小沢は原稿の締め切りが近づかないと尻に火がつかない性質である。どうやらそれはホンダのヴェゼルも同じようだ。
ヴェゼルは2013年12月にデビューすると、14年の国内新車販売台数は10万479台を記録してSUV部門で1位を獲得! 15年は7万1021台、16年も7万3889台を売って3年連続国内SUVナンバーワンに輝いたが、昨年は11万7299台を売ったトヨタのC-HRにナンバーワンの座を奪われてしまった。しかし、6万4332台をマークして2位は死守した。正直、デビューから3年が経過したモデルで年間6万台超を売ったのはマジ立派。
実はヴェゼル、超良血なのだ。ベースのモデルは13年に登場した現行の3代目フィット。01年の初代モデルから国内累計250万台超の販売台数を誇るホンダの売れっ子モデルだ。ガソリンタンクをセンターに置いた独自レイアウトで、ボディサイズからは想像できない広さと使い勝手を持ち、加えて独自のダイレクト感あふれるハイブリッドユニットまで選べる。
ヴェゼルはフィットと同レベルの高効率パッケージングを持ち、独自の7速デュアルクラッチ式ハイブリッドと、そのなまめかしいウナギ犬デザインでバカ売れしたのだ。ちなみに昨年の世界累計販売台数は70万台超でホンダトップセラーである。もはやヴェゼルはホンダの顔。
そして発売から4年ちょいとなった今年2月にマイナーチェンジを敢行したヴェゼル。エクステリア、インテリアはもちろんのこと、ハイブリッドのチューニングも変更し、安全運転支援システムの「ホンダセンシング」も全車標準装備となった。まさに本気の改良である。
早速、小沢も乗ってみたのだが、見た目は意外にも奇をてらわぬ直球進化。ヴェゼルの特長であるなまめかしさを生かした化粧直しで、最も目立つグリルをまずデコっぱち感が生きる板っぽいデザインに変え、ライトもよりギラギラ感を持つフルLEDタイプが選べるようになった。バンパー両サイドのランプもより大型でエッジの効いたモノになっている。
だが、何よりビックリしたのは乗ったときの別物感である。小沢が借りたのは最もスポーティな足を持つハイブリッドRSだが、座るなり「おや?」となった。ヴェゼルは発売当初からクラスを超えた本革調のインテリアが人気だったが、特にこのトップグレードのRSは本革巻きステアリングやシフトレバーもいいが、なんといっても真ん中に肌触りの良いウルトラスエードを纏(まと)ったシートが気持ちいい。形状が改良されて座り心地がよくなっている上、高級感がハンパないのだ。
それはインパネからしてそう。助手席前からセンターコンソール周りまで全域スエードだらけ。リッチな囲まれ感は今までのヴェゼルにはなかったレベルになっている。
目を引いたのは高級感と一体感!
【SPEC】
さらにスゴいのが走りだ。そもそもヴェゼルはこの4年強で3回もマイナーチェンジ。ボディ剛性や足回りは16年2月に強化しているのだが、今回は1.5 リットルハイブリッドシステムからブレーキまで全域で進化。その結果、アクセルを踏み始めた出足の良さは厚みがあるし、途切れのない加速と、ソリッドタッ チなブレーキは今回の改良でさらに気持ち良くなっている。ついでに静粛性も増しており、ハイブリッドのギクシャクした感じも皆無に近い。
ちなみに気になる実燃費だが、リッター15㎞/リットルと相当いい。スペック以上にボディの軽さが効いてるとみた。
安全運転支援システムの「ホンダセンシング」は、自動ブレーキ、誤発進抑制機能などの衝突回避支援機能に加えて、車線の中央に沿った走行をアシストするステアリング制御「LKAS(車線維持支援システム)」や、アクセルから足を離しても前走行車との車間距離を適切に保つ「ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)」などを搭載している!
今回の一部改良で小沢の目を引いたのは、高級感と一体感である。ライバルのC-HRに燃費こそ劣るが、トヨタのハイブリッドというのは特有の「ヌメッ」とした加速。けれど、ヴェゼルはダイレクト感のある走りを達成。さらにいうとラゲッジの広さ、リアシートのアレンジの幅でもC-HRに勝っていた。小沢的には総合力ではヴェゼルのほうが上だと思う!
C-HRの躍進で尻に火がついたヴェゼル。本気度の高い改良はマジでスゴかった! 野郎ども、トヨタとホンダのコンパクトSUVバトルに注目せよ!
●小沢コージ 1966年生まれ、神奈川県出身。青山学院大学卒業後、本田技研工業に就職。90年に自動車誌の編集者に。著書に『マクラーレンホンダが世界を制する!』(宝島社新書)など多数。TBSラジオ『週刊自動車批評』レギュラー出演中。日本&世界カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。