「ゲーム」というエンタメとテクノロジーの未来を語り合う落合陽一(左)と鈴木達也(右)

ゲームボーイ、Nintendo64、プレイステーションシリーズなど多くの機種でソフトを作り、近年はスマホゲームにも進出しているゲームプロデューサーの鈴木達也(すずき・たつや)。

業界の大ベテランである鈴木が、『スーパーマリオブラザーズ』の時代に見いだされていた、現代のゲーム作りにも役立つ"文法"のその存在を明かした前編記事に続き、後編ではふたりが「ゲーム」というエンタメとテクノロジーの未来をアツく語り合う!

* * *

落合 任天堂といえば、数あるゲームハードの中でもNintendo Switchの登場は衝撃的だったと思うんですが、いかがでしょう。あれが出てから「携帯ゲーム機という概念」がなくなったじゃないですか。

鈴木 そうですね。私もSIEにいて、プレイステーション・ポータブル(PSP)が好きでしたし、ソフトも作っていたなか、「海外では携帯ゲーム機は日本ほどの需要が見込めない」と言われていたことを覚えています。

例えばアメリカでは、ゲームといえばリビングに大きなテレビを置いて皆でプレイするようなスポーツゲームが強く、コンソール機(据置き機)のほうに人気が集まります。一方、日本では携帯ゲーム機も人気なので、作る側は双方にコンテンツを提供しなければなりません。そういった点にも頭を悩まされていたのですが、任天堂さんはひとつの製品で両方できるようにした。さすがだなと。

落合 僕は最初、スマホ時代にこのアプローチは通用しないだろうと思っていたんですが、皆さんご存じのとおり大成功しています。ゲームを作る人は見る目がすごい。手元の画面の解像度とテレビの解像度が大差なく、シームレスにつながることがポイントだったと思います。

鈴木 実際には、テレビ画面のほうはスケーリングをかけて大きく出ているんですが、プレイヤーには気にならないようですね。

あと、Switchを仮に携帯ゲーム機ととらえると、任天堂さんの過去の製品より画面サイズが大きめなんですね。スマホとも違うし、テレビに勝とうとするわけでもない......という、ちょうどいいサイズを追究した結果だと思います。

落合 あれは何回もプロトタイプを作って決めたんでしょうね。本当にすごいです。この25年間でゲーム開発に関連する技術やツールは急激に進化しましたが、今後さらに期待することはありますか?

鈴木 ツールに関して言えば、もっと低コストでグラフィックが使えるようになってほしいです。現実世界をデジタルに取り込んで、もうひとつの世界、「ミラーワールド」がもうすぐそこまで来ているような時代。

クラウド上に地球全体のロケーションが8Kクラスに耐えうるデータとして存在して、作る側はカメラを持ってその中にロケしに行く――それくらいに早くなってほしいですね。そうすれば絵素材を作る必要性は低くなりますし。

落合 写真や動画を撮るような感覚でグラフィックが生成される環境ですね。最近ではゲームエンジンのUnrealを使って映画を撮る試みがなされています。現場で撮りながらエフェクトを入れたり、その場で演者さんにフィードバックしてみたり、そういうことが割とうまくいくそうです。

つまり、「ゲームの中で映画を撮る」ような感覚と言いますか。CGってこれまでポスト・プロダクションの主戦場だったのが、リアルタイムレンダリングに比重が移ってきて、しかもこの流れはコロナでさらに加速しそうです。

鈴木 映画とゲームはCGの技術でつながってきましたからね。アメリカのゲームスタジオでは映画業界出身の方も多いですしね。技術の行き来も、人材交流も盛んにあって、今はそれがもう一段先に進もうとしている時期だと思います。

株式会社125が2019年にリリースしたスマホ向けノベルゲームアプリ『シンゾウアプリ 6人の彼』。呪いをかけられた男の心臓がアプリに乗り移ったとの設定で、キャラクターのグラフィックなし、豪華声優陣による音声のみでシナリオが展開・分岐していく。©2019 125 Inc.

