直列6気筒エンジンを搭載したベンツS450メルセデス・ベンツ日本が3月1日に発表したS450というモデルは、今どき珍しい直列6気筒エンジン(以下、直6)を20年ぶりに搭載して話題を呼んでいる。

では、なぜ直6が珍しいかといえば、このエンジンは全長が長い上にクルマのボンネットの中に縦置きされるため、最近の衝突安全を考えると、衝突時にエンジン が押されて室内に侵入する可能性があるため不利な構造だからである。そのため、現在ではBMWが一部採用しているくらいだ。

実際、メルセデ ス・ベンツも、そうした安全性等を理由として、直6の採用をやめていたが、ついに復活させた。実はこのエンジンが単なる直6ではなく、「ISG(インテグ レーテッド・スターター・ジェネレーター)」というシステムを組み込んだ新世代のものだからだ。このISGはスズキがSエネチャージという名前で使ってい るシステムと似たもの。

しかし、メルセデスが今回直6に組み合わせたISGは、エンジンとトランスミッションの間に電気モーターを与えたの が最大の特徴。そして、このモーターがスターターとジェネレーター(発電機)を兼ねている。ISGは減速時に回生ブレーキによる発電を行ない、加速時には エンジン回転の低い領域で補助動力のモーターとして使われ、力強い加速を実現する。

しかも! 直6にこのISGを組み込めば、従来のエンジンにあったスターターやジェネレーターが不要となるので、これを駆動するベルト類も不要となり、エンジンの全長をコンパクトにできる。結果、衝突安全をクリアしながらも、直6の搭載が可能に!

最近ではエンジン+モーターという電化は、HV(ハイブリッド車)などで当たり前になったが、今回の直6復活も、現代的な電化によって、もたらされたといえ る。実際乗るとこれがすごく説得力があるパワーユニットだ。エンジンを始動させると、アイドリングは500回転と低く保たれているので、もともと静かな高 級サルーンであるSクラスではあるが、エンジンが始動しているかもわからないほどだ。

走りだそうとアクセルを踏み込むと衝撃が走る! アク セルをわずかに踏んだだけなのに、クルマが間髪入れず動きだす。まるで、HVやEV(電気自動車)のようにスッと抵抗なく動きだすのだ。まさにモーターで 走りだすからこそのワザである。さらに速度が上がる途中の感覚も普通のクルマと違う。エンジンの回転が吹け上がる気持ち良さは確かに感じるが、それ以上に 滑らかな力が湧き上がる。ちなみにこのエンジン、3リットルで最高出力は367馬力を実現しているのだ。【SPEC】 ●9速AT●全長×全幅×全高:5125mm×1899mm×1493mm●車両重量:2040kg●エンジン:3リットル直6気筒DOHC24バルブターボ+スーパーチャージャー●駆動方式:FR●最高出力:367PS●最大トルク:51.0kgm●使用燃料:無鉛プレミアム●車両本体価格:1363万円(税込)走りだした直後はモーターがアシストしてエンジンが苦手とする低回転域をカバーする。そして回転が上がると今度は、さらに中回転域をカバーする電動 のスーパーチャージャーは48Vで稼働し、発進など低回転時の出力を高め、加速を良くしている。それ以降はツインスクロールターボチャージャーが受け継 ぐ。つまり、モーター→電動スーパーチャージャー→ツインスクロールターボという黄金リレーが展開されているのだ! これは贅沢(ぜいたく)な仕組みであ る。

しかも! 燃費のことも当然きめ細かに考えており、高速道路でエコモードにして、ある程度スピードが乗った状態でアクセルから足を離 す。すると、エンジンは回転を停止する。いわゆるコースティング機構(惰性走行)も与えられている。これでエンジンブレーキをかけず、空走することで、燃 費を稼ぐと同時に環境に対する負荷を下げているのだ。

そしてアクセルに再び足を載せると、エンジンは再始動する。だが、この再始動もほぼ判 別不能(笑)。なぜならエンジンがかかるときの振動は皆無だからだ。なので交差点で止まってアイドリングストップして、さらに再発進するときも、いわゆる エンジン音と、あの独特の振動を感じない。

しかも! 一般道でも高速でも、巡行からの再加速が超気持ちいい! この加速の伸び方はEVに匹敵する滑らかさで力強く素早い。まさに新たな時代の加速だった。モーターと内燃機関の見事なハーモニーが展開されているからだ。

この新世代感覚の強いパワーユニットの意味は、伝統の直6エンジンの復活ではなく、電動化時代を見据えたものではないか。ちなみにメルセデス・ベンツは2022年までにEVを10車種以上に投入し、全車種にHV、EVを展開する予定だ。

●河口まなぶ
1970年生まれ、茨城県出身。日本大学藝術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌(モーターマガジン社)アルバイトを経て自動車ジャーナリスト。毎週金曜22 時からYouTube LIVEにて司会を務める『LOVECARS!TV!』がオンエア中。02年から日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員