「現代の魔法使い」落合陽一(左)と編集者の箕輪厚介(右)

今年で3年目を迎えた、落合陽一(おちあい・よういち)による筑波大学の超人気講義「コンテンツ応用論」。3rdシーズン最初のゲストは、「今日本で一番、売れる本をたくさんつくっている人」と落合が太鼓判を押す編集者・箕輪厚介(みのわ・こうすけ)だ。

幻冬舎の社員編集者でありながら、会員数1300人を超える日本有数のオンラインサロン「箕輪編集室」の主宰でもある箕輪は、自身の著書のタイトルにもなっている「死ぬこと以外かすり傷」をモットーに最先端の熱狂を追い続けている。今年1月には落合の著書『日本再興戦略』(幻冬舎、NewsPicks Books)を編集し、これもベストセラーとなった。

この日、落合は自作の下駄をつっかけての登壇。箕輪は対談の席について7分後、やおら黒の靴下を脱ぎだし、丸めてスニーカーに押し込んだ。裸の、ならぬ裸足の付き合いのふたりが、ビジネスモデル、大学のあり方、ブランドと宗教とオンラインサロン、そして死生観までざっくばらんに語り合う。

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落合 以前、箕輪さんが言ってたことで面白かったのは、「周囲の尖った人から意見を聞いて、その分だけ前に走れるのが俺の強みだ」ってこと。世の中の人たちが何を見てるかっていうのを先に知れるんだよね。

箕輪 そもそも編集者って、みんながなかなかできない体験をして「こんなに楽しかったぜ」という仕事。俺って別に特殊能力があったり肩書きがすごかったりするわけじゃないけど、落合さんから話を聞きだしたり、ホリエモン(堀江貴文氏)に普段誰も行けないような肉を食べに連れて行ってもらったり、そういうポジションにいるという"格差"をコンテンツにしているだけのような気がしますね。

俺が個人としてうれしいのは、やっぱり落合さんとかの"最先端の原液"に触れて、俺自身が楽しかったり成長したりするってことですよ。そういう経験を本にするのはけっこう時間がかかるけど、オンラインサロンでその瞬間に動画を流したり、感想を書いたりできるようになった、つまりみんなで追体験できるようになった――っていうのが今かなあ。それが半年後に本になって、みんながまねしようとする頃には、僕はもうそれやってるよ、っていう。

落合 それって、実はコンテンツが売られ始めた1900年代くらいから変わってないよね。例えば、僕は大臣とか市長さんとか上場企業の社長さんと、会食しながらディスカッションすることが多くて。それは箕輪さんがやってることとあまり変わりないんだけど、ただ僕の場合は専門の研究分野があるから、相手がノーベル賞受賞者だったりするかもしれないし、海外から来ためちゃめちゃでかい会社のCEOだったりするかもしれない。昔からそういうことはあったわけでしょ。

箕輪 当たり前のことだよね。

落合 つまり、大臣は大臣同士で話をするし、芸能の人なら芸能の人同士で話をして、そこで新しいコンテンツをつくり出していたわけだよね。

ただ、今はそのコンテンツが一般の人に近づいた。民主化されたんですよ。通信するのが早くなったから。

箕輪 僕みたいに、秋元康(プロデューサー)や見城徹(幻冬舎社長)じゃなくても、特権的なところに近づけるようになったってことね。情報の伝達コストが下がったから、波が広がった。それはすごくよくわかる。

例えば、見城さんって毎日のようにいろんな人と会食していて、たぶん昔はその場で(外に)言っちゃいけない話とかが決まってたと思うんですよ。でも、単純にLINEというツールができただけで、いち社員の僕に「箕輪、誰々とこういう話したよ」って送るようになった。それだけでもだいぶ違いますよね。社長室に呼んで言うほどのことではないが、LINEで気軽に送って箕輪が面白いと思ってくれるなら言おう、みたいなね。

落合 うん。それによってコンテンツのつくり方の敷居自体がだいぶ下がってきて、それがコミュニティになったりする。

それでいうと、僕がやってるのは"中間モデル"みたいなこと。例えば、僕は大学の先生として普通に研究室をやっている。これは古典的。会社経営もやっている。これも古典的。どっちも昔からある社会の仕組みだよね。そのなかに、例えばツイッターの発信を入れたり、オンラインサロンをやったりして、教育をアップデートしようとか。

僕が今、関心があるのは、レボリューション(革命)じゃなくてアップデート。全部一気に変えちゃうんじゃなくて、昔からある仕組みは保持しながら、もっと回るようにしたいなあと思ってやっている。

箕輪 なるほど。それはやってて楽しい? 昔の仕組みの中に新しいものを導入するカラクリをつくるのは、うれしいことなの?

落合 いや、例えば、うちの会社と大学は特別共同研究契約を結んでいるんだけど、そういうふうに「民間企業と国立大学の関係」をアップデートできたら、国立大学ってたくさんあるから、ほかでもできるでしょ。

箕輪 つまり、横展開できる仕組みをつくりたいの?

