日産・リーフ ●価格:315万360円~●全長×全幅×全高(mm):4480×1790×1540●一充電走行距離:400km●総電力量:40kWh●最高出力:110kW(150PS)。基本パッケージや骨格は先代を受け継ぐ新型リーフだが、デザインはより普通に親しみやすくなり、EV特有のキビキビとした走りもより活発に。

電気自動車(以下、EV)の欠点としてよく挙げられるのが、航続距離が短い! 充電スポットが少ない! リセールバリューが心配!などだ。

昨年、フルモデルチェンジした2代目リーフは、こうした“EV抵抗勢力”の声にどう応えるのか? 日産のキーマンを直撃し、新型リーフの真価に迫る!

■ガソリン車に比べて8割が「快適だった」

世界初の量産電気自動車として2010年末に発売された日産リーフが、約7年ぶりに全面刷新されて2代目へと進化した。現在、リーフの販売台数は日本で約9万台、グローバルで30万台を突破。この数字は当然のごとく、EVとしては世界最多だ。

もっとも初代リーフが発表された当時、日産は「リーフを年間20万台生産して、16年度末までにルノーと合計で150万台のEVを普及させる!」と大風呂敷を広げていたのも事実。周知のとおり、実際はそれに遠く及ばなかったことから「ほら、やっぱりEVは普及しない!」という意見も少なくない。

ただ、どんな世界でも「元祖」に苦労はつきものだ。勇気ある開拓者をディスることしかできない「抵抗勢力」はいつの時代にも存在する。

そこで今回、新型リーフをあらためて観察すると、さすが初代発売から7年以上を経たEV先駆者のノウハウはダテじゃない。新型では「EV抵抗勢力」がドヤ顔であげつらうツッコミどころを、ことごとく解決しているのだ!

新型リーフはアマゾンのスマートスピーカー「アレクサ」を使って、乗車前にエアコンなどを遠隔操作することも可能。まさに「つながるクルマ」だ。

「EVでお客さまが不安に感じてらっしゃるのは、やはり航続距離、それに充電時間やインフラの問題です」と語るのは、日産自動車でリーフの国内商品企画を担当する北原寛樹(きたはら・ひろき)氏だ。

2代目リーフはバッテリー容量を先代(の最終型)より33%増やし、満充電時の航続距離はカタログ値(JC08モード)で400kmとなっている。さすがに実際の走行でこの距離を叩き出すのは難しいが、北原氏は購入者の満足度の高さを次のように説明する。

「新型リーフを買われたお客さま489人へのアンケート調査によれば、半数以上の256人がすでに片道100km以上の外出をされていて、そのうち約8割の方から『ガソリン車に比べて快適だった』とのお答えをいただいています」

なるほど、カタログ値が400kmならエアコンのオンオフや道路環境にも左右されるものの、実際には200kmから250kmはバッテリー残量を気にせずに走れると考えていい。

また北原氏によれば、アンケートで「とても快適だった」を選んだユーザーの中には充電時間について、「気になっていた充電の煩わしさも30分はちょうどいいリラクゼーションタイムのような余裕に変わりました」という回答もあったという。

この「充電時間」は航続距離と並んでEV抵抗勢力が喜んでツッコミを入れる点だ。しかし、大容量化されたリーフのバッテリーは充電時間も短縮されていて、急速充電器を使えば約40分で80%まで充電できるという。

「イメージでいうと、電気の出入り口の間口が広がっています。充電器側が一定の出力でも、バッテリー側がたくさんの電力を取り入れられるようになったので時間も短縮できているのです」(北原氏)

そして80%まで充電ができていれば、充電の不安なく走れる距離は160kmから200km強になるだろう。それでもEV抵抗勢力は机上の計算だけで「ガソリン車より使い勝手が悪い!」などと言うのだろうが、それだけの距離が走れるなら、目的地まで途中で充電が必要になる人はごくひと握りだ。

「自宅で充電できないと使えない」というイメージが強いEVだが、月額2000円の「充電器使い放題サービス」を駆使して外充電だけで済ます猛者も少なくない。

EVを走らせる電気料金がガソリン代より圧倒的に安い

■走行コストがEVは圧倒的に安い!

