筑波大学で講義をする落合陽一と(左)と箕輪厚介(右) 筑波大学で講義をする落合陽一と(左)と箕輪厚介(右)

今年で3年目を迎えた、落合陽一(おちあい・よういち)による筑波大学の超人気講義「コンテンツ応用論」。3rdシーズン最初のゲストは、「今日本で一番、売れる本をたくさんつくっている人」と落合が太鼓判を押す編集者・箕輪厚介(みのわ・こうすけ)だ。

「チームで本をつくる」「チームで研究する」ことの意味を語り合った前編記事に続き、後編では教育論、ブランド論、そしてオンラインサロン論......へと話が広がっていく。

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箕輪 要するに、今の大学の需要としては、とりあえず筑波のここに入れば、あるいは早稲田のここに入れば、それなりのものを学習したと見なされる。カリキュラムを全部通して学んだっていう卒業証書を渡されるということだよね。オンラインサロンみたいなものを自分で選び取ってやっても、世の中が「君のことは信頼するよ」っていう、卒業証書的なものはなかなかもらえないじゃん。

落合 ただ、「○○さんと接点があります」っていうのはすぐにつくれるよ。

箕輪 そうか。落合さんが「自分のサロンの子に就職の推薦状を書いてあげようかな」みたいなツイートしてるのを見て、それは思った。

落合 僕は実際に、スイスの学校に進学したがっていた中学生の女の子に推薦文書いたこともありますよ。親御さんに頼まれて、アソシエイト・プロフェッサー、オチアイ・ヨウイチ、ドクターって。大学教員で研究をちゃんとやってる人が中学生の推薦文を書いてくれることって珍しいじゃん? 俺は推薦したくなかったらしないし、できる子だなと思ったからそうしたんだけど。

うちのゼミに出入りしてた学生さんでも、コロンビア大学に行ったりMITに行ったりする子がいたけど、海外受験の子の推薦状を書くのって本当に大切なんだよね。どこのコミュニティに属していて、その子を見ている人がどれくらい評価をして、っていうのを書いてあげないと受け入れてもらえないからさ。

箕輪 当たり前だよね。数千人いる学生の卒業証書すべてに同じ価値があるっていうほうが、本来はあやふやなもので。

落合 そう、これはブランドなのよ。ただし(日本の大学は)間違ったブランドのつくり方をしている。ブランド構築はしたものの、そこから出た学生がタコかアホか、世間の方は研究を見ないからなかなかわかんねえわけですよ。入試でブランド構築されちゃっているのが非常に問題。

箕輪 筑波は厳しそうだけど、僕がいた早稲田なんて、ほかの多くの大学の多くの生徒もそうだけど、入試のときが一番優秀じゃん。あとは本当にバカになっちゃって。卒業証書って要は「入試は頑張れた」っていう証明書でしょ。

落合 そう。ただ「4年過ごした」っていうことによってブランド価値を保ってるわけですよ。

箕輪 本来はウソだけどね。4年間下がり続けてるんだけど。

落合 できてるやつとできてないやつをごっちゃにすることで、ガチャが発生してるんです。トップを引くかクソを引くかわからなくしてる。卒業証書で。

箕輪 まったくそう! 俺はなんせ、4年間何もしなかった側だから、その恩恵にあずかったわけだよ。

落合 そう。

箕輪 そうって(笑)。そもそも「ブランド」ってなんなの?

落合 ブランドとは宗教です。

箕輪 ああ、確かにブランドと宗教の時代だね。宗教って、落合さんはどうとらえてる? 「オンラインサロンは宗教だ」とかよく言われるけど、「○○は宗教だ」と揶揄されるような状況だったら、この先、新興宗教みたいものって生まれえなくない?

