10年前、リーマン・ショック、東日本大震災で大打撃を受けていた日本の家電業界を応援すべく、週プレの命名により誕生した「ジェネリック家電」というジャンルは、今や3兆円規模の巨大市場に成長。
その中で、近年じわじわと勢力を伸ばしているのが「U-1000家電」、つまり1000円以下クラスの激安家電! ワンコインショップなどでは、各種デジタル家電が売り場を急速に拡大しつつある。
そして今年の新春、記念すべき第10回「ジェネリック家電製品大賞」のデジタル家電部門賞に輝いたのが、あのダイソーの「ブルートゥーススピーカー レトロタイプ」(税込み770円)だ。本体価格たった700円で充電式BTスピーカーを製品化? いったいどうやって? 本当に利益が出ているのか?
また、このスピーカー以外でもダイソーには家電まわりの"神コスパ"な製品がめじろ押し。そこで今回は、「ジェネリック家電」という造語の生みの親であり、一般社団法人ジェネリック家電推進委員会の代表理事を務める近兼拓史(ちかかね・たくし)氏が、ダイソー家電の開発キーマンだというバイヤーの松延希(まつのぶ・のぞみ)氏を直撃した!
*製品情報は『週刊プレイボーイ11号』(2月27日発売号)掲載時点のものです
*店舗に在庫がない可能性があります
■輸送費が高騰しても値上げしない秘密
――まずはジェネリック家電製品大賞のデジタル家電部門賞、おめでとうございます! ここ数年、ダイソーさんの製品は最終選考の手前まで必ず勝ち残っていました。
松延 ありがとうございます! ご評価いただき本当にうれしいです。実はダイソーでは基本的に少額商品ということもあり、家電と呼ばず「電気小物」と呼んでいます。
――電話がひっきりなしに鳴って、お忙しそうですね。多くの製品の生産拠点と思われる中国がちょうど春節のお休み期間中なので、バイヤーさんもゆっくりされているのではと思っていたんですが(*この取材は春節の真っただ中に行なわれた)。
松延 今は10月のハロウィン関連製品を準備しています。だいたい半年先に発売する製品を作っているので。
――売り場とバイヤーさんの仕事は、季節がちょうど反転しているんですね。
さて、やはり最初にお聞きしたかったのがコストの話です。コロナ禍のコンテナ不足で海運費用が急上昇し、家電メーカー各社が物流コスト増に頭を抱えていた中、ダイソーさんが値上げなしで販売し続けていたのが不思議でした。アメリカの99セントショップなども軒並み値上げしましたよね。
松延 そこは本当に大きな問題でした。もちろん長年お付き合いのある海運会社さんとの関係性から、値上がりを極力抑えてもらった部分もあるんですが、それも限度がある。
根本的な課題として取り組んだのは、商品パッケージの簡素化とダウンサイジングです。輸送費用が上がるなら、ひとつのコンテナに詰められる個数を増やそうと。そうすれば値上がり分をカバーできると考えたんですね。
――そういえば受賞製品のスピーカーも、ほぼ製品サイズぎりぎりのシンプルなパッケージでした。
松延 ええ。中身が見える包装や派手な装飾が購買意欲を高めるのに有効なことはもちろんわかっているんですが、コストとダウンサイジングのために、あえて紙パッケージにしました。
――それにしても、このスペックで770円は本当にスゴい! 最初はレトロなデザインに目が行きますが、リチウムイオンバッテリー内蔵、BT5.0対応、そして音質も柔らかい。家電専業メーカーの2000円オーバーの製品と比べても遜色ない仕上がりに脱帽でした。あれで原価率はキープできているんですか?
松延 価格設定には絶対的にこだわっています。やはり100円ショップですから、ひとつの上限として(本体価格の)"1000円の壁"があるわけです。その枠の中で、他社さんが2000円以上で販売しているレベルのクオリティは絶対欲しい。このコスパ感は譲れないこだわりですね。
ちなみに具体的な数字はお答えできませんが、社内にはきちんと原価率の規定があって、基本的にどの製品もその範囲に収まっています(笑)。
――この製品、最初の企画段階からこんなにヒットすると思っていましたか?
松延 正直驚いてます(笑)。この製品は私が企画したものではないんですが、開発担当者は「どうやらレトロブームが来そうだ」というトレンドを念頭に置いて、スピーカーなら部屋のインテリアにも合わせやすい、バエるんじゃないか、売れるんじゃないか......と、ぼんやりとは思っていたようです。
ただ、まさかここまでバズるとは。現在ダイソーで販売しているスピーカー7種類の中で断トツの売れ行きです。
――しかし当然、家電専業メーカーも必死にコストダウンをしているはずです。中国の深圳(シンセン)や義烏(イーウー)など、世界の小型家電生産の中心地には私も何度か行っていますが、他社もほぼ同じエリアで製品を作ったり仕入れたりしているはずです。それなのに、なぜダイソーさんだけがあそこまで安くできるんですか?
