「変化についていけない少数の個人の不満よりも、社会全体の幸福度の向上を重視するのが中国の価値観です」と語る黄未来氏

2017年8月に日本市場に参入して瞬く間に大ブレイクした中国発のショート動画SNS『TikTok』。世界的にも2018年のApp Storeダウンロード数トップを記録するなど、その勢いはすさまじい。コント動画や女のコのダンス動画を眺めるうち、いつの間にか時間がたっていた経験を持つ人も多いのではないだろうか?

『TikTok 最強のSNSは中国から生まれる』の著者である日本育ちの中国人女性・黄未来(こう・みく)氏に、この化け物アプリが成功した要因と同書執筆の背景を語ってもらった。

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──そもそも、TikTokが日本のみならず世界中でブレイクしている理由は?

 まずは動画が非常に短いこと。TikTokの動画は15秒から1分間で、スキマ時間でもラクに楽しめる。外部の刺激が多くて人間の集中力が途切れがちな今の時代に合っていたのだと思います。

──140文字の文章を投稿するTwitterが流行したのも同じ理由かもしれませんね。

 あとはスマホに最適化されたUI(ユーザーインターフェース)も大きな要因です。TikTokは縦画面の動画がメインで、次の動画が見たいときは縦方向にスワイプする仕組み。パソコンから始まったYouTubeなどのほかの動画サイトより、スマホ向きなんです。

──ユーザーの好みに合致した動画を提供できる機械学習技術も強みだと書かれていますね。

 そうです。普通のウェブサービスは、立ち上げ時に性別や年齢などの基本データを入力させることで、ユーザーの個性に合うコンテンツを提供しますが、TikTokの場合、事前にインプットさせる情報はゼロなのに、機械学習によってユーザーに最適化された動画を出す技術がある。

TikTokの提供元であるバイトダンス社は、中国国内で『Toutiao』という人気ニュースアプリをリリースしていますが、こちらでも同様の機械学習技術が使われています。

──実際にTikTokを使うと、機械学習機能のすごさは実感できます。

 ITの世界の競争は熾烈なので、優れたアイデアはすぐに他社に模倣されてしまいます。例えば写真加工アプリの『SNOW』は、自撮り写真に動物の耳をつけられるなどのアイデアでヒットしましたが、現在は他社にマネされている。対してTikTokのウリの機械学習は技術的なハードルが高く、他社にマネされにくいんです。

──機械学習技術が発達したことにも、中国ならではの理由があるとか?

 中国は人口が多いので、富裕層と低所得層、都会と地方......と、すべての属性のサンプルが豊富にそろっています。中国企業はあらゆるテストマーケティングを自国の社会で行なえるんです。多くの人の情報を、より大量に取れる社会であることが、機械学習機能の強化を後押ししたといえます。

──今、日本や欧米よりも中国で革新的なサービスが次々と生まれている印象があります。

 それは、価値観の違いによるところが大きいと思います。まず、日本や欧米ではひとりひとりの個人を大事にする傾向がある。効率性を犠牲にしても、変化に対応できないマイノリティを置き去りにしないところがあります。

──確かに、日本では機械操作が苦手な高齢者層に非常に配慮している感じはありますね。例えば無人レジの普及がほかの先進国より遅いのもそういう事情があるかもしれません。

 一方、中国の場合は変化についていけない少数の個人の不満よりも、社会全体の幸福度の向上を重視する価値観があります。より多数の人に便利さや快適さを与えられる技術が広まるのは、好ましいことだと考えられている。それが近年の中国で新技術が数多く生まれ、日本よりもスピーディに社会に普及している理由だと思います。

──イノベーションから日中の文化的差異も見えてきますね。では、本書の執筆で意識したことは?

 ニッチになりがちなテーマの話題を、一般のビジネスパーソンにスムーズに届けることです。近年の中国の大きな変化を、いかに自分のビジネスの参考としてもらうか。中国に強い興味を持つ人も大事なのですが、この本は中国自体にはあまり興味がない人にこそ読んでもらいたいと考えて書きました。

──1冊目の著書である本書にはかなり力を入れたとか。

 はい。名刺代わりになる本を書きたいと考えて、編集者や装丁デザイナーを自分で探して声をかけて、最高のスタッフをそろえました。私は現在、TikTokの配信元であるバイトダンス社の社員なのですが、これも本を先に書いていたらスカウトされた形です。「本書の出版を許可する」という条件で採用してもらいました(笑)。

──相当なバイタリティをお持ちのようで。

 私、ハングリーなんですよ。両親の都合で6歳のときに日本に来たんですが、最初はまったく日本語ができなくて学校になじむまで時間がかかりました。当時は日中間の経済格差が大きい時代で、経済環境も厳しかった。最初、うちの世帯月収は8万円ぐらいだったみたいなんです。

──その環境のなかで勉強して、早稲田大学から三井物産を経て著書を出した。

 はい。小学生時代に負けることの悲しさをたくさん味わったので、今は絶対に勝ちたいんですよ。結果を出すことへの貪欲さは、同年代の日本の女のコよりかなり強いと思います。

──黄さんはご自身でオンラインサロンも主宰しています。本書の後半では中国のインフルエンサーの実例が多数出てきますが、中国SNSの「目立つ」手法を日本人向けに実践していますか?

 それはないですね。今、完全にインフルエンサーになってしまうと将来の伸びしろが減るように思いますし。私はあくまでビジネスパーソンとしての情報発信に軸を置いています。

──なるほど。それでは最後に、今後の目標を教えてください。

 大前研一さん......では遠すぎる目標なので(笑)、情報発信ができるビジネスパーソンとして、田端信太郎(株式会社ZOZOの執行役員コミュニケーション室長)さんみたいになることですね。本書がその第一歩になればと思っています。

●黄 未来(こう・みく)
1989年、中国・西安市生まれ。6歳で来日。南方商人である父方、教育家系である母方より、華僑的ビジネスおよび華僑的教育の哲学を引き継ぐ。早稲田大学先進理工学部卒業後、12年に三井物産に入社。国際貿易事業および投資管理事業に6年半従事した後、18年秋より上海交通大学MBAに2年間留学。現在は中国を本拠地として、バイトダンス北京本社に勤務。オンラインサロン「中国トレンド情報局」も主宰している

■『TikTok 最強のSNSは中国から生まれる』
(ダイヤモンド社 1500円+税)
中国籍ながら日本で育った著者は、20年ぶりに中国に帰国したところ、その社会の進化ぶりに驚愕。顔認証だけで決済できる自販機、火鍋屋で動き回る配膳ロボット、老若男女が夢中になるライブ配信アプリ......中国には日本にはないサービス、商品が多数生まれていた。全世界で15億ダウンロードを突破した中国新興企業バイトダンス社の動画アプリ『TikTok』を中心に、中国から世界に広がる「動画革命」「インフルエンサー経済」の未来を占う

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