落合 そこがポイントで、俺はよく「1995年のことを振り返ってみてください」って言うんだけど。オウム真理教事件が、宗教っていう言葉のイメージに与えた影響は異常にでかいんだよね。

箕輪 日本人の猛烈なトラウマになってる。

落合 そうそう、宗教アレルギーになってるんだよ。宗教って言葉がディスりになるのはこの国ぐらいだからさ。

箕輪 「宗教じゃん」っていうツッコミが「やばい」っていう意味なのは本来、おかしいもんね。

落合 おかしい。「宗教じゃん」って言われたら、欧米の人々は「完成されたブランドですね」としかとらえられないと思うよ。カルティエやエルメスは宗教のような永続性と文化を持ちたいはずだもん。

箕輪 普通は「宗教じゃん」って言われたら、「宗教ってほどではございません」ってなるはずだもんね。それが、日本だと「怪しいもの」っていう意味になってる。

落合 言葉が汚されちゃったってことなんだよ。だから「宗教」に該当するいい言葉をつくらなければ、日本人はブランド価値なんかつくれない。

箕輪 面白い! 言葉のイメージを変えるんじゃなくて、それに代わる言葉をつくらなくちゃいけないんだ。

落合 そう。それはなんのためかって言ったら、複雑なものを愛するとか、ライフスタイルや教義への憧れとか、そういうことのためです。

例えば、EXILEは宗教ですかって言われたら、宗教ですよ。文化も含めていい意味で、そうです。だって、ダンススクールからやってるんだよ? ダンススクールで輝いてた人が、やがて東京ドームでライブをやって、何万、何十万のお客さんを熱狂させるって、悪いことひとつもないじゃない? それを部外者が「宗教だ」って、「言ってろ!」って感じだよね(笑)。

箕輪 まったくそうだね。そういう揶揄の中にはさ、「おまえらがつくってるものって、おまえらのこと好きなやつが買ってるだけじゃん」的なことが含まれてるじゃん。でも、そういうものをつくるだけですごいことだよ。

落合 教義とかブランドをつくるときに本気で考えなくちゃいけないのは、やっぱり、その組織が存在するミッションはなんなのか?っていうことだね。

例えば、僕のサロンの「落合塾」では、大学とかに縛られない社会性のある学びをどうやって実現するかということを、アップデートしながら皆で考える。すべての人が最適化された学びをデザインする。それだけなんだよ。箕輪編集室だったら、なんだろう?

箕輪 「死ぬこと以外かすり傷」っていう行動指針はつくってあるね。一個一個の判断、迷いにおいて、全部俺に聞かれても答えるのは無理だけど、いまジャンプするべきか、やめるべきかというときの行動指針としてはひとつの基準になると思う。

たぶん僕の役割も人間性もそれに向いてるんだろうけど、幻冬舎という営利目的の出版社に所属して、「NewsPicks」というメジャーな、最先端なところのレーベルを担っているから、ある種、直接的でわかりやすくて若者がガッとモチベートされやすいコンテンツをつくってるんだよね。僕のコンテンツがなんで熱を生みやすいかというと、やっぱりみんなが理解しやすいものだから、つくっていてみんなで楽しんでる感があるんですよ。

『日本再興戦略』も、NewsPicks Booksのレーベルの中では難しいほうだけど、落合さんの本の中では圧倒的にわかりやすくて、だからみんな議論しやすい、みたいな。

落合 広く議論の叩き台になるようなものをやってるんでしょ?

箕輪 そう。逆に『デジタルネイチャー』(PLANETS/第二次惑星開発委員会)は、叩き台にはならないよね。

僕が感動したのは、『デジタルネイチャー』の発売直後くらいにたまたまふたりで飲んだとき、「これ難しすぎでしょ」って本を渡したら、「はじめに」の1行目から、1行に対して5分くらいかけて解説してくれるの。ああ、これだけ考えて、比喩とか歴史的背景とかをエッセイとしてまとめたんだって感動したんだよね。

落合 あれはね、3年かかってるからね。1行たりとも抜けてないよ。

箕輪 それってさ、コンテンツ論で言うと、俺のつくってるものが例えばカップラーメンだとすると、めちゃくちゃ時間をかけて、それこそ海産物から肉から出汁をとりまくってるわけじゃん。誰もなんの出汁なのか当てられないような状態のコンテンツっていうのは、どこに響いてくるわけ?

