VW(フォルクスワーゲン)のフラッグシップサルーンであるパサート。今年2月、ついにディーゼルエンジン搭載モデルが日本で発売開始となった。
なぜ、「ついに」と強調したのかといえば、VWは2015年にディーゼルエンジンの排出ガス偽装が発覚した。あの事件によってVWのイメージは低下。しかも、欧州ではディーゼルエンジン搭載車自体の市場が縮小しつつある。しかしながら、問題となったディーゼルエンジンは、ひと世代前のエンジンであり、最新のディーゼルエンジンそのものに罪はない。
ちなみに当時、日本市場はVWが日本導入を準備していたが、偽装発覚により計画は頓挫した。このままVWのディーゼル搭載モデルの日本上陸は白紙のままだろう…と、誰もが思っていた。だが、VW グループ ジャパンは今年ついに、パサートのディーゼルエンジン搭載モデルを日本で販売することを決めたのである。
この決断をどうとらえるべきなのか? ディーゼル問題の本質を知らなければ、世界的な問題になったのになぜ?と眉をひそめる人もいるだろう。もちろん、それをVW グループ ジャパンもわかっている。では、あえて日本導入を決めた理由はどこか。それはVWの持つディーゼルエンジンのテクノロジーそのものに自信があるし、日本市場に導入を決めたということは、この新型ディーゼルエンジンは潔白であることを示す意味合いもあっただろう。
というのも、実は日本のディーゼル車に対する検査というのは世界一厳しいといわれているからだ。その厳しい検査を通過して日本で販売できれば、ディーゼルエンジンとして一切の問題がないことを意味している。要するにこの検査を通過できた、それはイコールで性能も担保されたということなのだ。
問題があって、そのイメージが消えないから出さないのではなく、そのイメージを打ち消すために投入する。VWの日本市場に対する真摯(しんし)な姿勢を感じずにはいられない。
そして、やっとパサートTDIが日本に上陸したってわけだ。ちなみに昨年、国内での輸入車販売は20年ぶりに30万台を突破した。その中でクリーンディーゼル車の割合は2割超と躍進を遂げている。この好調なセールスを記録するディーゼルモデルが今回の日本投入の呼び水になった可能性はあるだろう。
そうしたガソリンエンジン搭載のパサートと比べてどうだったか?
【SPEC】
と、長い前置きになったが、実際に導入されたディーゼルエンジンは、最新のテクノロジーが用いられている。排気量2リットルの直列4気筒ディーゼルターボは、最高出力190馬力、最大トルク40.8kgmを発生する。これは欧州のライバルたちが搭載する2リットルディーゼルターボとほぼ同じスペック。そして組み合わせるトランスミッションは6速のDSG。
では、実際に走らせてみてどうだったか? 実はパサートはすでにガソリンエンジン搭載モデルが日本で発売され、高く評価されている。静かで乗り心地も良く、コスパも優れていて…といった具合でまさに「悪くない」という選択肢の一台だ。そうしたガソリンエンジン搭載のパサートと比べてどうだったか?
まずディーゼル車は相対的にガソリン車に比べると車両重量が重くなる。実際、パサートもガソリンとディーゼルでは約100kgの差があり、当然ディーゼルのほうが重い。これによってまず違うのは走りだ。ディーゼル車はガソリン車よりも重厚感のあるどっしりとした乗り味になる。これは良い点。
一方、ボディが重くなるため、走りやちょっとした動きに重さが出てしまう。これが悪い点である。加えてガソリンのパサートはその乗り味が軽快でしなやかだったが、ディーゼルモデルは重いからか乗り心地面でやや硬さが目立ち、路面の荒れたところや段差通過ではボディにハッキリと衝撃が入ってきた。
とはいえ、その走りはさすがにドイツのクルマだ。高速ではフラットな乗り味走り味を見せて抜群の安定感を見せてくれる一台であった。だが、ガソリン車と比べると、あちらが静かでしなやかな走りを持つだけに、ディーゼル特有の“音”が気になる人も多いかもしれない。
今回、珍しく厳しい評価になっているけど、これはパサートTDIが登場から約2年以上経過してから日本に導入された面もある。日本への導入自体は英断といえるが、この間にライバルのトランスミッションは8速や9速へと進化しているのは確かなのだ。
今後の改良などで、ライバルを猛追する態勢が整うことに期待したい。
●河口まなぶ 1970年生まれ、茨城県出身。日本大学藝術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌(モーターマガジン社)アルバイトを経て自動車ジャーナリスト。毎週金曜22時からYouTube LIVEにて司会を務める『LOVECARS!TV!』がオンエア中。02年から日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。