続いて驚いたのは、先ほどのアンケートに答えた新型リーフのユーザーのうち、25%が「自宅に充電設備がない」という調査結果だ。なぜならEVは基本的に、自宅で充電する乗り物だからだ。

「実は新型リーフの開発チームにも、自宅に充電設備がないのにリーフに乗っている人間が何名かいます(笑)。普段の行動範囲で、どこに充電器があるのかがわかっていれば、それほど不便ではないというんです」(北原氏)

そ、そうなんですね!

「国内の充電インフラはどんどん増えています。昨年末時点で急速充電器は約7200基ありますが、この数は初代リーフの発売時と比べると約20倍で、普通充電器も合わせれば充電インフラは2万8000基以上。また、全国の高速SA(サービスエリア)/PA(パーキングエリア)の4割以上に急速充電器が設置されていて、今ではガソリンスタンドがあるSAの数を逆転しています」(北原氏)

EVに一定数以上の“外充電派”が存在する理由はインフラの充実のほかに、EVを走らせる電気料金がガソリン代より圧倒的に安いからだ。

特に、日産が16年12月からスタートした充電サポートサービス「ZESP2(ゼロ・エミッションサポートプログラム2)」は好評だという。このサービスには「使いホーダイプラン」があり、月額2000円(税別)で日産ディーラーおよびNCS(日本充電サービス)の充電スポットが使い放題になる。つまり、リーフに乗ってこのプランに加入すれば、EVの電気代が月額2000円ポッキリになる(ほかに月額1000円〈税別〉+課金プランもある)わけだ。

ちなみに、実燃費20km/リットルのエコカーでも、1ヵ月に1000km走ればガソリン代は6500円(1リットル130円換算)になる。リーフの使い放題プランの3倍以上だ!

それだけではない。さらにEVはエンジンオイルも交換不要(といういかオイルそのものが入っていない)だし、後述する「e-Pedal(イーペダル)」のおかげで、「ブレーキパッドの摩耗も確実に少なくなります」(北原氏)という。

車両代を除いたランニングコストでは、リーフは同クラスのガソリン車より1ヵ月平均で5000~8000円安い、というのが日産の試算だ。「EVは走行コストが爆安!」というのは、EVの所有経験がないと気づかない超絶に大きなメリットなのだ。

ほかにも、リーフ購入者がほぼ例外なく最大の満足ポイントとして挙げるのが、走りと快適性だ。

「EVですから圧倒的に静かであると同時に、重量物のバッテリーをクルマの中心に積むことで、乗り心地や操縦性でも高い評価をいただいています。あと、ブレーキペダルを使わないワンペダルドライブが可能な『e-Pedal』も好評で、試乗した瞬間に気に入っていただけるだけでなく、『乗れば乗るほど手離せない』という声が多いんです」(北原氏)

新型リーフでは最上級の「G」グレードが販売全体の6割を占める人気で、それは日産の予測を大きく上回っているという。そのGグレード最大の特徴は、自動運転技術でもある「プロパイロット/プロパイロットパーキング」が標準装備されることだ。

「プロパイロット」は、高速道路において同一車線で先行車を追随したり、車線の中央付近を走行するようステアリング操作を制御する。「プロパイロットパーキング」は、駐車時に必要な操作のすべてを自動で制御してくれる機能だ。

高速道一車線限定ながら日本初の「自動運転」を実現した日産の「プロパイロット」。レスポンス抜群のEVは自動運転走行も実に滑らかだ。

こうした先進技術が支持され、Gグレードの売り上げを底上げしているというわけだ。

…と、一台のクルマとしては、いよいよEV抵抗勢力のツッコミどころがなくなりそうなリーフだが、2代目が発売された現時点での不安は中古車価格だろう。安い買い物ではないクルマの場合、リセールバリューが見えないと手を出しづらいのが現実だ。

指一本で完全自動駐車(しかも縦列、後ろ向き、前向きの全パターン)してくれる「プロパイロットパーキング」は新型リーフだけのハイテク。一度体験するとそのすごさがわかる?

