政府は5月11日からAndroidスマートフォンにマイナンバーカードの機能を内蔵すると発表。最大2万円分のマイナポイントを獲得できるキャンペーンにより、その普及率は全国民の約半数まで急上昇。この物理カード機能を、スマホに内蔵することでの利便性や問題点などを解説です!
■スマホ内蔵のメリットとは?
――まずはITジャーナリストの三上洋さんにお聞きします。なぜマイナカードをスマホに内蔵する必要があるのでしょうか?
三上 多くの国民が活用しているスマホに内蔵することで、よりマイナカードを普及させるのが、まずひとつの目的です。そしてスマホのUIの使いやすさ、セキュリティ性の高さも理由です。
――そのメリットは?
三上 今回のスマホへの内蔵は、物理カードにある本人確認を行なう電子証明書機能をスマホに内蔵します。例えば、多くの方が行なった2万円分のマイナポイントの申請。ここでマイナカードをスマホに"かざす"工程がありましたが、スマホ内に電子証明書機能があることで"かざす"は必要なくなります。
もちろん、これまで物理カードで行なってきた各種行政手続きはオンラインで完了でき、コンビニでの住民票などの交付サービスもスマホのタッチに対応。そして健康保険証機能、母子健康手帳・お薬手帳の機能も追加される予定です。でも、実は最大のメリットは行政側にあるんですよ。
――それ、どんなメリットなんですか?
三上 例えば、新型コロナに関連する各種給付金はオンラインから申し込み可能でしたが、本人確認作業などはオンラインから入力されたデータを出力して人海戦術で行なっていました。
――アナログすぎかよ!
三上 スマホ内のマイナカードにある電子証明書機能はオンライン上で本人確認ができ、このような非効率な作業はなくなります。なので行政側には大きなメリットとなるのです。
――そんな中、iPhoneはマイナカード内蔵が遅れるという話もチラホラ。中には2024年になるって報道も! 通信業界に精通するITジャーナリストの法林岳之(ほうりん・たかゆき)さん、これはどうなんでしょうか?
法林 新iOSの仕様はローンチ前年の秋前後に確定するのが通例です。昨年の12月にAppleのティム・クックCEOは岸田(文雄)首相との会談でマイナカード内蔵について「取り組みたい」と前向きな発言をしましたが、時期的には今年のiOSの仕様は確定済みです。なので、「2024年から内蔵」という報道が出てくるのでしょう。
――具体的にiOSはどんな部分で対応が遅れているのでしょうか?
法林 マイナカードのスマホへの内蔵は、アプリ内にその情報を入れるのではなく、OS内に入れるシステムとなります。GoogleのAndroid OSはメーカーや行政が独自の改修を行なうことができるオープンソースで、さらにGoogleはマイナカードのスマホへの内蔵には積極的に協力しています。
一方のiOSはブラックボックスな部分が多く、行政が独自に改修を行なえる部分はまったくありません。これが大きな要因です。
また、今年発売されるであろうiPhone 15シリーズはこれまでのライトニング端子を廃止してUSB Type-C端子の採用という大改修が予想されています。日本のマイナカードのためだけに新規開発を行なうのは難しい状況なのです。
――では三上さんにお聞きします。そもそもマイナカードのような公的なIDカードをスマホに内蔵するのは各国でもやっているの?
三上 現在、先進諸国の多くがスマホへのIDカード機能の内蔵を進めています。例えばフランスでは従来のカードタイプの国民IDカードとは別に、スマホ内蔵のデジタルIDを導入。スマホだけで官民のあらゆるサービスを使える先進的な仕組みです。
――日本もそれに倣ってスマホ内蔵を進めていると?
三上 日本は物理カードの所持が大前提で、カードを持っていない人はスマホ内の機能を使えず、普及が遅れる可能性があります。このような日本の中途半端なやり方が、Appleの対応が遅れる理由のひとつかもしれません。
■民間サービスでも活用シーンが激増!
――これまでの物理カードの活用シーンは行政手続きが中心。一方、スマホに内蔵されると今後は民間サービスでも活用シーンが広がるという。これは、どういったところで使えるのでしょうか?
三上 銀行や証券口座の開設、住宅ローンの申し込みから契約、そしてキャッシュレス決済の申し込みなど幅広く対応する予定となっています。例えば、SNSに登録する場合にもスマホ内のマイナカードで本人確認も容易に行なえ、未成年者に対する犯罪防止策としても期待できます。
――でも、これらって今でもオンラインである程度はできますよね。
三上 今まではマイナカードや運転免許証を撮影してアップロードする必要がありました。それらがすべてカットされます。また、マイナカードにはお薬手帳の機能もあり、それを生かして「処方薬のオンライン販売」もよりスムーズに行なえます。
――なるほど! 処方薬のオンライン販売はアマゾンも今年参入予定だし、これはマイナカードのスマホ内蔵が大ビジネスのトリガーになりそう。実店舗でも活用シーンはあるんですかね?
法林 例えばコンビニでたばこやお酒を購入する場合は【20歳以上ですか?】【はい】と決済端末へのタッチを行ないますが、この認証をスマホ内のマイナカードで行なえます。
そしてタッチ決済と連携して【認証・決済】が同時に行なえるようになれば利便性はかなりアップするでしょう。また、大手家電量販店やキャリアショップなどがスマホのタッチでのマイナカードの認証を求めるようになれば、転売防止の抑止力としても機能するでしょう。
――それは効果も高そう! あと5月11日のローンチ前後で予想されるお得な要素とかありませんかね?
三上 やはり新規のマイナポイント還元です。民間サービスも活用されるようになると、企業それぞれの競争意識が働いてポイントをバラまきやすい環境になります。
――マイナポイントお代わりには超期待なんですけど!
三上 しかし、それに合わせてSMSから発信されるフィッシング詐欺の増加が予想されます。例えば【マイナンバーカードのスマホ内蔵キャンペーン実施中! ○○クレカのポイント獲得はこちら!!】といった感じです。
――すっごいベタだけど、確実に釣れるやつ! これってマイナカード内のなんかしらの情報を盗もうって目的なんですかね。
三上 いえ。目的はクレジットカード情報です。フィッシング詐欺の目的は換金しやすいクレカ情報や携帯電話会社のIDやパスワード。URLリンク付きのSMSはすべて無視するのが鉄則です。
――そもそも、スマホ内のマイナカードのセキュリティ面での問題点はないんですか?
法林 OS内に入れることで、タッチ決済である「Google Pay」や「Apple Pay」の情報管理に近いシステムとなります。これらは過去に情報が流出した実例もなく、安全性は高いです。ただ、OSにデータが残るので、スマホ下取り時のデータの完全削除はユーザー、中古スマホ販売業者共により徹底されるでしょう。
――例えば端末を紛失した場合はどうなるんでしょうか?
三上 これに関して政府はリモートでのデータ削除のシステムを検討中です。ただ、私としては【SNSの乗っ取り】のような、スマホのパスコードを他人に知られた上で、物理的にスマホを盗まれる古典的なハッキングのほうを警戒しています。
――それ全個人データが流出の大惨事! スマホにマイナカードを内蔵する際は、スマホと各種認証の管理を超徹底するべきかと!