松延 それはどこまでお答えしていいものか......(広報担当者のほうをチラッと見る)。
広報 やはりダイソーの強みは販売力だと思います。ダイソーは国内だけで3800店舗以上、海外とグループ店舗を合わせると6000店舗以上あります。
――確かに、家電量販店は大手でも数百店規模ですから、ダイソーの圧倒的な店舗数があればこその大量生産、そしてコストダウンといわれると納得感があります。これは他社にはまねできない。
松延 そうなんです。この販売力があればこそのコストダウンだ......とお答えさせていただきます(笑)。
■ダイソー電池の性能はどんどん上がっている?
――ところで、ダイソーさんの電気関係製品で真っ先に頭に浮かぶのはアルカリ乾電池です。「長持ち世界一」を誇るパナソニックの「EVOLTA(エボルタ)」は頭ひとつ性能が上ですが、値段も1本100円以上と別格。
一方、ダイソーなら大手家電メーカー製品と比べても長持ち度が遜色ない単3、単4のアルカリ乾電池が6本110円~という価格で買える。性能とコスパのバランスを考えると、乾電池は完全にダイソーのひとり勝ちだと言っていいと思います。
松延 ありがとうございます。電池の販売量では負けないという自負はあります。
――10年前なら2本パック100円でも「安い!」と喜んでいましたから、うれしい価格破壊です。しかも、近年さらに電池の容量や保存期間が上がっている気がします。
ただパッケージを見ると、複数の製造元の製品が店頭に並んでいるようですが、なぜ1社の製品に統一しないのでしょう? 例えば「あの色のパッケージの電池は持ちがいい」とか、何か秘密があったりするんでしょうか?
松延 いえ、性能の差はないですね(笑)。パッケージが数種類あるのは、製品の安定供給のために数社から納入しているためです。
ダイソーは50年近く電池を販売し続けていますが、ありがたいことにその間、各社さんが競って性能を向上させてくださっているので、結果として電池容量や保存期間も向上している。皆さんに使っていただけばいただくほど、性能が上がるということですね(笑)。
■BTワイヤレスイヤホン1000円の衝撃
――また、スマホの充電器まわりの製品も、価格・ラインナップ共に充実度がスゴい。急な充電切れで、コンビニで2000円のモバイルバッテリーを買いながら「近くにダイソーなかったっけ?」と悔しい思いをしたことが何度もあります(笑)。
松延 例えば充電器は、用途に応じて770円の急速充電可能なUSB PD(パワーデリバリー)タイプから330円のACアダプタまで、各種取りそろえています。
――LED電球の価格破壊も衝撃でした。2010年当時、1個5000円が常識だったところにアイリスオーヤマが1980円で販売し始めた。それに驚いていたら、今度はダイソーさんが1000円以下で販売し始めた。
そして今、ダイソーさんは40W相当のLED電球を1個110円~という価格で販売していますよね。仕組みが単純で大量生産すればコスト削減が可能な製品とはいえ、驚き以外の何物でもないです。
松延 ありがとうございます(にこやか)。
――それと、最近の驚きが「完全ワイヤレスイヤホン」。BTワイヤレスイヤホンの本体価格が1000円......オーディオ専業メーカーが泣きますよ! しかも、この価格とは思えない高音質。「なんだこれは!」と考え込んでしまいました。
松延 やはり音質の部分は苦労しました。他社さんの2000~3000円クラスのBTイヤホンに比べて負けるようじゃ、「やっぱり安物はダメだ」と二度と買ってもらえなくなりますよね。高音も重低音もしっかり鳴るように、しかも価格に収まるようにと苦労しました。
――家電だけを作り続けていたら、こんな大胆なパッケージングはできない気がします。いろいろな生活雑貨も監修・製作している目の肥えたバイヤーさんだからこそ、気づくことも多いのではないかと。ちなみに、ダイソーさんでは年間どれくらいの新製品を作っているんですか?
松延 全ジャンルで年間1200製品が目標ですね。少ない月でも50製品は生み出し続けています。
――圧倒的な商品開発点数と販売量、これがダイソー家電の猛進化の秘密とみました。U-1000クラスは若い人も含め、誰でも手が届く家電の新ジャンル。次の新製品を楽しみにしています!
松延 ありがとうございます、頑張ります!