筑波大学で講義をする落合陽一(右)と音喜多 駿(左) 筑波大学で講義をする落合陽一(右)と音喜多 駿(左)

日本初のブロガー議員であり、昨年秋には日本初のクラウドファンディングによる新党「あたらしい党」立ち上げを果たした35歳の東京都議会議員・音喜多 駿(おときた・しゅん)。

東京一極集中と地方行政について議論した前編記事に続き、後編ではテクノロジーを政治に活用するアイデアと課題について深堀りしていく。

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落合 あと数年で問題が拡大しそうな、「高齢化した従事者と農耕具と農地」みたいなものが日本中の至るところにあって、それを継承する意思と能力のある事業者になめらかに接続できないことがひとつの問題だと思うんだけど。これはテクノロジーインフラの課題という気もする。

音喜多 特に農地法なんてすごく厳しいから、そういうのは日本全国一律じゃなくて、九州圏なら九州圏で法律をつくる、と。権限さえあれば、いろいろやれるわけで。

落合 僕がシロウトながら、そういった仕事に関わる周囲の人々が四苦八苦する様子を眺めていて思うのは、農地法とか農協の問題に斬り込むには、たぶん民間登用などで今までのしきたりを無視した門外漢が突然出てきて、ヒット・アンド・アウェイでやらないと変えられないかもしれない。つまり、後々その人のキャリアに関係するステークホルダーがいないところ、全然関係ないところから引っ張ってくるしかない。大変な仕事だと思う。

小泉進次郎さんが農政をやってたときも、なんか武士みたいになってたからね(笑)。政治家になったからには爪痕を残さねばならぬ、しかし死んでは元も子もない......!!みたいな。テクノロジーの手法論についても、そのときも言ってたなぁ。

音喜多 確かに、長々と政治家やる気がない、みたいな人がやるしかなさそうですよね。例えば竹中平蔵さんもそういうヒット・アンド・アウェイ感あったじゃないですか。

落合 確かにあった。そういう役回りだったとは思う。

音喜多 ああいう人を農林水産大臣に一本釣りして、一気に変えて、あとは全部あいつが悪かった、みたいになすりつけて変えていくというのが一番あり得るパターンだと思いますね。

落合 竹中さんみたいな事例の結果には賛否両論あって当然なのだけれど、問題に一石を投じたのは確かだと思う。「変える」ことを主軸に考えた場合、いわゆる"職業政治家"的な人は後々のことを考えて損得勘定で動かざるを得ないから、そこまでやらないし、できないと思うんだよね。特にテクノロジーを導入するとか、全体をがらっと変えたいとか、皆が善意で動き、それぞれの正義が存在するからこそ声に出しにくいことに対応することは、政治家にはできないのかもしれない。

そういえば、さっき女性リーダーをつくりたいと言ってましたけど、それは音喜多さんがパスを回すという話ですよね。そうでなくて、本人としてはこれがしたいというのはありますか?

音喜多 僕は自由社会を作りたい。自由主義者なんですよね。豊かな社会っていうのは、つまり選択肢がたくさんある社会だと思っていて。女性は子供を産んだら専業主婦だ、とか、大学生は新卒で就職しなくちゃいけないっていうのは、見ようによっちゃすごく貧しい社会じゃないですか。もし僕が総理大臣になって、一個だけ好きな法律を作っていいって言われたら、やりたいのは労働法制の改正です。ある程度、金銭解雇できるようにして流動化させる。そうすると一気にオプションが増えるんですよ。

女性が社会進出できないとか、待機児童の問題って、実は雇用の問題も大きいと思っています。子供を産んだらいったんぱっと辞めて、しばらくしたらぽっと戻って来られれば、この問題、半分くらいは解決するんです。そこの自由化をすればだいぶ子育て環境も変わってくるのに、いまだにここを規制していて、大企業は解雇できないし、転職しようにも市場が冷え切ってるから、なかなかみんな外に出ようとしない。一回辞めたら、あきらめてパートになっちゃうみたいな状況です。