落合 ゲームにとっては「絵素材とはなんぞや」、映画にとっては「ロケとはなんぞや」という世界に向かっているのかもしれません。 

近年はAIの発展が著しいですが、ここにはどんな期待を持たれますか?

鈴木 僕は今でも自分でプログラムを書きますが、やりたいことを形にするまでに時間がかかってしまうんですよね。だからいっそ、AIに「こんな感じのゲームの躯体作って」と指示したら瞬間的にできるくらいになってくれたら、本当に"ネタ作り"だけに集中できて、考えたことをすぐ試せるようになって楽しいだろうなと思ってます。

落合 コンピューテーショナル・デザインにおける最適化計算のようなプロセスを、コード書きの次元でやってもらうわけですね。人間はざっくりとしたアイデアと、細部のこだわりに専念すればいいという。

最近僕がイノベーションを感じたのは、「MacBook Pro」の新しいプロセッサー。

鈴木 M1ですね。

落合 はい。M1搭載のMacBook Proは、バッテリーが20時間くらいもつんです。このレベルのプロセッサーが5年後に標準になるとすると、携帯ゲーム機にしてもスマホにしても、バッテリー残量を気にしないで遊べるようになります。そうなるとゲームのデザインも変わってくるのではないでしょうか。

鈴木 スマホでゲームする人には、どこかで「バッテリー切れちゃうから、一回ゲームやめようかな」といった心理は働きますよね。

例えば「あまりに長いゲームサイクルは好まれない」といったように、それがゲームをデザインする上で影響している部分はありますね。ですから「バッテリーを気にすること」自体がなくなったら、ゲームデザインの幅もより広がるかと思います。

落合 『ポケモンGO』のようなロケーションゲームで、カメラ常時オン、GPSもフルトラッキング状態で使っても一日もつバッテリーが普及するのはすばらしいことです。それはARグラスの普及とも重なるでしょう。Appleの投資は間違っていないな、と思います。

鈴木 睡眠中に充電するだけで、あとは一日中つけていられるARグラスが普及したら、世界は変わるでしょうね。

落合 そうなったらどんなゲームを作りたいですか?

鈴木 「いつもそばにいるんだ、あるんだ」という感覚と紐づいたものに挑戦してみたいですね。すごく簡単なことでもよくて、例えば朝起きて腹筋すると、ARグラスの中でペットが強くなる、とか。

落合 『たまごっち』のAR版みたいですね。一昨年、この講義に簗瀬(やなせ)洋平さんをお招きした際にも話したことなんですが、ゲームって極めて費用対効果のいい娯楽だと思うんです

しかもその傾向は加速していて、ソシャゲでガチャを大量にまわしたりしない限りはローコストで長時間楽しめるから、格差が広がる世の中でも常に一定の支持を集め続けるでしょう。

鈴木 中には「絶対に課金しないぞ」という人々もいて、その方たちはゲームをプレイしつつ、「そのゲームのビジネスモデルに抗っている」という気概を抱かれたりしていますしね。

落合 その人たちは本当にコストゼロ円で遊んでいる。すごいことです。

鈴木 いわば富の再分配の仕組みなわけじゃないですか。ですが課金が行き過ぎてしまって、ルートボックス(ガチャ)が規制されるような気運になってきていますので、この(多くの無料ユーザーと一部の高額課金ユーザーという)構造がビジネスモデルとして5年後に生き残っているかというと、微妙なラインだと思っていますけどね。

2020年11月にリリースされた、鈴木氏がディレクターを務めたゲーム『ステオス 雇われ砲撃手の悲哀』(Steam/PC)。人工知能軍同士の戦争に、なぜか雇われ助っ人として人間の砲撃手が参加するという設定の「横シューティングに見せかけた固定画面の激ムズアクションゲーム」。©2020 Gotcha Gotcha Games

落合 ゲームが持つ、ある種のギャンブル性はとかく問題視されやすいところですが、僕自身は最近、スマホゲームのガチャよりSNSのほうが有害だと思うようになっています。そのあたりはいかがでしょう。

