蒙古襲来に神風! 日本テニス界に大坂なおみ! 救世主は意外なところからやって来るもんだけど、そのクルマ版がコイツかも? 日産流新ハイブリッド魔球第2弾、セレナe-POWERがそれだ!
ちなみに日産流新ハイブリッド魔球第1弾はコンパクトカーのノートe-POWERで、2016年11月に登場した日産待望のFF用2モーターハイブリッドシステムである。とはいえ、さほど本格的に造られたものじゃなく、EV(電気自動車)のリーフのモーターとインバーターを流用し、コンパクトカー用の高効率1.2リットル直3エンジンと組み合わせたシンプルシステム。専用開発というより日産の“まかない飯”的な感じ。
実際、トヨタハイブリッドのごとき複雑なギア機構は存在せず、エンジンを発電用と割り切り、加速をモーターのみで行なうEV風の走り味がご自慢なのである。
結果、日産も普通にハイブリッドとは呼ばず、e-POWERとEV風に売ったわけだがコイツが奇跡のバカウケ! 第1弾のノートe-POWERは、なんと日産車としては1986年9月のサニー以来実に30年ぶりに国内全モデルの中でトップに立つ、歴史的快挙を達成!
おそらくハイブリッドならではの低燃費と、エンジンパワーを直接加速に使うトヨタ方式と違う滑らかなEV加速、そして日産が初導入したアクセルペダルひとつで加減速を行なえるワンペダル(アクセルを緩めると発電ブレーキがかかるモーター特性を強調。ブレーキペダルを踏まなくても停止する)がウケた理由だろう。
ノートで大ヒットしたe-POWERを同じFFベースの超人気ミニバン「セレナ」に移植すれば売れる!と日産はもくろんで(?)今回市場に投入。しかし、疑り深い小沢はそんなうまくいくわきゃない!と踏んでいた。だってFFコンパクトのノートにe-POWERを搭載してもモード燃費でアクアを上回っていない。それをさらにデカくて重いミニバンに搭載したところで…。
だが、練りに練って3月に発売されたセレナe-POWERに乗ったらコレが予想外の出来で驚いた! モード燃費は、最強ライバルであるトヨタのノア&ヴォクシー&エスクァイアのハイブリッドが23.8km/リットル、ホンダのステップワゴンハイブリッドが25km/リットルのところ、セレナは26.2km/リットル! 見事にクラストップの数字を叩き出したのである!
ノート以上に透き通った上質な加速
【SPEC】
日産の開発関係者に聞いたら、「e-POWERの基本はノートと同じ」と言いつつも、セレナe-POWERはノートe-POWERよりも25%もモーター出力を向上させ、最大トルク320Nm/最高出力100kW(136馬力)にしてきた。具体的には、1.2リットルエンジンはオイルクーラー追加で出力を7%上げ、さらに走行用バッテリーを20%アップ。EVの性能を上げて、低燃費と走りを両立させた。
結果、驚かされたのがへたするとノート以上に透き通った上質な加速だ。アクセルを踏むとスーッと滑らかに走りだすのである。コレが実に気持ちいい!
日産ご自慢のワンペダルもスゴくて、街中でブレーキとアクセルペダルを踏み替えるのは1、2回程度。超楽だった。
オマケにラミネート入りフロントウインドウや日産初の4層センターフロアカーペットなど、遮音パーツを25アイテムも増やしてるから超静か。マジでハイブリッドミニバンとして別次元に到達した感じである。
また、ハイブリッド化によるスペース的弊害もほぼナシ。走行用バッテリーを1列目シート下に、鉛バッテリーをエンジンルームに突っ込んでるから3列目スペースやラゲッジはノーマルのセレナと遜色なし。唯一、e-POWERは高級グレードって扱いで2列目は7人乗りとなるキャプテンシートしか選べない。それ以外は問題ナシ!
セレナの元々の売りであるリアガラスが単独で開く便利なデュアルバックドア、3列目からも動かせる電動スライドドア、鏡面を液晶ディスプレイに切り替え、車両後方のカメラの映像を投影して後方視界を確保するスマートルームミラーも健在。特にスマートルームミラーは荷室の荷物や後部座席の乗員で視界が悪い場合も、カメラ表示に切り替えることで後方を確認しやすくなる。実に便利な機能だ。
見た目もフロントV字マスクに効果的にブルーラインが入っており、程よく別物感アリ! ライバルであるトヨタのミニバン3兄弟との戦いはマジで見物だ。日産に神風が吹くかも!
●小沢コージ 1966年生まれ、神奈川県出身。青山学院大学卒業後、本田技研工業に就職。90年に自動車誌の編集者に。著書に『マクラーレンホンダが世界を制する!』(宝島社新書)など多数。TBSラジオ『週刊自動車批評』レギュラー出演中。日本&世界カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。