落合 なるほどね。僕がシロウトながら状況をみるに、解雇を自由にして流動化するのが例えばアメリカあたりだとすると、もうひとつの策は、ヨーロッパ的に労働者の権利を強くすること。出産するなら休めばいいじゃん、有給4ヵ月あるなら全部使ってください、みたいな感じのスタイルにしていく。例えばフランスとか、イタリアとか、ヨーロッパ型の枠組み。子供を産んで、その後は有給で子育てして、っていうのを普通にしていくという。解雇で流動化させるというより、労働者の権利を守ることによって成り立つ仕組みを作り、ただしそのぶんだけ全員が等しく割を食うという社会です。

今のわれわれの雇用形態がアメリカ型とヨーロッパ型の"悪いとこ取り"になっている。それがよくないというのは僕も常々思うところです。テクノロジーを導入するなどの根性論じゃない解決手法が必要だと思う。

ところで、高齢者といわず、40代、50代といった上の世代とのギャップは感じますか? メディアの使い方でもなんでも。

音喜多 けっこう感じますね。40代の政治家でも、まだインターネットは常識じゃないし、"失われた世代"だから社会に恨みもあるし。逆に、もう少し上、50代とかのバブル世代だと、ちやほやされて生きてきたから、「俺の若い頃はこうだった」みたいな感じ。そこのギャップは普通の社会人と同様に、政治家同士でもあると思います。

落合 根性で仕事を乗り切って、金を使って贅沢しろという世代と、社会への恨みも含んで生きている世代と。

音喜多 30代以下がいいなと思うのは、染まってないんですよ。

落合 ノスタルジー溢れるコンテンツに大人は勝てないからね。『ドラえもん』を見るたびに思うもん、高度経済成長期じゃないし、公園に土管なんて転がってないだろって。2020年の東京オリ・パラにしても、最大の敵は成長へのノスタルジーですよ。昔と同じ方向に軌道修正しても成り立たないということに自覚的でないといけない。

そういう未来ビジョンをグランドデザインして共有していくために、必要なことはなんですか?

音喜多 規制緩和で成功例を見せていくしかないでしょう。一番最初に規制緩和できそうなところは、例えばテクノロジーです。自動運転とか。

落合 本も出しましたけど、僕と小泉進次郎さんの間で議論になるのが、なんでこの国にはCTO(チーフ・テクノロジー・オフィサー)がいないんだろう?ってことです。CTOがいないおかげで、われわれはテックのことを見据えた政策を何もとれない。これは政策以前の技術インフラの問題だと思う。テックのことをわかってる議員さんって、都議会にはいるんですか?

音喜多 うーん......5%いるかなあ? 若い世代はそれなりだけど。政治家になるまでに必要な能力のなかに、テックやITの知識は一切含まれてないですからね、現状。

政治にテクノロジーを入れるとしたら、すごいショボい話ですけどまずペーパーレス化があります。東京都議会はパソコン持ち込めないんですよ? スマホもだめ。ほんの4年くらい前までは、メールでデータを送ることもできないから、職員がMOでデータを持ってきたこともありました(笑)。

落合 例えば音喜多駿講演会をやりますっていう告知があるとして、下を見たら「FAX」って書いてありますよね。

音喜多 そうですね。けっこうファックスで来るんですよ。しかも、ファックス送った後に「届きました?」って電話が来るという親切設計。

落合 ファックスと電話で成り立っている社会は一気に変えないとダメだと思うけど。「平成終わったらやめます」とか言えばいいんじゃないんですかね。

音喜多 今はようやく、議会でもタブレットを持ち込めるところが増えてきました。そしたら、タブレットを立てて原稿を読んでいて「平成○○年」と言う時に、「ヘイSiri!」と聞き間違えられてSiriが議会中に起動しちゃうという謎の事故が全国で発生したんですけど(笑)。国会中継で議員が出すパネルだって、プロジェクターで映せばいいんですよね、現物なんかつくらないで。議会がそんな段階だから、AIによる意思決定なんて、ホントに先の話だと思います。

