キーはポケットに入れたままドアの取っ手に触れたり、ボタンひとつ押せば解錠できる便利なシステム、スマートキー。近頃は高級車から軽まで多くの車種に装備されている

福岡県でプリウスが大量に盗まれる犯罪が発生するなど、キープログラマーという機械を使ったクルマ盗難が増えている。

一体、どんな手口なのか? 愛車を守るためにはどうしたら? カギを扱う専門業者や中古車業界に取材し、事件のウラ側に迫る!

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ポケットにキーを入れたままドアの解錠やエンジンの始動ができる「電子キー」(スマートキー)。かつては高級車の装備だったが、今では軽自動車にも用意される人気ぶりだ。

雨の日に傘を片手にポケットを探る必要もないし、エンジン始動もボタンを押すだけでOK。その快適な使い心地に、もう従来のキーには戻れないと感じる人も少なくないだろう。

ところが、このスマートキーを採用するクルマの盗難が増えている。今年3月には、福岡県でスマートキーのクルマ11台を盗んだ男が窃盗などの容疑で逮捕された。うち9台はトヨタ・プリウスで、容疑者の男は「プリウスは人気で買い手が多いから狙った」と供述しているという。

しかし、物理的なキーならいざ知らず、イグニッションのカギ穴すらないクルマをどうやって盗むのだろうか。カギを紛失したクルマの解錠などを請け負う「カギの緊急隊」の三浦英治(ひではる)氏は、スマートキーの仕組みを次のように説明する。

「スマートキーを採用するクルマからは微弱な電波が出ています。その電波を使いスマートキーとクルマが通信し、互いのIDが一致したらドアの解錠、エンジンの始動が可能になるのです」

ではスマートキーがない状態で、どうやってクルマのドアを開け、エンジンを動かすのか?

「まずドアのカギをピッキングにより解錠し、クルマに乗り込みます。ドアにカギ穴がない場合は、クルマの目立たない所に用意された緊急用のカギ穴を使います。

その先はクルマにより若干の違いはありますが、クルマが発する電波を『キープログラマー』という専用の機器で拾い、電波から読み取ったIDを真っさらな(IDが登録されていない)スマートキーに書き込むという手順となります。そうして作ったスマートキーは忠実なコピーですから、本物同様に解錠、エンジン始動ができます」(三浦氏)

と、言葉で書くとカンタンだが、実際にはかなりの経験とノウハウが必要だという。

「こうしたキープログラマーは、中国製、韓国製、イタリア製などが流通していますが、素人が手に入れてもすぐに使いこなせるわけではありません。真っさらなスマートキーについても、私たちのような解錠業者は自動車ディーラーと取引があり、正規ルートから仕入れていますが、一般の人が問い合わせてもおいそれと売ってくれるものではない。

こうしたスマートキーの特性を悪用したクルマの盗難が多発している背景には、スマートキー解錠のノウハウを熟知した海外のプロの存在がうかがえます」(三浦氏)

三浦氏によると、イモビライザーやスマートキーがクルマに搭載され始めた当初、日本の解錠専門業者には技術や知識がなく、まったく対応できなかったという。しかし中国や韓国の民間業者ではそれらの解析が進んでいて、日本の業者が教えを請うという流れがあった。そしてこの分野では、今も日本より進んでいるというのだ。

「キープログラマーと真っさらなスマートキーを手に入れることのできる海外の犯罪組織が、日本の窃盗団にノウハウを教えている可能性もあるのではないでしょうか」(三浦氏)

前述の福岡県で逮捕された男がプリウスばかりを狙っていたように、特定の車種を素早く盗むやり方が確立しているとすれば、オーナーにとって悪夢のような話だ。

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(取材・文/植村祐介 写真/村上庄吾)