今やすっかりおなじみとなった「メタバース」とともに、次世代のウェブサービスを象徴するバズワードとして注目されているのが「Web3(Web3.0)」だ。
しかし「GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック/現メタ、アマゾン)」など、通称「ビッグテック」と呼ばれる巨大IT企業による支配からネット社会を解放したインフラで、自由で公平な未来をもたらすのが「Web3」だといわれても、いまひとつピンとこない人も多いのではないだろうか?
そんな疑問にわかりやすく答えてくれるのが、昨年『メタバースとは何か』がベストセラーとなった岡嶋裕史(ゆうし)氏の新刊『Web3とは何か』だ。
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――本題のWeb3とは何か、というお話を伺う前に、そもそもWeb2(Web2.0)ってなんでしたっけ?
岡嶋 Web2.0とは、それまで固定されていた「情報の送り手」と「情報の受け手」が流動化・双方向化したウェブの利用法を意味する言葉で、日本では梅田望夫(もちお)さんの『ウェブ進化論』が出版された2006年あたりから流行しました。
これ、今ではSNSを思い浮かべる人が多いと思うんですが、当初はブログあたりから始まって、その後、ウィキペディアのような集合知サービス、フェイスブックのようなSNS、ユーチューブのような動画配信サイトなど、誰もが情報の発信者になれるウェブ上のサービスが急速に普及していくことになりました。
――そのWeb2.0とWeb3とは何が違うのでしょう?
岡嶋 自分で『Web3とは何か』という本を書いておきながら、こんなことを言うのもアレですが、僕はWeb2.0もWeb3も根っこは同じで「意識が高い人たちのキラキラな空気感」でしかないと思ってるんですね。
――意識が高い人たちのキラキラな空気感......ですか?
岡嶋 もともと、インターネットやウェブって脱権力志向の強いアナーキーな人たちが発達させてきた面があって、WebもWeb2.0も「放送局や新聞社、出版社など既存の大きなメディアに依存しなくても、誰もが情報の発信者になれるんだ」「HTML(ウェブページの記述言語)さえわかれば、個人が世界に向けて発信できる時代がやって来たんだ」という、脱権力的でキラキラとした高揚感に支えられていました。
ところが、実際にブログやSNSが広がっても、それを支えるシステムや仕組みはビッグテックが支配している。例えばユーチューバーはいつも収益のことを気にしていて、そのさじ加減はユーチューブを持っているグーグル次第だし、いつの間にかグーグル先生の手のひらの上で転がされているだけ......みたいな状況になっていることにも気づき始めた。
――イーロン・マスクのご機嫌次第で、ツイッターのルールも二転三転しちゃうとか。
岡嶋 そうです。そこでもう一度、個人にネットの力を取り戻したい、ウェブの世界をビッグテックのような一部の企業が支配できない仕組みにしようというのが、Web3の背景にあるキラキラとした空気感で、その点で言えばWeb2.0のときと同じなんですね。
では、Web3は何が違うのか? 自由で民主的な仕組みをどうやって実現するのか? という問いに対して「人間が関わると手間も時間もかかるし必ず不正が起きるから、だったら全部を機械的な仕組みでやればいいんだ」というのが、Web3推進派の考え方です。
そして「不正ができない、自由で民主的なネット社会」を技術的に担保するのがブロックチェーンなのだというのが、イーサリアムの共同創設者でもあるギャビン・ウッドなど、Web3を主張する人たちの論法なのですが、僕はそこに論理の飛躍があると思っていて、実現の手段はブロックチェーンだと言い切ってしまう点に大きなズレを感じるんですよね。
――ブロックチェーンは仮想通貨を支えている技術ですね?
岡嶋 そうです。今までは、情報をすべてグーグルのような巨大プラットフォーマーが管理していて、管理者が責任を持って扱うという発想だったわけですが、それだと管理者がウラで何かしてもわからない。
だったらすべての情報を参加者全員に配って、全員で相互監視をすればいいよね?という「分散型」の仕組みがブロックチェーンです。
仮想通貨のビットコインはわかりやすい例ですが、お金の取引のデータを銀行が見えないところで集中管理するのではなく、全員が同じ取引データを共有しているから、中央サーバーのようなものはないんです。
どこかがダウンしてもデータが全部失われないので安全だし、それぞれが取引に不正がないかを監視できるので、民主的で透明だよね?というのがブロックチェーンの主張です。
――ただ、つい最近も仮想通貨の大手取引所、FTXが経営破綻して、同社による資金の不正流用が明らかになりました。
岡嶋 全員が同じデータを持ち、主体的な参加者となるブロックチェーンの仕組みは、理論上、民主的で公平な社会を担保できることになっていますが、現実には誰もがブロックチェーンの「主体」として参加しているわけではありません。
自分でサーバーを用意して直接ブロックチェーンに接続するには、相応の知識や資金、設備が必要で、普通の人はまずやりませんから、仮想通貨であれば「取引所」という代行業者を通じて、間接的にビットコインを買ったり売ったりしているわけです。
だから、ブロックチェーンがいくら安全でも取引所がハッキングされたりすれば、取引していた仮想通貨がなくなってしまうかもしれない、という構造は変わらないし、結局は代行業者に依存することになる。
その結果、ひょっとしたらグーグルから権力を引っぺがせるかもしれないけれど、その権力は取引所のような代行業者に移るだけで、今度はそこに権力が集中するので、キラキラした夢の世界なんか来ないよ......というのが僕の意見です。
もちろん僕自身も、テクノロジーによって自由で民主的な社会を実現しようという理想は大事だと思います。でも、その実現をブロックチェーンという「魔法の杖」だけで実現しようというのは無理がある。すでに今ある技術を活用しながら、地道な努力を積み重ねていくしかないんだと思います。
●岡嶋裕史(おかじま・ゆうし)
1972年生まれ、東京都出身。中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了。博士(総合政策)。富士総合研究所勤務、関東学院大学経済学部准教授・情報科学センター所長を経て、現在、中央大学国際情報学部教授。『思考からの逃走』『インターネットというリアル』『今世紀最大のビジネスチャンスが1時間でわかる! メタバース見るだけノート』『メタバースとは何か ネット上の「もう一つの世界」』
■『Web3とは何か NFT、ブロックチェーン、メタバース』
光文社新書 1056円(税込)
ブロックチェーン技術によって、ITのビッグテックが支配するこれまでのような中央集権的ではない分散型のネット社会が実現する――。メタバース、NFTとともに、ネット社会の新たなバズワードとして持ち上げられている「Web3」。その根底にあるものは? Web2.0とは何が違うのか? 今のネット社会をどう変えるのか? 『メタバースとは何か』の著者が徹底解説する