落合 ただ、働いていない議員を探し出すのはAIのほうが波風は立たないと思うんだよね。出席してない人、議論にコミットしてない人が誰かを探すような統計処理は機械のほうが得意だし、そのリストに入ったら「頑張ってください」っていう通知が来るだけでも、かなり違うと思うよ。

音喜多 別にそれでクビになるわけじゃないとしても。

落合 いつもAIに「頑張ってください」って言われてるおじいちゃん議員とか(笑)。そういうシステム的な方法論にはディストピア感があるのも確かだから、うまい方法に落とし込む必要はある。だけど、今の意思決定の仕組みとその職業の果たすべき義務をシステムから考えることは必要だとも思う。

音喜多 その導入にもみんなが反対するでしょうけどね。

落合 努力と根性と義理と人情で属人的に問題を解決しているような状況を抜本的に変えるには、ずっと猫かぶってトップに登りつめた奴がいきなり改革を始めるしかないのかなぁ、と思っていたりします。

音喜多 でも、日本全体をひっくり返すってなかなか難しい話で、やっぱり地方自治体をひとつずつひっくり返していかないといけないと僕は思います。どこかの地方自治体の首長の座をとって、"ミニ小泉進次郎"みたいな人が「ガオー!」ってやって成功例を作り、プレッシャーかけていくのが現実的かなと。

落合 答えにくい質問になりますが、テクノロジーだけ見てもこれだけ課題が山積の地方行政に関わっている中で、そのうち国政に行くことは考えているんですか?

音喜多 はい。でも、ひとりの国会議員がやれることって限られているんですよ。僕は今35だから、首長を二期8年務めても、まだ43歳。40代が終わるまでまだ6年ある。

落合 なるほど。音喜多さんに限らず、社会を変えていくビジョンを持っている若い世代が、地方の首長を目指すというのは確かに納得感はある。

音喜多 首長って予算を持ってますから、そこが全然違います。その経験を持って国政に出ていこうと。その時には全員が(国会議員としては)新人で、しかも首長経験者ばかり5人以上集めた新党を作る。われわれが地方でやった改革を、国でも実現するんだ、と。

この新党で2回くらい選挙をやって30人、40人の規模にして、自民党と連立を組む。連立を組む代わりに首班指名は僕にしてくれ、と言って総理をもらう。それが49歳。自民党をハックするパターンですね。ひっくり返すのは難しいと思うので。

落合 なるほど、アップデートってことだね。政治的メッセージはさておき、そういう野心を生で聞くことも少ないし、さまざまな事例はポリティクスとテクノロジーの関連性を学生さんにも考えてもらういいきっかけになったと思います。ありがとうございました。

■「#コンテンツ応用論2018」とは? 
本連載はこの秋に開講されている筑波大学の1・2年生向け超人気講義「コンテンツ応用論」を再構成してお送りします。"現代の魔法使い"こと落合陽一学長補佐が毎回、コンテンツ産業に携わる多様なクリエイターをゲストに招いて白熱トークを展開します。

●落合陽一(おちあい・よういち) 
1987年生まれ。筑波大学学長補佐、准教授。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学大学院で学際情報学の博士号取得(同学府初の早期修了者)。人間とコンピュータが自然に共存する未来観を提示し、筑波大学内に「デジタルネイチャー推進戦略研究基盤」を設立。最新刊は『日本進化論』(SB新書)

●音喜多 駿(おときた・しゅん) 
1983年生まれ、東京都出身(北区の水道工事店の長男)。早稲田大学政治経済学部卒業後、LVMHモエヘネシー・ルイヴィトングループに7年間勤務。2013年6月、東京都議会議員選挙にみんなの党公認で初出馬・初当選(北区4位・1万3296票)。17年7月、都民ファーストの会公認で都議2選(同区歴代最多の5万6376票)。同年10月、都民ファーストを離党。18年10月、地域政党「あたらしい党」の立ち上げに際しクラウドファンディングを実施、1000万円を超える支援金を集めた。現在、同党の代表として4月の統一地方選挙へ向け活動中