筑波大学で講義をする落合陽一(右)と簗瀨洋平(左) 筑波大学で講義をする落合陽一(右)と簗瀨洋平(左)

プレイステーション(PS)2の名作『ワンダと巨像』など多くの名作ゲームに携わってきたゲームデザイナー・研究者の簗瀨洋平(やなせ・ようへい)と、実はゲーム大好きな落合陽一(おちあい・よういち)の対談。

スマホゲーム全盛の時代でもゲームハードが生き残っている理由を考察した前編記事に続き、後編ではゲーム制作者の立場から見た「人間という生き物」について深く掘り下げていく。

* * *

落合 一方で、例えばニンテンドースイッチを持ち寄ってみんなでやるようなマルチプレイ型のゲームになってくると、コミュニケーションとしてのゲームデザインが重要になってきますよね。僕は友達としゃべりながら無限にやれるコミュニケーションツールとしてのゲームがけっこう好きなんです。『大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL』なんて、正月とお盆休みとクリスマス休暇に大活躍するゲームだなと。

簗瀨 マルチプレイ型のゲームって、実はプレイ時間がそんなに長くなくても満足度が高い。そこがポイントだと思います。2000円とか3000円とかで買って、みんなでひと晩対戦して、それで終わりでも満足できる。

落合 飲み会1回分くらいのお金で買ってますもんね。

簗瀨 そうなんですよ。だからニンテンドースイッチってすごくいいハードで、そういうところに最先端の尖ったゲームが投入されて、みんなでどんどん買って、何年も遊ばないかもしれないけど「すごく面白かった」という記憶を持って次のゲームを買ってくれる、という流れがあります。

ただ、単純にゲームの作り手として個人的なことを言いますと、私はコンソール型のエンディングがあるゲームが好きです。なぜかというと、エンディングって最高に盛り上がったところで来るように作ろうとするから、最高の思い出でゲームが終わるわけですね。ずっと続くゲームって、必ず飽きてやめることになるから。

落合 ああ、"読了感"ですね。ゲームをやり終えたいっていう感覚は確かにあるなあ。僕はスタッフロールが流れてる時間が好きなんですよ。ただ、売り切りのエンディングがあるゲームをやりたい欲求って、可処分時間が長い学生などのうちに身につけないと出てこないと思っちゃうんですけど。

簗瀨 やっぱり一回長い時間をかけてプレイして、クリアしてよかった......という経験がないとハードルが高いかもしれないですね。

落合 ところで、日本のゲーム業界を海外と比べて、こうしたほうがいいと思うところはありますか?

簗瀨 まあ、英語で出せよとは思いますね。

落合 ああ、なるほど。

簗瀨 日本の市場って、世界全体の4~5%くらいなんですよ。だから単純計算でいえば、世界では国内の20倍売れていいはずなんですよね。でも、日本のほとんどのゲームは外で売ってもそんなに売れない。へたすると国内より本数が少なくなる。日本のいいゲームをそのまま出すと、アメリカで50万本、ヨーロッパで50万本売れて、それが限界だと私が開発にいた頃は言われていました。

ただ、もちろん中には成功例もあって、例えば『ペルソナ』は海外でも日本でも高評価でしたよね。『ファイナルファンタジー』シリーズみたいになると、もう海外のゲームとほとんど一緒で、日本で100万本売れて、海外で600万、700万本売れて、という。私はそのくらいの割合で売れるゲームが一番作りたいです。

落合 ちなみに『ファイナルファンタジー』の制作チームって、やっぱり日本人なんですか?

簗瀨 ほぼ日本人ですね。だけど技術系、研究開発とかは外国人が多くて、私がいたテクノロジー推進部なんかは半分くらいが外国籍でした。

落合 その後、研究のほうに移ろうと思ったのは、ゲーム会社の中にいて何か問題意識があったんでしょうか?

簗瀨 私の場合は、アカデミックな知見をゲーム作りに活用するということをスタートダッシュの時期からやってきたので、そういうことをやる人が少ないという現状には危機感を覚えました。例えば、みんな英語の文献などを読まないので、自分たちだけで頑張って開発しているとどうしても手詰まりになるんです。

落合 それは、キャリアとしてそういうものに触れてこなかったからなんですか?

簗瀨 そうですね。実際、会社に海外事例などの調査研究を担う人がいると、すごく効率がよくなります。また、最近だと「テクニカルアーティスト」といって、作業するためのパイプラインを作ってアーティストを助ける職があるんですが、そういう人は常に最新の知見をキャッチアップしています。やはり大学でCGを研究していたような人がゲーム会社に入って、そういう先端的な職に就くことが多いです。

落合 僕の研究室にいた学生さんでも、ゲーム関係の就職先の選んだ子がいるんですが、理由を聞いてみると、「みんながプレイしたことあるアレ、っていうものを一個作ってみたいんです」と言う子が多くて。

みんながプレイしたゲームといえば、僕は『ポケモンGO』にもすごく思い出がたくさん残ってるんです。まだ子供が生まれる前、妻と一緒にポケモンを捕まえに行ったな、とか。ゲームにはまっていくあの感覚って、なんなんでしょうか?

