感じましたが、昔ながらのハンドリングオタクの三菱そのもの。今や自動運転の時代ですよ。走る喜びもいいけど、もうちょい新しさが欲しいし、変わった感が薄すぎやしませんか。
それからS‐AWCだって進化しているのに、S‐AWC2とか3とか数字もつけていないから進化度がユーザーに伝わりにくい。そこはマジでiPhoneの戦略を見習ってほしいんですが、いかがですか。
林 そのへんが昔からどうにも三菱はへたで(笑)。ただ、クルマ造りという点でいいますと、劇的に変わりすぎると、三菱を買う意味がなくなってしまうのかなと。
―つまり、4年ぶりの新型に、昔ながらの三菱らしさを意図的に残したって話ですか。
林 ええ、そのとおりです。
―ちなみに親会社になった日産のブランディングの影響ってもうあるんですか。
林 はい。昨年の東京モーターショーで、「ドライブ・ユア・アンビション」という新ブランドメッセージを発表しましたが、あれも自分たちの存在はなんだったかを確認して再定義したもので、エクリプスクロスの開発も同じです。
開発のプロセスは昔と変わってきています。私の肩書のCPSは日産式の職制ですし、日産から派遣された三菱自動車の山下光彦副社長が開発のトップです。私の直属の上司も日産から来たフランス人になりましたし。
―会議も英語に?
林 ええ。
―会社がガラリと変わったんじゃないですか。
林 それはそうです。上司が代わってから「仕事を気合いでやるのはやめる」「決断を速くする」「会議は結論から述べ、会議時間も短くする」となった。確かにそれまでの三菱は「人間関係を大切にする」と言えば聞こえはいいけど、人間関係が濃すぎた面もあったのかなと。
―まさにリボーン。
林 ええ。一方で、三菱らしさをとことん考えて、今、それをクルマに生かす方向に進んでいます。三菱が日産になっても生き残れませんから。
―だからこそ、三菱伝統の電子制御四駆バカ戦略だと。
林 はい、そのとおりです。
“エボリューションモデル”の発売は?
■エボリューションモデルは出るのか
―エクリプス クロスに搭載されている新作の1.5リットル直噴ターボはパワフルだし、8速CVTの出来もすこぶる良かったけど、モード燃費20km/リットル突破は無理ですよね。ディーゼルも追加されるみたいですが、三菱にはアウトランダー用のPHV(プラグインハイブリッド)がある。それを載せない理由って?
林 電動車の追加は検討しています。PHVがいいのか、それともEVがいいのかと。
―EVなら日産、PHVなら三菱の技術を使う?
林 おそらくそうなると思います。EVはバッテリーの値段をどれだけ下げられるかが勝負になりますから、得意なほうがやるべきでしょうね。
―ちなみにエクリプス クロスの“エボリューションモデル”が発売されるってウワサがあります。真偽のほどは?
林 それ、本当ですか(笑)。確かに「出したい」って夢の話はしていますが、具体的な計画はありません。
―スポーツセダンで出る?
林 具体的な計画はありません。ただ、いつかは出さんといかんって話はしています。
■今後の三菱は日産とパーツを共有化する
―最後に注文ですが、確かにエクリプス クロスは、三菱車のデザインの中では頑張っていると思うし、アグレッシブだとも思ったんですが…やっぱし三菱の文法が変わっていないなと。
エクリプス クロスのガチライバルとなるトヨタのC‐HRがあれだけ大胆なデザインで登場して、昨年11万台以上を売った。世界の大トヨタがSUVの流行を見て、確信犯的にインパクトという毒を盛ったわけですよ。エクリプス クロスにその毒がありますかと。
林 う~ん。
―要は横綱のトヨタが猫だましやかち上げをしてまで勝利を奪いにいく時代に、4年間休場した小結の三菱ががっぷり四つの相撲をして勝負になるのかと。エクリプス クロスはC‐HRに勝てんのかと思いました。
林 これでもまだエクリプス クロスは行き切れていないと。でも、エクリプス クロスはあえて三菱らしさや三菱のやり方を残しているんです。悪路を走るときのアプローチアングルやデパーチャーアングルにも三菱SUVの伝統を残しました。そこすらも捨てるべきだったって話ですか?
―それを捨てるべきかどうかについてはわかりません。私が指摘しているのはエクリプス クロスを見て、今まで三菱を買ってこなかった人たちが、「うわっ、超カッケー」だとか「このデザイン、ヤバくね?」となるスタイルかといったら、正直どうかなと。
林 誰もが振り向くデザインになってませんかねぇ。今まで三菱のファンじゃなかった方にも、三菱の伝統と技術がぎっしり詰まったエクリプス クロスを見て、乗って、買っていただきたいんですけど。
―熱い気持ちはよくわかりました。最後に悲しいウワサの真相を教えてください。今後の三菱は日産とパーツを共有化するため、事実上、エクリプス クロスが最後の三菱オリジナルになるとささやかれています。実際のところは?
林 まだ確定ではありませんが、見えないところはできる限り日産と一緒にして、見えるところはできる限り両社の個性を出していく。今後はそういう方向に進むと思います。
―新型エクリプス クロスは、これまでの三菱らしさが凝縮された、最後のピュア三菱カーであると?
林 そのとおりです。
(取材・文/小沢コージ 写真協力/三菱自動車)