ルノーのラインナップでは中核に位置するメガーヌは2017年10月にフルモデルチェンジ。ライバルは、VW(フォルクスワーゲン)のゴルフ、マツダのアクセラなどのクラスに当たる、いわゆる、Cセグメントに分類される。街乗りから遠出まで、バランスよく乗りこなせるモデルとなれば、幅広い客の好みに受け入れられるべく保守的路線を歩むのが一般的。
ところが、4代目メガーヌのスタイリングときたらどうだろう。フロント周りは、これまでになかったシャープでエッジが効いたディテールで緻密に描かれ、洗練された佇(たたず)まいに進化している。日本市場にはスポーツ仕様でハッチバックの「GT」と「GT-Line」、ワゴンモデルの「スポーツツアラーGT」の3モデルが導入されている。どれも大径ホイールを装着し、低く身構えた姿が勇ましい。
その一方で、リアスタイルの「アクの強さ」には圧倒されてしまう。私が思わず目を奪われたのは、バックドアの幅いっぱいに主張する大型テールランプのデザイン。最初はギョッとしたが、2度、3度と見ているうちに、不思議と引き込まれていく。メガーヌのひとクセあるデザインは、洗練をたどりながらも、世の中の流れに一石を投じようとする、強い意志がこちらに伝わってくる。
インテリアに目を向けると、コックピットはルノー持ち前のスポーティな世界観にプラスして、先進感と上質感がグッと高められた。飛躍的に進化を遂げたと感じるのは、インパネの一等地に埋め込まれた7インチのタッチ式のスクリーン。手持ちのスマホをつないで、マップのナビ機能や音楽再生などが連携するApple CarPlayやAndroid Autoに対応。ルノー独自のマルチメディアシステム「R-Link 2」は、それ以外にも、ハンズフリー通話や車両設定を行なうことができる。
これまでのルノー車は複雑な機能よりも直感的に向き合えるアナログ装備を備えてきたが、新型では乗り手がクルマの機能を使いこなす新しいインターフェースで今ドキのクルマに追いついてきた印象だ。
注目してほしい新技術
【SPEC】
今回はハッチバックの上級仕様「GT」に試乗したが、内装各部の質感の高さに驚かされる。ブラックの内装にはブルーのアクセントカラーをメーターや加飾パネルに採用。レザー×アルカンターラのスポーツシートは低くレイアウトされ、深く彫り込んだ造形が乗員の体躯を支え、体圧を均一に分散させる。パンチング加工を施したステアリングは握りの径が太く、手が添えやすい立体的な造形になっている。実際に走らせてみると、タイヤなどの状態が手のひらから感じとりやすく、正確な運転操作に結びつく。スポーツドライビングに覚えのある人は思わずニヤリとしてしまいそうだ。
パワーユニットは、GT-Lineには1.2リットルの直噴ターボエンジン。GTは1.6リットルの直噴ターボでどちらも変速レスポンスに優れた7速のデュアルクラッチトランスミッションが搭載される。1.6リットルで205馬力を発生するGTはドライバーの意思に応える情熱的なパワーフィールを披露。しかし、それ以上に意識させられるのは、GT専用にスポーティなチューニングを施したシャシーのほうだ。
足元には18インチのハイグリップタイヤが装着されていて、ドライバーはクルマを意のままに操縦して走れる喜びに没頭してしまうことだろう。それでいて、ストイックなモデルにありがちな上下動やいやな揺すられ感を感じにくい快適性の高さにも驚かされる。そのあたりはガッチリ構えた骨格もさることながら、タイヤを路面に沿わせながら、全体の動きを見事に調和してみせる職人的な領域の技術力の高さをうかがわせる。
さらに、ドライブをより情熱的で楽しいものに変える新技術にも注目してほしい。新型メガーヌには、街での小回り性と高速走行やワインディング路で優れたコーナーリング性能をもたらす四輪操舵システムが採用されている。低速域でハンドルを切ると後輪に切れ角が生じて小回りが利き、高速走行で切り込むと前輪と同位相で後輪をわずかに切り込む。高速走行時の安定性にも効果をもたらすだろう。ただし、カーブを高めの車速で通過すると、後席の乗員はクルマ酔いしやすい状況が生まれやすいので配慮が必要だ。
単に走りに情熱を傾けるだけにとどまらず、予防安全機能を含む先進機能を満載した4代目メガーヌ。ルノーの類いまれな個性に現代的な価値をプラスした戦略が、これからファン層の心をどうとらえていくのか注目したい。
(撮影/池之平昌信)
●藤島知子(ふじしま・ともこ) 1975年生まれ、神奈川県出身。文教大学女子短期大学部英語英文科卒業。01年にスーパー耐久のレースクイーンを経験。その翌年からレーサーに転身。国際C級ライセンスを持つ。テレビ神奈川『クルマでいこう!』にレギュラー出演中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。