最近、物忘れ外来を訪れる若者が増えているという。仕事に支障を来すほど脳機能が低下しているというのだ。
しかし、その原因の多くはスマホの使いすぎにあった…。「スマホ認知症」。そのメカニズムと治療法に迫る!
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「よく知っている人の名前が出てこなかった」「用があってコンビニに行ったのに何を買いに来たか忘れた」「クライアントと話しているときに昨日聞いた言葉が出てこなかった」……など、「最近、物忘れが激しいな」と思ったら、それはスマホ認知症かもしれない。
認知症を専門とする「おくむらメモリークリック」院長で『その「もの忘れ」はスマホ認知症だった』(青春出版社)の著書がある脳神経外科医の奥村歩氏が語る。
「うちの医院にやって来る患者さんの約3割が20代から40代です。物忘れが激しく、仕事に支障が出るため、自分は認知症なのではないかと心配になってやって来る。しかし、よくよく聞いてみると、皆さんスマホやタブレットなどのへビーユーザーで、食事中もトイレの中でもベッドでもスマホを肌身離さず持っている。つまり、日々入手している情報量のあまりの多さに脳が疲れ切って、処理能力が低下したために物忘れやつまらないミスが増えているスマホ認知症だったのです」
仕事でパソコンを使っている上に休憩時間にはメールのチェックやニュースサイトの閲覧、SNSで友達とやりとりをしたり、ベッドの中で寝るまで動画サイトを見ているなど、一日中スマホを手放さない人は多いのではないだろうか。そういう人はスマホ認知症予備軍だ。
早稲田大学研究戦略センター教授で脳科学者の枝川義邦氏が、スマホ認知症のメカニズムについて解説する。
「脳に入ってきた情報の多くはいったんワーキングメモリー(作業記憶)という脳の作業台のような場所に置かれます。そして『その情報にどういう意味があるのか』『保存したほうがいいのか』『アウトプットしたほうがいいのか』などの処理を行なう。
しかし、この作業台のスペースは限られているので、情報がどんどん入ってくると作業台に載りきらなくなったり、無理やり載せることになる。すると、物覚えが悪くなることやミスにつながる。これがスマホ認知症の状態です」
スマホを使っている人はマルチタスクをしている場合が多い
枝川氏によると、スマホは本などに比べて入ってくる視覚情報が格段に多いという。
「同じ文章を読んでいても、スマホの場合、目の中に入ってくる光の情報が多いのです。すると作業台は文章のほかに光の量や色の多さも含めて情報処理をしなければならない」
また、スマホを使っている人はマルチタスクをしている場合が多いという。
「例えばユーチューブを見ながらSNSをしていたり、ゲームをしながらスマホをいじっていたりすると、それぞれの種類の情報がどんどん作業台に載っていきます。ゲームを中断してSNSをしたとしても、脳ではゲームの情報処理を進めていたりする。
デジタル機器を用いたマルチタスクは習慣になりやすいので、脳への情報入力が続くことになります」
こうしたマルチタスクを続けていると脳にストレスがたまり、スマホ認知症になりやすい。
「ストレスのかかっている時間が長期にわたると、ストレスホルモンが脳の神経細胞を攻撃して機能低下を起こします。機能低下を起こしやすい場所は記憶をつかさどっている海馬と作業台を働かせている前頭前野。前頭前野は理性をコントロールする場所なので、ここの機能が低下すると理性的な判断や感情のコントロールがしにくくなります」
最近、怒りやすくなったなと思ったら、それはスマホ認知症によるものかもしれない。
★日常生活でできる、スマホ認知症にならないための「リアルな体験」とは? 『週刊プレイボーイ』13号(3月12日発売)では、スマホ認知症チェックリストも掲載しているので、そちらもお読みください!
(取材・文/村上隆保)