中古のバッテリーがビジネスに

■中古バッテリーがビジネスになる!

その理由ははっきりしている。中古のリーフはバッテリーの劣化の度合いがクルマでバラつきがあり、それを金額に反映させる基準も定まっていない。しかも現状では、バッテリーの交換費用も高額。バッテリーの問題は、EV抵抗勢力にとっても最大のツッコミどころになっている。

それでも日産は初代リーフの発売時から「リーフのバッテリーはリユースする」と言い続けていて、そのために「フォーアールエナジー(以下、4RE)」というリユース会社を設立していた。ただし、実際のリユースに関する動きが、つい最近まで見えてこなかったのも事実だ。

しかし今春、4REは福島県浪江町に日本初の「使用済みEV用リチウムイオンバッテリーの再利用と再製品化」のための工場を設立。バッテリーのリユース事業をいよいよ本格稼働させるのだ。

リーフのバッテリーリユース事業は、リーフのバッテリーを缶詰状のモジュール単位に分解して、一個一個を性能ごとに分類。劣化の度合いや性能レベルに応じて最適な用途に再使用するという。

4REの二見 徹(ふたみ・とおる)氏は次のように説明する。

「日産が本格的にリチウムイオンバッテリーを使ったEVを作り始めたのは1990年代からですが、『EVはバッテリーのリユースまでセットでやるべき』が、最初からの日産の基本姿勢です。

ただ、それをビジネス化するには、原料(=中古のバッテリー)が出回らないと始まりせん。日本で11年からお客さまの手に渡り始めた初代リーフが、補助金を受けて購入した場合の保有期間(6年)をまっとうして流通し始めたのが昨年です。この時期を目標に、リユースの技術開発をしていました」

リユース事業はまず、リーフのバッテリーを回収して48個のモジュールに分解。各モジュールを劣化の度合いに応じて、グレード分けすることから始まるという。

リーフの使用済みバッテリーを使った大容量蓄電池システム。最終的には世界のEVがつながって巨大な蓄電池となり、世界の電力供給をコントロールするのが未来の姿…とうれしそうに語る二見氏。

その後の用途は「まだ秘密」ということだが、劣化の少ないモジュールは再びEVに、ワンランク低いものはフォークリフトやゴルフカートなどの簡便な乗り物に、さらにはメガソーラーや家庭用の据え置き型蓄電池、そしてもっと容量が減ってしまったら、公園の街灯用などへの転用が考えられるという。

EV用バッテリーは世にある蓄電池の中で最も高性能な部類に入る。一般家庭なら2、3日分を賄える電力が蓄えられるリーフのバッテリー(kWh)は、自宅でつなげば非常用電源になるし、家庭用の据え置き型なら数百万円で売られても不思議ではない性能を持つのだ。そんなバッテリーだから、きちんとビジネス化できれば劣化しても十二分に価値はある。

4REのリユース事業が本格稼働すれば、バッテリーの下取り相場が確立されて、リーフ用のリビルドバッテリーも供給されるようになるだろう。そうなれば、リーフのリセールバリューも安定する期待ができそうだ。

日産の調査では、リーフに乗る約70%のドライバーが、「もうガソリン車には戻れない」と答えているという。今回、明らかになった新型リーフのしたたかな戦略がEV抵抗勢力の息の根を止めそう(!)な今、その比率が100%になる日も近い!?

北原寛樹(きたはら・ひろき)今やグローバル企業の日産は、役職名もカッコいい。北原さんは国内商品企画を担当する。2代目リーフの魅力を知り尽くしている男だ。

二見 徹(ふたみ・とおる)東大工学部で電子工学を専攻して1981年に日産入社。自動車メーカーに就職したのは「EV時代が必ず来る」と確信していたから。現在はバッテリーのリユース事業に従事。

(取材・文/宇田健一郎 撮影/岡倉禎志[リーフ、二見氏] 樋口 涼[北原氏])