「現代の魔法使い」落合陽一(左)と「YouTuber」志望学生(右)

筑波大学未来教室、4thシーズンの最終回はゲストに羽佐田大樹(はさだ・ひろき)を迎え、落合陽一(おちあい・よういち)がそのプロモーションに知恵を貸す。ところで、羽佐田大樹とは何者なのか。

実は、まだ何者でもない。

* * *

落合 なんで羽佐田さんがゲスト席に座ってるの? めっちゃウケる(笑)。

羽佐田 落合先生が30分前にいきなり「今日登壇しない?」って言うから......。

落合 あ、そうだった。じゃあ自己紹介からお願いします。

羽佐田 この授業でTA(ティーチングアシスタント)をやっている羽佐田です。僕はもともと筑波大学の知識情報・図書館学類の学部生だったんですが、3年くらい前から落合研究室に所属していまして。大学院浪人を1年経て、いまはM1(修士課程1年)です。

落合 将来は何になりたいんですか?

羽佐田 30歳くらいまでに個人でメディアを持って有名になって活動していたいです。それで今は研究を休んで、YouTubeとかSNSとかのコンテンツづくりをやっています。

落合 僕は羽佐田さんのひとり立ちの要件として、まずは月30万円くらいYouTubeで稼げればいいと思ってるよ。

羽佐田 僕もちょうどそのくらいを目指しています。研究して卒業して就職して、ということにあまり未練がないので、フリーでお金を稼げるようになりたいというのが僕の課題です。

落合 フリーでやっていきたいなら、逆に博士くらいまで行ったほうがいいんじゃない? 選択肢が増えると思うよ。

羽佐田 僕としては、親が学費や生活費を出してくれている状態があまり好きじゃなくて。早く自分でお金を稼いで自立したいなと。

落合 そのための手段がYouTuberなんだ。大学院にいて、研究を休んでYouTuberを目指して発信してる......って、これは現代を表象するひとつのケースですね

壇上で落合と向き合い言葉を探す羽佐田青年は、はたから見る限り特別に芸達者そうには見えない。落合博士の人生相談、そのお手並みはいかに?

落合 動画は毎日上げてる?

羽佐田 最近は全然。

落合 というか君は多分、動画を上げるのがあまり好きじゃないんじゃない?

羽佐田 そんなことはないですよ!(笑)

落合 勝間和代さんを見てくださいよ。どんな話題でもとりあえず毎日のように動画上げてるよ? 好きなら、目指してるんなら、毎日上げようよ。

羽佐田 撮るだけならけっこう撮ってはいるんです。だけど撮った後、編集するために映像を見てると「絶対流行らないだろうな」って思えてきて、ボツにしてるんです。

落合 演者としての自分に才能を見いだせない、ということじゃないですか?

羽佐田 それは大きいと思います。

落合 出る人として自分が向いていないなら、出演者を連れてくればいいじゃないですか。脚本を書いてしゃべらせて、その演者を面白く仕立てればいいんです。

羽佐田 だけど、ふたりでやると2倍稼がなくちゃいけないし......。僕はひとりでもできるコンテンツで、ある程度再生数を狙えるもので、自分が一番好きなことで......って考えて、ポケモンのプレイ動画配信を選んだんですけど。

落合 でもそれ、ポケモンやってる君は楽しいけど、見てる人は楽しいかな?

羽佐田 そこも悩んでまして。

落合 羽佐田さんがなぜ再生数を稼げないかわかってきた。そもそも、なんでYouTuberをやりたいんだっけ?

羽佐田 自分が楽しんで生活できれば一番いいなと思って。

落合 でも、たくさんの動画をボツにしてアップロードできてない時点で、楽しくないんじゃない?

羽佐田 そうなんですかね。さっき30万円って言いましたが、いろいろ考えて月25、6万円でも生活できるなとも思っていて。なるべく自分の時間を作りつつ、そのラインをクリアできれば、大学を辞めてもOKと親も一応言ってくれてます。

落合 地方に住めば20万円もかからないんじゃない? 例えば、先日ちょっとネットで話した30歳の人は、家賃5000円、一戸建て。畑を持ってて、1ヵ月の生活コストは1万円くらいだって。仕事はたまにプログラムを書く程度。

羽佐田 ほお~。

落合 いいでしょ? だから君は果てしなく人がいないところに行って、「大自然YouTuber、今日はニンジンをとるよ~!」「今日は鯛を釣るよ~!」って配信すればいいかも(笑)。

羽佐田 生活費を下げるという考えはアリですね。

落合 うん。そうしたらYouTuberでもブロガーでも、ぶっちゃけ暮らせるかもしれない。月980円のスローライフブログを始めて、購読者が150人もつけば暮らせるかもしれない。それくらいなら割と狙えると思う。

羽佐田 検討してみます。やっぱり、全然研究とか勉強とかをできていないのに親にお金出してもらって、ポケモンを楽しんで......っていうのは申し訳ない気がするので。

落合 申し訳なくはないよ。だって親御さんは羽佐田さんが楽しいのが一番だろうから。

羽佐田 でも、親は卒業してほしいと思ってます。

落合 俺だってそう思ってるよ(笑)。背中を押してほしいなら押してもいいけど、その場合でも中退じゃなくて休学を勧めるな。

話をして感じたのは、羽佐田さんが遊んだり楽しんだりしている様子にコンテンツ性がないということなんだよね。YouTuberを本気で目指すならコンテンツ性を上げなくちゃ。逆に、楽しいことはそのままナチュラルにって思うなら、YouTuberにこだわらず、ほかの仕事で稼ぐことを考えたほうがいい。

羽佐田 なるほど。

落合 とりあえず、意外と羽佐田さんは人前で話すのが得意ではないということで。

羽佐田 苦手です。

落合 でも、ヘコんだりしないでね。人前で話すのも何事も練習が大切だから。ありがとうございました、みんな拍手! というわけで、後半は僕がひとりで話します。

◆後編⇒落合陽一が学生たちに語った「モチベーション」の話 

■「コンテンツ応用論2019」とは? 
本連載は昨秋開講された筑波大学の1・2年生向け超人気講義、「コンテンツ応用論」を再構成してお送りしています。今回は番外編として、落合研究室所属の学生との対話をお届けします。

●落合陽一(おちあい・よういち) 
1987年生まれ。筑波大学准教授。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学大学院で学際情報学の博士号取得(同学府初の早期修了者)。人間とコンピュータが自然に共存する未来観を提示し、筑波大学内に「デジタルネイチャー推進戦略研究基盤」を設立。最新刊は『2030年の世界地図帳 あたらしい経済とSDGs、未来への展望』(SBクリエイティブ)

●羽佐田大樹(はさだ・ひろき) 
筑波大学大学院図書館情報メディア研究科修士課程に在学中。落合陽一研究室所属。「コンテンツ応用論2019」ではTAを務めた。趣味はポケモン、特技はポケモンのコスプレ生活、将来の夢はポケモンYouTuber