近年、YouTubeなどのネット世界では「バーチャルYouTuber」、通称「VTuber」と呼ばれるクリエイターたちが大人気だ。
アニメ風のアバターと人間の動きをシンクロさせた動画配信者である彼らが発信するエンタメはまさにネットの新潮流。そんな知られざるVTuberシーンの盛り上がりに迫るとともに、その人気の秘密について大人気VTuberにも話を聞いてみた!
■あっという間にVTuberがブーム
YouTubeでここ数年、爆発的な人気を博しているのが「バーチャルYouTuber」、通称「VTuber(ブイチューバー)」と呼ばれるクリエイターたち。
だが、主にYouTubeに投稿した動画の広告収入で生計を立てているYouTuberは知っていても、VTuberのことは実はよくわからないという人も多いはず。
そこで、快進撃を続けるVTuberについて、ITジャーナリストの高橋暁子(あきこ)氏に話を聞いた。
「VTuberとは、簡単に言うとアニメ風のアバターを使ったYouTuberのことです。もととなる配信者である"中の人"の動作をカメラで読み取り、その動きをアバターにリアルタイムで再現させ、声を吹き込み、動画にして配信しています。
動画内でやることはさまざまですが、トークやゲーム配信がメインという共通点があります。男女問わず存在していますが、とりわけ人気を博しているのは女性という印象があります」
なぜ今、爆発的な人気を獲得しているのか。
「シンプルに"トークの面白さ"や"人間力"で支持を集めていますね。生身の姿を見せない分、純粋に人間的な面白さが評価される環境で、仮にアバターのかわいさが入り口だったとしても、最後はクリエイターとの交流に心をつかまれていくのでしょう」
実際、筆者も試しに人気配信者の動画を見てみたところ、すぐに"沼"に落ちてしまった。彼女たちの天性のボケっぷりや鋭いツッコミ、トークスキルは、並のテレビタレントを上回る印象だ。
そんなVTuberの存在は、ここ数年で急速に広がったという。
「2011年に日本人の動画クリエイター・Ami Yamamotoさんが、動画の中でバーチャルのアバターを介して『Vlog(ビデオ形式のブログ)』活動をしたのが始まりとされています。
その後、お天気番組のキャスターなど、バーチャルの体を介した活動者が増え始め、2016年12月、VTuberの代名詞となったキズナアイさんが活動を開始。自らをバーチャルYouTuberやVTuberと名乗ったのが、現在のVTuberの始まりとされています」
2017年に入ると、彼女の後を追うようにデビューする人が増加。そのなかには"バーチャルYouTuber四天王"と呼ばれ、一時代を築くスターたちも現れた。
「この頃から、VTuberという言葉はキズナアイ個人から、彼女らのような配信者全般を指すようになり、その数も爆発的に増加しました。そして、2018年には、企業が運営する事務所所属のVTuberグループである『ホロライブ』や『にじさんじ』といった存在が頭角を現していきます。
アイドルグループに属する一員として活動する彼女たちは、キズナアイのような個人に対して、俗に"企業勢"と呼ばれています。現在、『ホロライブ』『にじさんじ』などは、企業勢のトップランナーとして覇権を競い合っている、よきライバル関係です」
企業勢は、同じグループ内のほかのメンバーとの"コラボ配信"が多いのも特徴。そのため、ファンは自分の"推しメンバー"を見ていたはずが、次第にほかのメンバーや、その関係性自体に魅了されていくというわけだ。
なかには、欧米、韓国、インドネシアなどの外国人で結成されたグループも数多くある。ホロライブ内の英語圏グループ「ホロライブEnglish」のメンバーのひとり「がうる・ぐら」は、キズナアイを超える370万人以上のチャンネル登録者数を誇り、その人気は海外でも爆増中だ。企業勢が現在の業界の看板というのもうなずける。
■VTuber本人があけすけに語る裏側
企業勢の人気が加速する一方で、"個人勢"も負けてはいない。数々の非正規雇用を経たアンダードッグ精神と缶チューハイを愛しすぎた酒やけボイスを武器に、爆笑の食品レビューを行なう今酒(いまさか)ハクノさん。
7時間以上に及ぶセミの鳴きマネ配信や、フエラムネをくわえた状態でリスナーと雑談をするなど、異色の企画が注目を集める現役女子大生・瑠璃野(るりの)ねもさんなど、個性的な面々がそろっている。
なかでも、個人勢ながらチャンネル登録者数が100万人を突破しているのが、アメリカ出身のVTuber・kson(ケイソン)さんだ。アメリカ南部のワイルドすぎる異文化ネタと抜群の愛嬌(あいきょう)で人気の彼女が、いかにしてVTuberになったのか、話を聞いた。
「もともと日本のゲームやアニメ文化に興味があり、日本語を勉強するなかで、ゲームをしながらその様子を実況したり雑談したりする"ゲーム実況動画"にハマりまして。2016年頃に『いっちょやってみるか』とニコニコ動画に投稿したのが最初ですね」
当時は、社会人として働きながら趣味で動画投稿していたが、徐々に人気を集め、顔出しもするようになった頃に、活動の場をYouTubeに移していったという。
