耳の空いている時間をムダにしたくない人が「オーディオブック」を利用しているという耳の空いている時間をムダにしたくない人が「オーディオブック」を利用しているという

歩きスマホは危ないが、音を聴いているだけなら危険度も低くなる。そんな理由もあって、今、音声コンテンツを利用する人が増えている。特に本は知識量も多くなるので注目だ。そこで専門家たちにオーディオブックの活用法を聞いた!

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■サブスク、スキマ時間、2倍速がキーワード!

今、〝耳活〟が注目されている。耳活とはラジオやポッドキャストなど、音声だけで配信されるコンテンツから情報を得る活動のことだ。

目と耳を使う動画などは、歩きながらだと危険を伴うが、音声だけなら危険は少ない。こうした〝ながら聴き〟ができることが人気につながっている。

特に昨年の「ユーキャン新語・流行語大賞」にもノミネートされた「オーディオブック」の利用者が増えているという。

その理由をオーディオブック配信サービス『audiobook.jp』を運営する「オトバンク」の久保田裕也社長が説明する。

「私たちは2007年からサービスを開始していますが、2018年にサブスクリプション(定額制/以下、サブスク)を導入しました。すると20万人くらいだった会員数が、昨年6月の時点で250万人を超えました。この5年間で約13倍に増えたんです。

それまでは書籍と同じように1冊いくらで購入していただいていたのですが、何冊聴いても定額だということで、利用のハードルが下がったのだと思います。

また、再生時間帯で見ると、もともと朝夕の通勤時間帯と、午後10時から12時頃に聴いている人が多かったのですが、それに加えてこの数年は日中の再生時間も増えています。

これはコロナ禍で家にいることが多くなり、料理や掃除などの家事の最中や買い物、散歩などの外出時に〝ながら聴き〟をしている人が多くなったからだと思います。

私どもの調査では、生活時間帯で耳を使っていない〝耳のスキマ時間〟は一日に3.7時間あることがわかりました。そうしたスキマ時間を有効に活用したいと考える人が増えたからではないでしょうか。

あとは、ワイヤレスイヤホンの普及も後押ししていると思います。やはり、有線イヤホンやヘッドホンよりも手軽に聴くことができますから」

では、実際にオーディオブックを利用している人は、どんな使い方をしているのだろうか。キンドル作家で『audible完全マニュアル』の著書がある浅見陽輔氏に聞いた。

「私は基本は会社員ですので、通勤時によく使っています。家から最寄り駅まで歩く15分間。それから、満員電車で揺られている間。そして駅から会社まで。これで30分以上は本を聴くことができます。帰り道も同じです。

オーディオブックを聴き始めて1年くらいですが、私の読書量は格段に増えました。一日に30分から1時間ほどオーディオブックを聴いていると、ひと月だいたい3冊くらい読むことができます。

月に3冊以上本を読んでいる人は、日本人の上位4分の1に入るそうです(『現代人の読書実態調査』2009年、財団法人出版文化産業振興財団)。読書量が増えれば知識も増えるので、それを仕事に役立たせています。

もし、営業職で車を使うような人は、運転中に聴けば、さらに知識量は増えるのではないでしょうか。自分の業界に関する本や営業のテクニックに関する本などがオススメです。

それから、私の趣味は筋トレなので、トレーニング中なども聴いています。ジョギングが趣味の人は、ジョギング中などにも聴けますよね。

あとは寝るとき。寝るまで本を読む人は多いと思いますが、紙の本だと手が疲れますし、電子書籍だと目が疲れます。しかし、オーディオブックだと聴くだけなので、そういった心配がありません。

それにスリープタイマー機能を使えば、例えば30分たったら自動的に止まるという設定ができるので、知らないうちに寝てしまっても大丈夫です」

また、オーディオブックを聴くスピードは倍速が基本だと浅見氏は言う。

「オーディオブックを聴くとわかるのですが、そのままだとゆっくりとしたしゃべり方なのでちょっと遅く感じるんです。ですから、私の場合は2倍速にして聴くようにしています。2倍速でも十分理解できますし、そのぶん聴ける量も増えますから。

やはり、最近の若い人はコストパフォーマンスよりもタイムパフォーマンスを重視している傾向があると思います。見たい動画や読みたい本などがたくさんあるのに、それに追いついていない。

そんな中で、耳だけ空いている時間が割と多いことにみんな気づき始めた。そこで、耳の空いている時間をムダにしたくないと思う人がオーディオブックを利用しているんだと思います」

■サービス会社の選び方は?

では、オーディオブック配信サービスをしている会社は複数あるが、どのような会社を選べばいいのか。

「まず、サブスクをやっている会社というのは大前提です。単品購入だとどうしても割高になってしまいますから。サブスクのいいところは、作品を聴いていて『面白くない』と思ったら、違う作品にすぐに変えることができる点です。

また、サブスクの使い方のひとつとして、知りたい情報がまとまっている本を複数冊読めるということがあります。例えば、海外移住を考えているならば『海外移住』で本を検索してみる。でも、1冊読んだだけでは情報の偏りもあるでしょうから、ほかの本も読んでみる。サブスクならこうしたことが可能です。

あとは無料体験期間がある会社。オーディオブックは文字を朗読しているので、ナレーターによって聴きやすさが違ってきます。プロを使っている会社もいれば、素人のような人を使っている会社もあります。無料期間があれば、何冊か選んで聴きやすいナレーションかどうか判断できますから。

それから、例えばAさんとBさんが出てくる会話形式の本があったとします。すると『Aさん、私はこう思います』『Bさん、私はこう思います』と、『Aさん』『Bさん』まで朗読している本があるんです。

私は、そこまで読まれるとうっとうしいと感じるので、そういう作り方をしていない会社を選びます。

ちなみに、オーディオブックの2大大手は『audiobook.jp』とアマゾンが運営する『Audible(オーディブル)』です。このふたつの会社は、どちらもサブスク聴き放題をやっていますし、聴き放題の冊数も多い。無料体験期間もあるのでオススメです」(浅見氏)

前出の久保田氏は、オーディオブック配信サービス会社選びと楽しむコツを次のように話す。

「オーディオブックは、値段が高ければナレーションがうまくて作品のクオリティが高いというわけではありません。ですから、無料体験期間に聴いてどこの会社が自分に合うか判断してもらうのが一番いいと思います。

それから、オーディオブックを初めて聴く人は、ベストセラー作品だからといって大作から聴き始めないほうがいいと思います。できれば、短めの作品で慣れるようにしてください。

実は、私どもの『audiobook.jp』では、週刊誌やビジネス誌、日経新聞のニュースが聴けるサービスもあります。こうしたものだと気軽に聴けるので、最初はいいのではないでしょうか」

耳のスキマ時間を有効活用できるオーディオブック。ネットニュースを目で追うのもいいが、長時間見ているとやはり疲れてくる。また、短く断片的な情報ではなく、本ならば深い知識を得ることも可能だ。

3月3日は「オーディオブックの日」だという。新たな情報源としてオーディオブックを加えてみるのもいいかもしれない。