6月26日、東京・お台場「メガウェブ」で、トヨタの豊田章男社長は「コネクテッドカー普及に本気で取り組む」とアピールした

クルマがネットにつながるといったい何が変わるのか? おなじみ自動車ジャーナリストの小沢コージが取材してきた。

■「この指と~まれ!」その真意とは!?

いったいなんなんだ、この驚愕(きょうがく)パフォーマンスは! 先月、トヨタがちょっと不思議な発表イベントを行なった。それもトヨタのトップであり、ニッポン経済界の大立者、豊田章男社長、そして友山茂樹副社長が登壇したのだ。

その場所は、東京を含む、全国7会場を中継でつないだイベント「ザ・コネクテッド・デイ」。会場にはマスコミだけでなく、東京で約200人、全国では500人以上が公募により集まった。

トークを終えた章男社長は、突如右手の人さし指を上げ、「皆さん、私たちと一緒に自動車の未来をつくりませんか! ご賛同いただける方、この指と~まれ!」と叫んだのだ。今までにないフレンドリーさと大胆な意思表明ぶりにオザワは不思議な潮目を感じた。何か新しいことが起こっているのだ。

そもそもこの「コネクテッド・デイ」からして異例だ。もともとは誕生から63年目を迎えたトヨタ最長老セダンたる15代目新型クラウンと、世界累計4600万台超の圧倒的ベストセラーカー、12代目新型カローラの合同発表会であった。どちらもピンで勝負できるクルマなのに、なぜかあえて一緒に発表した。その裏には深い狙いがあったのだ。

実は両車はトヨタが"初代コネクテッドカー"と名づけた新世代のクルマ。IoT(モノのインターネット)、つまりインターネットと常時接続することを前提としたクルマだ。要するに走るスマホなのだ。それも長老クラウンと最量販カローラを同時にスマホ化したところに大きな意味がある。それが証拠に章男社長は発表イベントでこう話している。

「今はクルマに求められる楽しさの概念が大きく変わってきている。走る曲がる止まるに加えて、つながるという新たな性能がこれからのクルマに求められているのです。クラウンとカローラに搭載するということは、(トヨタが)コネクテッドカーの普及に本気で取り組むということです」

実際、新型クラウンと新型カローラに車載通信機DCM(データ・コミュニケーション・モジュール)が全車標準装備される。

これはまさに章男社長が年始に宣言した「自動車を造る会社から、モビリティカンパニーにモデルチェンジする」という変革の第一歩である。

何しろカローラは今も世界150ヵ国で年間121万台を販売している。クラウンとカローラが全車コネクテッド化すれば膨大な走る端末が誕生することを意味する。トヨタも、今後年間150万台規模の国内新車をコネクテッドカーにすると話している。

とはいえ、これは言うほど簡単なことではない。クルマがIoT化するということは、ものすごい頻度でユーザーとメーカー、あるいは販売店がネットを通じてやりとりする。特に販売店のネット窓口スタッフは相当な意識改革が必要になるのではないか。平日の昼間でもユーザーからガンガン連絡が届く可能性があり、ヘタすると部署的には24時間対応を迫られるかもしれない。

「もはやクルマはメーカーが単独で造るものではない」

そう章男社長は語っているが、それはあながちウソじゃないのである。

■車内Wi-Fiが搭載されない理由

オザワが驚いたのは、「コネクテッド・デイ」の翌日。この記事を新聞もテレビも大きく扱っていたことだ。いかにコネクテッドカーが注目されているかわかる。一方で、まず気になるのは肝心のクラウン&カローラの初代コネクテッドカーが、いったいどれくらいのレベルで走るスマホ化しているかだ。

今回のコネクテッド機能のキモは、24時間4G回線でネット接続できる一方、基本的にはトヨタ内のコンテンツにしかつながらない。要はかつてのドコモのiモードみたいな仕様で、ネットの大海原には接続されていないのだ。

唯一の例外は「LINEマイカーアカウント」で、普段使っているLINEアプリに自分の愛車を「友だち」として登録することにより、トーク機能で事前に行きたいところを伝えると、車載ナビに直接メモリーでき、目的地への所要時間や距離を踏まえ、出発時間や給油タイミングを教えてくれる。いわゆる走るスマホ的な機能はその程度だ。

あとのコンシェルジュ機能たるオペレーターサービスはレクサスに標準装備されているし、ヘルプネットも同様だ。また、BMW、メルセデス、アウディはすでにかなりの車両が車載通信機が標準搭載で、アウディは車内Wi-Fiも使えたりするが、トヨタは未対応だ。

しかし、今年3月の「NYオートショー」で発表された北米仕様のカローラは、AppleのCarPlayやAmazonのAlexaもつながるし、車内Wi-Fiも装備。日本版が遅れ気味なのが気になるが、カローラの小西良樹チーフエンジニアは言う。

「今回の国内仕様はまだ入っておりませんが、車内Wi-Fiとかスマホ連携といったところは随時広げていくことになると思います。北米カローラはAmazonのAlexaもつながりますし、技術的にはご用意できます。あとはそれぞれの地域に戦略的にどのタイミングで広げていくかだけです。もう少しだけお待ちください」

それとオザワが気になっていたのが情報漏洩(ろうえい)問題だ。仮にFacebookやTwitterなど世界的アプリに常時ネット接続できるようにした場合、実はトヨタのビッグデータが吸い取られてしまうという問題がある。

「そこはひとつ解決策があって、SDL(スマート・デバイス・リンク)を使うことで自動車メーカーがIT企業と共同しながら独立性を保つことができます。SDLという基盤によって、膨大な情報をストップさせることができる。もうすでにそういう戦いに突入しています」

今後、激化が予想されるIoTカー競争。まだトヨタ車は世界トップの機能ではないが、さらに先へと進むのは当然のことである。

トヨタは今回の「コネクテッド・デイ」をきっかけに、20年までに日米で販売するほぼすべての新車にDCMを標準搭載する計画も立てているし、世界中で通信できる機能を備えたKDDI製SIMカードを19年からトヨタ車に供給することが決まっている(実は、トヨタは京セラに次ぐKDDIの主要株主なのだ)。

だが、KDDIのライバルたるNTTグループともトヨタは協業しているわけで、節操がないというよりかは、なりふり構っていられないのだろう。

正直、今どのグループのIoTカー技術が一番進んでいるかはわからない。だが、オザワ的にはトヨタが一番ハチャメチャだし、動きがダイナミックに見える。何しろ小学生じゃあるまいし社長自らが「この指と~まれ!」と大声で叫んじゃうんだもん。この戦争を勝ち抜くのは、やはりトヨタかもしんない!

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