今年3月、日本初の3Dプリンター住宅が完成した。先進的なチャレンジに海外からも注目が集まり、報じたメディアは世界26ヵ国に及ぶ。

開発したセレンディクス社のCOO(最高執行責任者)・飯田国大(はんだ・くにひろ)氏に、『週刊プレイボーイ』本誌で『街歩き投資ラボ』を連載中の株式評論家・坂本慎太郎氏が直撃。ビジネスの勝ち筋と住宅の未来について根掘り葉掘り聞いた!

■車を買う価格で家が持てる

坂本 セレンディクスの3Dプリンター住宅「Sphere(スフィア)」はどのように造られるんですか?

飯田 コンクリートを原料に、外壁や天井、床を3Dプリンターで施工します。内装以外は3Dプリンターとロボットを活用して大幅な省人化を実現しています。

坂本 3Dプリンターというと、3D CAD(キャド/コンピューターを用いた設計図面)のデータを樹脂で立体化する小型のものを想像する人も多いと思いますが、コンクリートで立体化する建設用のプリンターもあるんですね。

飯田 はい。3Dプリンターを活用した建設実績は欧米が先行しており、今回利用したプリンターもオランダから輸入したものです。

坂本 Sphereの工期と価格はどれくらいですか?

飯田 工期は躯体(くたい)の組み上げで3時間、内装や防水処理まで含めて、実際に住める状態になるまで24時間程度かかります。10㎡サイズのモデルの予約を今月中に300万円で受けつける予定です。

坂本 10㎡というと約6畳だから、かなり狭いですよね。

飯田 まずはグランピングや災害時の仮設住宅用として、小さなモデルからリリースします。水回りもないので、ここで暮らすのは難しいでしょう。しかし、いずれは広い家を坪単価10万円で建築できる見通しです。つまり、夫婦と子供ふたりの家族が暮らす家なら300万円程度でできてしまうんです。

外壁などの部材は工場で加工し、建築現場へ運ぶ!

4つの部材を、重機を使って 現地で組み立て!

23時間12分で「Sphere」完成! 現状のSphereは10㎡(=約6畳)。グランピングや災害時用の建物として売り出すという

坂本 一般的なRC造(鉄筋とコンクリートで構成された構造)の住宅が坪単価70万円ですから、かなり安価ですよね。耐震基準もクリアしてるんですか?

飯田 はい、Sphereは日本の厳しい耐震基準をクリアしています。

坂本 なるほど。ここで気になるのは競合の存在です。海外の同業他社に加え、国内では大手ゼネコンも含め複数社が参入しており、セレンディクスは後発。どんな点に勝機を見いだしているのでしょう?

飯田 3Dプリンターで建築することを前提にイチから設計している点が、他社との違いですね。Sphereは球体ですが、球体は全方位からの力に強いため、将来的には鉄筋などの構造体を付加する必要がなくなる見込みです。

一方、3Dプリンターを使った通常の建築物は、既存工法用の設計をそのまま流用し、壁だけを3Dプリンターで造っているイメージです。つまり強度を維持するため、構造体として鉄筋を入れる必要があります。

この工程が納期とコストを押し上げてしまうんです。そのせいで納期は3ヵ月以上かかりますし、コストは既存工法の30%しか圧縮できません。

坂本 設計段階から、3Dプリンターでシンプルに施工できるよう工夫していると。

飯田 ええ。断熱性に関しても、コンクリートを二重構造にして壁の厚みを30㎝確保できるように工夫しており、ヨーロッパの厳しい断熱基準をクリアできます。これも納期とコストを抑えるのに役立っています。

こうした断熱性や耐震性、また、施工の完全自動化といった点は世界的に見ても独自性の高い技術です。

■車のように家を買い替える

坂本 セレンディクスの設立は2018年ですよね。先行する他社がいるなかで、それでもあえてこの分野で起業したのは何か理由が?

飯田 私と共同創業者は、これが数度目の起業です。今回は、自分たちが本当に解決したい社会課題に取り組もうと思っていました。そこで自分の知人を見渡すと、長期の住宅ローンに悩んでいる人が本当に多かったんです。

住宅ローンの多くが30年の期限で、完済時の平均年齢は73歳にもなる。その間、ずっとひとつの土地に縛りつけられます。さらに、自分が本当にやりたい仕事があっても、ローンがかせになって二の足を踏んでしまう人もいる。こうした現状を変える事業がしたいと思ったんですよ。

「住宅ローンに縛られる人を減らしたい。これが起業のきっかけです」と語るセレンディクスCOO・飯田国大氏

坂本 それで、住宅コストを下げようと3Dプリンター建築に着手したわけですね。

飯田 おっしゃるとおりです。

坂本 ただ、住宅ローンは土地代もセットのことが多いですよね。

飯田 ええ。土地が高い都心での暮らしと異なる、新しいライフスタイルの提案も併せてすべきだと考えています。実は私自身、19年に大分県日田(ひた)市に移住しているのですが、そこで今後、都会とは異なる新たな暮らしのあり方をSphereを使って提案していければと思っています。

また、来年には家族が居住できる49㎡以上の一般住宅、通称「フジツボモデル」をローンチする計画です。単一素材で複合機能を持たせた3Dプリント建築が、いよいよ住宅としての性能を試されることになるわけです。こちらは今秋にプロトタイプが完成する予定です。

Sphereの一連のチャレンジによって、車を買い替えるように、年齢、家族構成、仕事に合わせて自由に家を買い替えられる世界を実現したいですね。

今秋完成予定! 500万円の平屋住宅。慶應義塾大学と共同開発する、延べ面積49㎡、高さ4mの住宅「フジツボモデル」。こちらも24時間で施工が終わる見込みだ ©慶應義塾大学KGRI環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センター 益山詠夢

●飯田国大(はんだ・くにひろ)
1972年生まれ、福岡県出身。2019年、セレンディクスCOO(最高執行責任者)に就任。日本初の3Dプリンターの住宅メーカーをスタート。2022年3月、日本初の3Dプリンター住宅を愛知県小牧市で完成させた

●聞き手 株式評論家・坂本慎太郎
日系の証券会社でディーラー、大手生命保険会社で株式、債券のファンドマネジャー、株式のストラテジストを経て独立。『週刊プレイボーイ』にて『街歩き投資ラボ』を連載中!