落合 そう。横展できると社会が一気に変わるんだよね。横展しないと個人の才能に依っちゃうんだけど、それじゃ社会は変わらないから。そこをけっこう気合い入れてやってる。クラウンドファンディングを落合研究室で始めたら、ほかの研究室もクラファンしまくれるようになる、とか。

箕輪 あえてパクれるモデルにしてるってことか。すごいね。

僕がオンラインサロンを持ってみて、ひとつの猛烈な変化は......、それまで自分で本をつくるってことにものすごくこだわっていて、誰がやっても同じような、赤字の転記とかも自分でやってたんです。別に俺がやると正確ってわけじゃない、むしろ不正確なんだけど。

落合 「(著者の入れた赤字が)読めねえぞ!」てよくツイートしてたよね(笑)。

箕輪 そうそう、俺もガサツな性格だから、そこでミスが起こっちゃうくらいで。それを寝ずにやることで「本に魂がこもる」って思ってた派なの。それもなくはないんだけど、でも、今みたいにオンラインサロンでみんなでゲラ作業とかをやると、俺が忙しい中でやるより、異常にクオリティが高いんだよね。

例えば、動画に関する本をつくってるとき、動画が好きなやつにイラストの作成とかを任せたら、すごくいいイラストレーターを見つけてきて、ちゃんとこだわってくれて、すげえいいものができた。ひとりでやるより全然いいな、オープンでつくることってめちゃくちゃ意味あるなって最近気づき始めましたね。

落合 俺も論文書くときとか、研究するときはそう。普通の大学の理系の研究室って、けっこう一対一でやることが多いんだけど、うちはチームでやってます。互いにものを見てないといけなくて、そういうチームを何個かつくっていくと、チームが重なってる人が自然とリーダーになっていくし。そうじゃない限りは、めちゃくちゃ賢い人たちを囲い込んで――つまり、学生さんがほとんどいない、研究員さんだけの集団のほうが効率的なんですよ、研究って。

箕輪 なるほどね。

落合 今、日本の大学がやばいなあと思っているのは、MOOC(マッシブ・オンライン・オープン・コース)とかが出てきて、誰でも普通にスタンフォード大学とかMIT(マサチューセッツ工科大学)の授業が受けられるでしょ。現状だと視聴者は2万人とかで、まだ質問はできないんだけど、今後はそういうのを受けながら、「じゃあメンタリングは東京大学の○○先生にオンラインでお願いしよう」とか、そういったことが可能になってくるかもしれない。

そうなってくると日本では、弱小大学のほうから存在意義がなくなってくるというのが俺の中の危機意識。そういうものを大学の中にどれだけ取り入れられるかが、「学びとコンテンツ」という意味ではけっこう勝負なんだよね。

箕輪 大学もある種、オンラインサロン的な機能を入れていくということ?

落合 そう。通信教育っていうもの自体は昔からあるんだけど、「通信かつゼミ」とか「通信かつメンタリング」まで入れて、研究開発までやれちゃうみたいな大学の仕組みを考えていかないと。授業はどこかで共通のものをとっちゃって、メンターは誰を選んでもいいっていう社会になったら、大学が学生を囲い込んでいる意義って減ってくるんじゃない?

箕輪 なるほどね。イメージとしては、いろんなコミュニティに所属しながら、自分で学びとか成長のポートフォリオを組んでいく感じ? でも、そうなってくるとプロデューサーみたいな人が必要じゃない? 自分でそれを組める人って相当な人だと思うんだよね。

落合 うん。学びを自分で組める人はそうそういない。たいていの人は、やりたいことを見つける前に卒業してしまうからね。

箕輪は本の製作過程をもしばしばツイッターでオープン化(写真は落合陽一『日本再興戦略』の校了紙)。それ自体が一種の宣伝にもなっている

◆後編⇒落合陽一×箕輪厚介(幻冬舎)【後編】「オンラインサロンは宗教か?」

■「#コンテンツ応用論2018」とは? 
本連載はこの秋に開講されている筑波大学の1・2年生向け超人気講義「コンテンツ応用論」を再構成してお送りします。"現代の魔法使い"こと落合陽一学長補佐が毎回、コンテンツ産業に携わる多様なクリエイターをゲストに招いて白熱トークを展開します。

●落合陽一(おちあい・よういち) 
1987年生まれ。筑波大学学長補佐、准教授。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学大学院で学際情報学の博士号取得(同学府初の早期修了者)。人間とコンピュータが自然に共存する未来観を提示し、筑波大学内に「デジタルネイチャー推進戦略研究基盤」を設立。最新刊は『0才から100才まで学び続けなくてはならない時代を生きる 学ぶ人と育てる人のための教科書』(小学館)

●箕輪厚介(みのわ・こうすけ) 
1985年生まれ、東京都出身。早稲田大学卒業後、双葉社に入社。広告部に籍を置きながら雑誌『ネオヒルズ・ジャパン』を創刊し、アマゾン総合ランキング1位獲得。2015年に幻冬舎・見城徹社長の著書を編集したことがきっかけで幻冬舎へ移籍。2017年にNewsPicks Bookレーベルを創刊し、1年で合計100万部突破(堀江貴文『多動力』、佐藤航陽『お金2.0』、落合陽一『日本再興戦略』など)。会員1300人を超える日本有数のオンラインサロン『箕輪編集室』を主宰し、文字・写真コンテンツのみならず動画やイベントのプロデュースも行なう