簗瀨 やっぱり細かい達成感の繰り返しだと思います。

落合 それってゲームだけじゃなく、仕事の設計とか、全部そうですよね。ゲーム作りを始めてから、世界の見え方は変わりましたか?

簗瀨 それはあると思います。ゲーム制作の仕事をやってきて一番よかったなと思うのは、実生活でもなんでもゲームにできること(笑)。早起きするというゲームもできるし、時間どおりに待ち合わせに行くというゲームもできる。

落合 リアルRPG。

簗瀨 ゲームをすごく理解すると、自分のために自分のゲームをデザインできて、毎日なんでもゲームになって、なんでも楽しくできる。大げさに言えば、それはある意味、人類の到達点なのかなと私は思っています。

落合 世の中のアートとか研究とか、個人が輝くタスクって、ハードモード(高難易度)からスタートするじゃないですか。研究者を育てるのが難しいなと思うのは、レベル設計が普通と逆転してるんです。教育だったら、線形代数から始まって大学4年で機械学習まで......とか、レベルがだんだん上がっていくように設計されている。ところが、研究の場合は最初にトップカンファレンスの一番難しいところを読まなければいけない。

簗瀨 その場合はパス(経路)をちゃんと引いて、その中にストーリーを見せてあげられるかだと思います。つまり、ラスボスしか見えていない状態から始まるんだけど、そこに至るまでに中ボスがいて、ザコがいて......という見え方ができるようにしてあげる。

落合 まずはアブストラクト(論文の要旨)を書く、とか(笑)。

簗瀨 そしたらすごく褒めてもらえる、みたいな。

落合 確かに、小ボスの設定はすごく重要だなあ。

簗瀨 人間とはとてもいいかげんな生物であるということが、ゲームのデバッグを通じてよくわかります。こっちは作り手だから、ゲームがどういう仕組みで動いているか、すべて知っているわけですよ。ところが、デバッグする人はそれをわかっていないから、感覚でものを言ってくる。この「われわれが作った仕組み」と「やる側の感覚」とのギャップがどこにあるかを知る作業が、すごく重要なんです。

例えば、こっちはそこそこクリティカルが出るという感覚を与えたくて確率のパーセンテージを設定したのに、「全然出ないじゃん」と言われるのは、どう考えてもよくないわけです。かといって、安易にクリティカル率を上げてしまうと、敵に与えるトータルダメージが増えてゲーム全体のバランスが崩れる。では、正しい対処は何かというと、例えばクリティカルが出たときのエフェクトを派手にするとか、意外とそういう点なんです。

落合 技コマンドをちょっと簡略化したりとか。

簗瀨 そうなんですよね。だからゲームを作っていると、本当の解決策は体験する人が求めるものそのままではないということが味わえるし、感覚に訴えるのはどこかということに鋭くなれます。

社会のシステムを作る人は、そのへんにもうちょっと鋭くなってほしいなと思います。例えば、税金を払うのが楽しくなるようにするとか(笑)。もちろん、人をだますような結果になってはいけないので、そこは難しいですが。

落合 ゲームはまだフロンティアだと思いますか?

簗瀨 思いますね。まだ実現できていないことがいっぱいあるので。やっと2016年に「VR元年」といわれましたが、VRゲームはまだそれほど成功していません。ARにしてもそう。逆に言えば、先行し放題ということです。ハードが新しく出れば、やれることはどんどん増えてくる。たぶんこうした分野の最新技術はまずゲームで使われて、ノウハウができて、いろんなところに広がっていくのかなと思います。

■「#コンテンツ応用論2018」とは? 
本連載はこの秋に開講されている筑波大学の1・2年生向け超人気講義「コンテンツ応用論」を再構成してお送りします。"現代の魔法使い"こと落合陽一学長補佐が毎回、コンテンツ産業に携わる多様なクリエイターをゲストに招いて白熱トークを展開します。

●落合陽一(おちあい・よういち) 
1987年生まれ。筑波大学学長補佐、准教授。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学大学院で学際情報学の博士号取得(同学府初の早期修了者)。人間とコンピュータが自然に共存する未来観を提示し、筑波大学内に「デジタルネイチャー推進戦略研究基盤」を設立。最新刊は『日本進化論』(SB新書)

●簗瀨洋平(やなせ・ようへい) 
1976年生まれ。電気通信大学在学中から日本コンピューターシステム・メサイヤ事業部などでキャリアを積み、卒業後はソニー・コンピューター・エンタテインメント、ゲームリパブリックなどでゲームデザイナー/シナリオライターとして活躍。主なプロジェクトは『ラングリッサー』『グローランサー』『ワンダと巨像』『Folks Soul 失われた伝承』『魔人と失われた王国』など。2012年よりスクウェア・エニックスでリサーチャーに転進、現在はユニティ・テクノロジーズ・ジャパンで学術・教育方面を担当しつつ研究者として活動している