落合 それは、アートだね。

箕輪 要は、「デジタルネイチャーとは計算機と自然が同化して......」みたいに、簡潔に言おうと思えば言えるじゃないですか。それをあえて遠ざけているというか。

落合 何度も何度も反復しないとわからない。その反復ができるくらいの眼力にかなうものにするっていうのが、アートだから。

箕輪 それをすることによって、読み手側には、僕がつくっているNewsPicks Booksを読むのと違う効能があると思うんだけど、それはどういう染み込み方をしていくわけ?

落合 例えば、ピカソの絵を「わからん、わからん」って言いながら美術館でじっと見て、家に帰って、何年後かにまたその美術館に行っても「まだわからん」っていう。そのプロセスを何度も何度もくり返して、「あ、やっとピカソの気持ちがちょっとわかってきた気がする」っていうのがアートなんですよ。

僕がものと干渉するプロセスは単純で、「君はどういう気分で現れてきたんだい?」っていうのをずっと見て考えるから。

箕輪 面白いね。アーティストの立場としてはわかるんだけど、こっちの、受け手の立場としては?

落合 まあ、噛み砕けるほどあごが強い人か、噛み続けるくらいの習慣をもっていれば、もっともっと楽しめますよ、というコンテンツかな。

箕輪 なるほどね。ミルフィーユみたいに多重的に楽しめるってことね。

落合 そうそう。それにしても、「死ぬこと以外かすり傷」っていい言葉だね。ちなみにうちの親父(作家の落合信彦氏)は、「死はひとつのオプションに過ぎない」って言ってた。だから、死ぬことすらもかすり傷なんだ、というようなことを、小さい頃によく言われてて。「できれば死ぬ前の俺には会うな」とか。

箕輪 かっこよすぎるな......。

僕はビジネス書をつくってるから、毎日すごい起業家と会うんだけど、彼らの8割くらいに共通する点は、猛烈に死を意識した経験があるということ。

堀江貴文も見城徹も前田祐二(SHOWROOM代表)も、猛烈に死を意識して、今の時間を考えてる。僕個人はそんな大した死生観はなくて、帰り道、酔っぱらって車にひかれて死ぬのもいいし、80過ぎまで普通に生きてました、もいいし。この瞬間が楽しければ......の連続。

落合 俺、明日死ぬってなっても、今、箕輪さんと対談してると思うよ。

箕輪 それ、かっこいい(笑)。

■「#コンテンツ応用論2018」とは? 
本連載はこの秋に開講されている筑波大学の1・2年生向け超人気講義「コンテンツ応用論」を再構成してお送りします。"現代の魔法使い"こと落合陽一学長補佐が毎回、コンテンツ産業に携わる多様なクリエイターをゲストに招いて白熱トークを展開します。

●落合陽一(おちあい・よういち) 
1987年生まれ。筑波大学学長補佐、准教授。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学大学院で学際情報学の博士号取得(同学府初の早期修了者)。人間とコンピュータが自然に共存する未来観を提示し、筑波大学内に「デジタルネイチャー推進戦略研究基盤」を設立。最新刊は『0才から100才まで学び続けなくてはならない時代を生きる 学ぶ人と育てる人のための教科書』(小学館)

●箕輪厚介(みのわ・こうすけ) 
1985年生まれ、東京都出身。早稲田大学卒業後、双葉社に入社。広告部に籍を置きながら雑誌『ネオヒルズ・ジャパン』を創刊し、アマゾン総合ランキング1位獲得。2015年に幻冬舎・見城徹社長の著書を編集したことがきっかけで幻冬舎へ移籍。2017年にNewsPicks Bookレーベルを創刊し、1年で合計100万部突破(堀江貴文『多動力』、佐藤航陽『お金2.0』、落合陽一『日本再興戦略』など)。会員1300人を超える日本有数のオンラインサロン『箕輪編集室』を主宰し、文字・写真コンテンツのみならず動画やイベントのプロデュースも行なう