「その頃ハマっていたオンラインゲームで、自分に似たバーチャルアバターを作ったのがきっかけ。こういう姿で配信するのもいいなと、2018年11月頃にバーチャルの姿で初の動画投稿をしました」
その後、ksonさんは昨年10月に『Live2D』と呼ばれる、2Dのイラストを3Dのように動かせるソフトをベースに新たなアバターを作り、再デビュー。このLive2Dという技術が、現在のVTuberシーンでは欠かせない技術なのだそうだ。
「VTuberのアバターには3Dと2Dのふたつのスタイルがあります。3Dの場合は人体の各所に動きを感知するデバイスを装着する、モーションキャプチャー技術を使うのが一般的。ただ、動きをリアルに再現できる一方、スペースとコストがかかり準備も大変です。
2Dの場合は、顔や目、髪など、パーツごとに分けたイラストの可動範囲を設定し、Live2Dで"動かせる静止画"を作るのが主流。これはパソコン一台と1000円ほどのウェブカメラ、もしくはアプリを使えばスマホ一台でもできるので、非常に簡単です」(前出・高橋氏)
近年のVTuber人口増加の一因ともいえるこのLive2D技術の便利さは、ksonさんも太鼓判を押す。
「コレの何がいいって、いつでも"ソフトを立ち上げたら、即かわいい"状態になれることですね! 現実の自分で出るとなると、かわいく映るための準備がものすごく大変なんです。でも、VTuberになればそういう苦労から解放される。
それに、アバターの皮をかぶることで言えるようになることって、いっぱいあると思うんですよ。こいつブスのくせに何を言ってんだって叩かれるかも......みたいな思考をシャットアウトできる。心の弱みを握られている気持ちが全部なくなるんですよ。ヒーローに変身するみたいな感覚ですかね!」
なかには、肉体をさらさなくても済む特性を生かした、個性的な配信者もいるという。
「"中の人"がおじさんでもかわいいアバターとボイスチェンジャーを使えば、美少女として振る舞うことだってできますからね。彼らは"バーチャル美少女受肉(じゅにく)おじさん"、略して"バ美肉(びにく)おじさん"と呼ばれ、界隈(かいわい)でも愛されていますよ(笑)」(前出・高橋氏)
■スパチャ(投げ銭)が乱れ飛ぶ独特な世界
外見から解放される自由さに満ちたVTuber。だからこそ人気を獲得するために必要なのが、"人間力"や"コミュニケーション力"だ。
それらのスキルがいかんなく発揮されるのが、近年の主流である「生配信」スタイル。これによりVTuberとファンが、チャット欄を通してリアルタイムでやりとりすることができるのだ。
「私たちって、失敗や成功、ハプニングを繰り返す日々自体をコンテンツとしてお届けしているので、視聴者さんたちにとっては一種のドキュメンタリーを見ている感覚もあるのかもしれません。そして、そのストーリーに視聴者さんが参加してもらえる生配信スタイルは、私は非常に大事だと思います。
リアルタイムで視聴者さんがかけてくれる言葉に笑ったり、ツッコミを入れたり、考えさせられたり、感動させられたりする。そうやって時間を共有することで、毎日少しずつ"お約束"が出来上がっていくのが楽しい! 配信は1時間超えが普通で、盛り上がれば5、6時間を超えるときもありますね」(前出・ksonさん)
その視聴者との交流の一環として、業界の代表的な文化が「スーパーチャット」だ。「スパチャ」と略されたり「投げ銭」と呼ばれたりするが、視聴者が配信者へのチップとして利用することが多い。広告収入と並ぶVTuberの収入源であり、人気VTuberともなると、スパチャが乱れ飛ぶこともあるという。
実際、世界中の全YouTubeチャンネルの中でもVTuberがスーパーチャットランキングの上位を占めるほどで、2021年のランキングの30位までは、ほぼ企業勢のVTuberだった。
「まるでキャバクラだと揶揄(やゆ)されがちですが、個人的にはそういう下心に起因するものとは違う印象です。アイドル文化の"推し活"や、路上ライブで"おひねり"を入れる感覚に近いかもしれません」(前出・高橋氏)
チップの文化がない日本でこれだけ盛り上がるのは面白い現象だが、こうしたファンの熱意に、自ら"世界一投げ銭する視聴者に推されるVTuber"と名乗ったこともあるksonさんはどうとらえているのか。
「スパチャがない時代から配信していたので、最初にスパチャをいただいたときは『え、こんなふうにお金をいただくのが許されるの!?』って、ラクしてお金稼ぎしているようで戸惑いました。
でもスパチャは自分を応援してくれている証(あかし)でもありますので、こちらとしてはもらったお金は、可能な限り配信の企画や技術の進歩などにつぎ込みたいと思っています。やっぱり信頼関係で成り立っている文化だと思うので、一方通行は気持ちよくないですしね」
毎日少しずつファンとの信頼関係を築き上げ、グローバルな人気も加速させているVTuberたち。国境のないデジタル世界で自由に羽ばたく彼女たちを"推す"のにまだ遅くはないぞ!