「YouTubeではありのままの前澤さんを伝えたいから、なるだけ刺し身で出そうと思ったんです」と語る明石ガクト氏

ウィズコロナ時代をどう生き抜くかは悩ましい問題だ。既存のやり方が通用しなくなり、多くの企業が変化を強(し)いられている。

そんななか、いち早く時代に適応し、難局を乗り切ったのが、動画コンテンツを制作・配信する「ワンメディア」だ。率いるのはロン毛がトレードマークの代表、明石ガクト氏。トヨタやダイキンといった大企業のWEB動画制作、実業家・前澤友作氏のYouTubeチャンネルのプロデュースなど、縦横無尽に活躍している。

新刊『動画の世紀 The STORY MAKERS』では、ストーリーという切り口から、動画の価値を再定義。明石氏が提示する、ウィズコロナ時代を生き抜く術(すべ)とは?

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──ワンメディアは「単なる動画制作会社ではない」とのことですが、具体的にどのようなことをされているんでしょう?

明石 僕らはクライアントと直接話して、彼らの中に眠っているストーリーを掘り起こし、動画にして届けています。具体的には、YouTubeやツイッターなどのプラットフォームで視聴できる、3~10分程度のWEB動画を主に作っています。

陸上競技でたとえると、1時間のテレビ番組が長距離走なら、15秒のテレビCMは短距離走で、僕らが作っているWEB動画は中距離走にあたります。SNS時代の今、急速に需要が高まっているんです。

──前澤友作さんのYouTubeチャンネルもプロデュースされていますが、動画のプロとしてYouTubeをどのようにとらえていますか?

明石 テレビはまず企画が先にあって、そこに人を乗っけて作っていきますが、YouTubeは人が先。古典落語と一緒ですよね。落語ってひとつのネタを違う人がやって楽しむエンタメだけど、YouTubeもモーニングルーティンや高級車紹介といった決まった企画があって、違う人がやることで味つけが変わって視聴者も楽しめる。

前澤さんの場合は桁違いのお金持ちなので、通帳を記帳したり、美容院に行ったり、みんなと同じことをしても見え方が違ってくるんです。

──ありのままを見せるだけで面白くなるからこそ、Vlog(ビデオブログ)という手法が生きていますよね。

明石 そうですね。YouTubeのプロデュースを始める前に、前澤さんが書いたnoteを読み込んだんですが、まだ世間に見えてなかった素の部分を出していったほうがいいんだろうなと感じたんです。

──「世の中からお金をなくす」というテーマで書かれた投稿が話題を呼びましたよね。前澤さんらしいストレートで熱いメッセージでした。

明石 当時は意外とアンチもいたんです。「前澤さんが伝えたいことが全然伝わってない人もいるな」とそのときに思って。文章だけだと人間味が出づらいじゃないですか。世間で報道されているイメージが先行していたからこそ、前澤さんは自分を前面に出したほうがいいと考え、YouTubeを始めようと思ったんじゃないかなと。

実際はめっちゃ気さくで笑顔がチャーミングで声もすてき。業界的にレジェンドだし、ロックミュージシャンでいえば矢沢永吉ですよ。YouTubeではありのままの前澤さんを伝えたいから、なるだけ刺し身で出そうと思ったんです。塩で食うみたいな。

──確かに投稿されている動画はどれもダイレクトに前澤さんの魅力が伝わってきますね。YouTubeはコロナ禍で視聴者が増えているようですが、何か変化は感じますか?

明石 今までYouTubeに手を出していなかった層が見始めたのは大きいですね。比較的年齢の高めな人たちがコロナ禍で一気に流入してきました。動画プラットフォームというものが、今まさに現在進行形でマスメディアになりつつあるんです。

──そんななか、ワンメディアは7月1日にコーポレートスローガンを「この世界に、物語を。」に刷新。新刊でも、ウィズコロナ時代における商品や企業の背後にあるストーリーの重要性を説いています。

明石 そもそもの持論として、動画があってストーリーがあるのではなく、ストーリーがあって動画があると考えています。クライアントには伝えたいストーリーがあって、その手段として動画が選ばれているだけですから。

クライアントワークじゃなくても、人が何かに共感するときってそこにはメッセージが込められているはずです。そのメッセージの込め方、ストーリーの見せ方がこれからは何よりも重要になってくると思います。

──裏を返せば、ストーリーの見せ方次第で共感を得られるものにもなるし、その逆もありえるというわけですね。

明石 コロナ禍で特に顕著なのが、離れていても人の気持ちを動かさなきゃいけないということ。例えば、週末のファーマーズマーケットなどで消費者と直接会話して野菜を販売していた農家さんは厳しくなる。じゃあ、どんな方法があるかといえば、僕はやはり動画だと思う。

畑をドローンで美しく撮影したとしてもただの畑で、そこにメッセージを込めなきゃ何も伝わらない。だからこそ、その農家さんや野菜にどんなストーリーが込められているかが重要なんです。

──離れたところにいる人に商品の魅力を伝える能力って、社会人に必須のスキルですよね。

明石 まさにそのとおりです。コロナ禍でリモートワークが普及し、サラリーマンのフリーランス化も進んでいきそうですよね。そうなると「僕はこういうことができます」「私はこういうものを売ってます」と伝えていく必要がある。

その一番熱い現場は個人のSNSですし、一番効率的に伝える方法は動画なんです。今後、ビジネスマンとして自分で身を立てていきたいという人は、エクセルを扱えるのと同じくらい、いい動画を作れる能力は必要になってくるでしょう。

──言い換えれば、しっかりとストーリーを作ることができる能力ですよね。

明石 コロナ禍で多くの店が潰れていますけど、ずっと混んでいる店もある。違いは人に語れるストーリーがある店かどうかだと思うんです。つまり、ネタになる店かどうか。味がおいしいとか、内装がキレイとかはもはや当然で、どれだけストーリーを込められるか。そういう時代になってきているんです。

●明石ガクト
1982年生まれ、静岡県出身。ワンメディア株式会社代表取締役CEO。共感を生むストーリーテリングをベースに1500本以上のスマートフォン向け動画をプロデュース。2020年7月に『動画の世紀 The STORY MAKERS』を出版。情報番組やバラエティ番組にもコメンテーターとして出演

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コロナショックによって、さまざまなビジネスが変化を求められているなか、「共感を集めることがあらゆる市場において勝つための原則になった」と指摘するのがワンメディア代表の明石ガクト氏。本書では、共感を生み出すストーリーの秘訣や、ストーリーを作り出すワンメディア独自のメソッド「3C」などを余すことなく公開。ウィズコロナ時代を戦い抜くビジネスマン必読の一冊。なお、本書は電子書籍のみで販売

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