自動車だけじゃない。今や飛行機も"電動"の時代になった。
7月9日、JAXAが「航空機電動化コンソーシアム」を設立して、ますます過熱する「eプレーン」の開発最前線を緊急リポート!
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7月9日、JAXA(宇宙航空研究開発機構)は日本の産学官が連携して電動飛行機の技術開発を進めることを目的とした「航空機電動化コンソーシアム」(共同事業体)の設立を発表した。これで日本も本格的に電動飛行機の開発に取り組むことになる。
「現在、電動飛行機は実証機で、4人乗りなら400km程度は飛べる段階にきています。また、グライダーにモーターがついたスポーツ機であれば、すでに市販されていて、今、飛行機の電動化の流れは、世界中で加速しています」
そう話すのは、JAXAで次世代航空イノベーションハブ・ハブマネージャを務める西沢 啓(あきら)氏だ。
「フランスの航空機メーカー、『エアバス』は『ロールス・ロイス』などと共同で、100人乗り程度の電動旅客機のサービスを2030年代~40年代に開始すると言っています。
また、アメリカの『ボーイング』は、航空機ベンチャーの『ズーナムエアロ』に出資して、12人乗りの電動小型機を2020年代前半に売り出す予定で、『飛行機ができたら買う』というローンチカスタマーがすでについています。
さらに、イギリスの格安航空会社『イージージェット』は、10年以内に電動飛行機の運行を始めると発表しています。イージージェットが導入を予定している飛行機の飛行距離は500km程度と短いのですが、イージージェットがカバーしているヨーロッパ路線は短距離が多いので、それで十分だということです。
そして、アメリカの『ウーバー』は、垂直に離着陸できる電動小型飛行機の開発を進めていて、2023年からサービスを開始する予定です」
このウーバーの電動小型飛行機が実現すれば、空のタクシー化が進むと西沢氏は言う。
「ウーバーは電動小型飛行機を都市内の輸送手段にするのが狙いです。『ウーバーエアー』を選択すると、現在地から電動小型飛行機の離着陸ポートまで自動車で移動して、そこで飛行機に乗り換え、目的地近くのポートまで飛んでいって、その後、自動車で目的地まで走る。それを23年からロサンゼルスやダラスでスタートするというのです。
小型飛行機は燃料代と整備代がコストの約半分を占めているので、燃料が電気に代わり、電動化でメンテナンスが簡単になれば、コストは4割ほど下がります。低料金になれば空のタクシーとして使うことも十分に可能です」
しかし、本当に5年後にウーバーの考えるような未来が来るのだろうか。航空ジャーナリストの坪田敦史氏が語る。
「重要なのはバッテリーです。スマホなどに搭載されているようなリチウムイオン電池は、まだ大容量のものが完成されていません。現在、電気自動車は実用化されていますが、オフロードなど大きなパワーを必要とするものはまだ市販されていない。それを考えると大きな飛行機を飛ばすだけのパワーを持った電池の開発は、かなりハードルが高いといえます」
西沢氏も電動飛行機には、まだまだ課題が多いという。
「今、最も性能のいい電池は1kg当たり180Whのエネルギーを出しますが、ジェット燃料だと1kg当たり1万2000Whです。現在の性能だと長距離を飛ぶことは難しく、大型の旅客機に使用するのは無理です。
また、電気自動車は加速する時間が十数秒程度ですが、飛行機は離陸上昇中の数分間フルパワーを出し続けます。すると電池やモーター、コントローラーに熱がどんどんたまっていきます。ガソリンやジェットエンジンは排出ガスで熱を捨てればいいのですが、電動飛行機だと、この熱をどう捨てるかという問題もあります。
さらに、垂直に飛び上がるタイプの電動飛行機は、安全性の問題がある。ドローンのようにプロペラが4つあって、それをモーターで回している場合、ひとつのモーターが故障するとバランスが崩れて落下することもある」
こうした問題をクリアすることが実用化の最低条件だ。
「日本はバッテリーや電動モーターなど、飛行機を電動化するために必要な高い技術を持っている企業がたくさんあります。しかし、実際に電動飛行機を丸ごと一機開発して飛ばすことはできていない。それはアメリカのボーイングやフランスのエアバスのような、業界を牽引(けんいん)する企業がなかったからです」(西沢氏)
そのためにJAXAが中心となって、航空機電動化コンソーシアムをつくったのだ。
「日本に出遅れ感はありますが、ポテンシャルは高い。日本の技術で、世界と闘う電動飛行機を造ります」(西沢氏)
オールジャパンの電動飛行機が飛ぶ日は近い!