鈴木 直接の答えになるかどうかわかりませんが、僕には息子がふたりいます。中一と高一で、ふたりともめちゃめちゃゲームしまくっていますが、彼らは絶対にボイスチャットしながらゲームするんですね。

要は友達とつながるためのひとつのツールになっているようです。そうすると、「ゲームに」ではなく、「コミュニケーションに」時間やお金をかけているという見方ができるわけで。

落合 よくわかります。チャリで遠出するとか、公園でサバゲーやるとか、そういう遊びの代わりに、デジタルなプレイグラウンドに集まって遊んでいるんですよね。

大人の場合も同じで、居心地がよくてだべれる場としてのゲームは大切だなと思います。するとほとんどSNSと同じことなんですが。

鈴木 ただ、SNSだと文字ベースのディスりがどうしても発生しがちじゃないですか。うちの子供は小学生のときに『Minecraft』でボイスチャットを覚え始めて、知らない人とも平気で遊ぶんですが、僕が見ている限りではディスりとかイジメみたいなものはありません。

ゲームで見知らぬ相手との距離感を学んだ子供たちって、SNSの使い方もよくなるんじゃないかと期待しています

落合 マナーが悪いプレイヤーももちろんいるけど、発生率は減っているような気がします、確かに。

鈴木 ボイスチャットは当然"自分の声"を通じたコミュニケーション。だからリアルに接しているときのように、相手を気づかう意識が働くのではないかと思っています。

落合 なるほど。それと、コロナ禍になってからよく思うんですが、Zoom飲み会ってただのボイスチャットじゃないですか。みんなで遊べるゲームが足りてないからああなるのかな。

鈴木 ぶっちゃけ、Zoomがちょっとしたミニゲームを入れてきたら、めちゃめちゃ怖いなって思いますもん。

落合 それはきっと出てくると思います。チャットツールを使っていると、明らかに"隙間時間"が生じる人がいるんですよ。そういうときにミニゲームを差し込めたら、みんな喜んでプレイするでしょう。そしてゲームしながら、自然とまた会話が弾んでくる、と。

ゲーム実況っていうジャンルはすごい発明だと僕は思っているんです。あれは友達の家に遊びに行って、ゲームしているのを後ろから見ているあの感覚に近いでしょう

鈴木 わかるわかる。

落合 それで、「異世界転生」ものはどう考えても、RPGを実況しているプレイヤーの物語なんですよね。

鈴木 確かに。そもそもライトノベルの源流ともいえる『ロードス島戦記』って、テーブルトークの"リプレイ"ですし。

落合 はい。テーブルトークからラノベが生まれたように、ゲームからゲーム実況が生まれ、そこからさらに転生もののような波及コンテンツができていく、という構造になっています。それはこれからも繰り返されるので、ゲームから明るい話がいっぱい出てくるでしょう。ゲームの話をしていると、僕は幸せな気分になります。

■「コンテンツ応用論2020」とは? 
本連載は2020年秋に開講された筑波大学の1・2年生向け超人気講義、「コンテンツ応用論」を再構成してお送りします(今年度はリモート開催)。落合陽一准教授がコンテンツ産業に携わる多様なクリエイターをゲストに招き、白熱トークを展開します

●落合陽一(おちあい・よういち) 
1987年生まれ。筑波大学准教授。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学大学院で学際情報学の博士号取得(同学府初の早期修了者)。人間とコンピュータが自然に共存する未来観を提示し、筑波大学内に「デジタルネイチャー推進戦略研究基盤」を設立。近著に、2016年の著作『これからの世界をつくる仲間たちへ』をアップデートした新書版『働き方5.0』(小学館新書)

●鈴木達也(すずき・たつや) 
1973年生まれ、静岡県出身。株式会社元気、富士通などを経て、ソニーインタラクティブエンタテインメント(SIE)でゲームプロデューサーとして『無限回廊』シリーズ(PSP、PS3)、『I.Q Mania』(PSP)など多くの作品に携わった後、独立し株式会社125を設立。独立後の作品に『シンゾウアプリ 6人の彼』(iOS、Android)、『ステオス 雇われ砲撃手の哀愁歌』(Steam/Switch)など