アルファードとヴェルファイアは、顔と名前以外はほぼ同じの兄弟車。
今回の一部改良によって、この兄弟が空前絶後のゴツ顔に大変身し、絶賛爆売れ中ーーその人気の秘密に迫った!
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トヨタが誇る超高級ミニバン兄弟「アルファード」と「ヴェルファイア」(以下、アル・ヴェル)が爆売れ中だ。一部改良を施して、今年1月に発売されるや、300万円以上する価格ながら、約1ヵ月でアルファードは約1万4000台、ヴェルファイアは約1万1千台を受注したのだ!
そもそも現行のアル・ヴェルは2015年に登場した。アルファードは3代目、ヴェルファイアは2代目だ。今年2月までの累計販売台数は、02年登場のアルファードが約78万9千台、08年登場のヴェルファイアが約47万5千台という人気車である。
また、自販連(日本自動車販売協会連合会)の新車販売ランキング(軽自動車、輸入車を除く)では、昨年、ヴェルファイアは約4万7千台で22位、アルファードは約4万2千台で25位。兄弟の販売台数を合計すると実は9位に躍り出る。最大のライバルである日産のエルグランドが約8千台で49位だったことを踏まえると、今や高級ミニバン市場はアル・ヴェルの独走状態なのだ。
しかも、今回の改良でアル・ヴェルは人気の顔を磨き“オラオラ度”をさらに大増量。史上最強のゴツ顔へと進化した。ちなみに新型アルファードのキャッチコピーは「大胆に、前へ。」で、ヴェルファイアは「圧倒するか、圧倒されるか。」だ。
アルファード
では、いつからアル・ヴェルは“オラオラ顔”になったのか。自動車専門誌『カー・アンド・ドライバー』の竹内龍男編集長はこう解説する。
「アルファードも02年の初代、08年の2代目は比較的ジェントルフェイスでした。激変したのは15年の3代目からで、鎧兜(よろいかぶと)のようなゴツいマスクに。これには10年に始まったアル・ヴェルのアジア輸出が強く影響しています」
実は現在、アル・ヴェルは中国、台湾、香港、マレーシア、ロシア、中近東などの国々へ輸出されている。
「アル・ヴェルは日本から完成車として輸出されるので、関税がべらぼうに高い。輸出先でアル・ヴェルは1500万円クラスの高級車になってしまう。使われ方もショーファー付きリムジン。まさにVIP御用達カーです。価格に見合う圧倒的な貫禄や、わかりやすい威厳、高級感が必要になるわけです」
ヴェルファイア
なぜ日本国内でこんなに売れるのか?
■大ヒットの背景に現代の交通事情
とはいえ、賛否も巻き起こしているこのゴツ顔が、なぜ日本国内でこんなに売れるのか。自動車ジャーナリストの藤島知子氏はこう話す。
「大空間の車内でゆったり過ごせるのは大きな魅力です。特にエグゼクティブラウンジ仕様のセカンドシートは、仕立ての良いレザーシート、パワーオットマンや木目調の折りたたみテーブルまで用意されていたりして、飛行機のビジネスクラス級。後席でくつろぐ家族やVIPは、高級セダンでも得られない居心地のよさが堪能できます」
改良1 シフトまわりも変身!!!
さらに、アル・ヴェルの売れ筋グレードは、大仰なエアロパーツが装着されるタイプであることも見逃せない。ド迫力な顔と巨体で近づくだけでも怖い、この威圧的なクルマが日本で好まれている理由はいったいどこにあるのか。前出の竹内氏がこう分析する。
「煽(あお)り運転が社会問題となっていますが、現代の交通事情はまさに戦場です。考え方が間違っている、いないは別として、走行中にほかのクルマに煽られない、割り込まれない、あるいは譲ってもらえる、それは一種の価値になります。そういった価値の高さはひと昔前だとメルセデス・ベンツでしたが、現代はアル・ヴェル。ベンツより安くて広くて故障も少ないですし」
前出の藤島氏もこう語る。
「現行モデルの発売当初は、“日本車で最大のメッキ面積を持つ乗用車”と言われただけあって、ギラギラしたグリルに『ちょっとやりすぎ?』と思いましたが、今となってみれば堂々たる風格と細部の仕立ての良さも手伝って、品格さえ感じる。デザイナーにしてやられたなと」
改良2 最上級のセカンドシートに新色が登場
今回の一部改良ではデザイン以外の変更もある。目玉は第2世代に突入した「トヨタセーフティセンス」を初採用したこと。減速可能速度が増し、レーダーとカメラにより自転車の飛び出しや夜間の歩行者を検知して自動ブレーキを働かせる、世界最高水準の安全支援システムとなった。
また、ドライバーアシストとして以前から採用の追従型クルーズコントロールに加え、高速道路では渋滞中も含めて車線の中央を維持するハンドル操作機構「LTA(レーントレーシングアシスト)」も組み込んできた。
ちなみにエンジンもV6が280から301馬力に、ATも8速へアップデートした。Lサイズミニバンで販売台数トップに立つ王者ながら、改良ですべてを磨いたアル・ヴェル。この人気は続きそうだ。
(取材・文/黒羽幸宏 撮影/本田雄士)