3月23日、TikTokの運営会社バイトダンスの周受資CEOはアメリカ下院の公聴会に出席。民主・共和両党の議員からフルボッコにされる事態に! その前日にはTikTok禁止に反対するインフルエンサーたちがホワイトハウス前で抗議デモを行なった 3月23日、TikTokの運営会社バイトダンスの周受資CEOはアメリカ下院の公聴会に出席。民主・共和両党の議員からフルボッコにされる事態に! その前日にはTikTok禁止に反対するインフルエンサーたちがホワイトハウス前で抗議デモを行なった

アメリカだけでなくEUでも政府関係者の利用禁止が進むTikTok。なぜ急激な規制が始まったのか? その一方、アメリカどころか各国でも人気上位のアプリは"実は中国企業が運営"というのが激増中! TikTok禁止の最新事情から人気の新中華アプリまで解説です!

* * *

■TikTokは米国でほぼ禁止になる!?

3月23日に『TikTok』を運営する中国企業、バイトダンスの周受資(チョウジチュウ)CEOがアメリカ下院の公聴会に出席。議員たちは「TikTokは中国共産党がスパイ活動に利用している!」と主張し、アプリの利用禁止を猛アピール。

このように世界的に加速する〝TikTok禁止〟の動きや、何が問題でどうしてこうなったのかを、中国のIT企業に精通するジャーナリストの高口康太さんに解説してもらいます!

――このTikTok禁止について、何が問題視されているんですか?

高口 そもそもは2020年8月に当時のトランプ大統領が〝安全保障上の問題がある〟として、TikTok禁止の大統領令を公布したことに端を発しています。これに対してバイトダンス側は差し止めを求めて提訴。そしてバイデン大統領が就任後の21年6月に、〝法的根拠が弱い〟として大統領令が撤回されました。 

――安全保障上の具体的な問題点とは?

高口 中国の法律では、政府の情報収集に協力するのは企業や市民の義務です。仮にアプリ内の個人情報が中国政府へ提供されても、その事実は非公開。こういったセキュリティ面が問題視されています。また、こういったSNSは「人為的に世論を操作できる可能性がある」という部分も危険視される理由です。

これらに対してバイトダンスは、TikTokのデータサーバを中国企業のアリババクラウドから、アメリカ企業のオラクルへ移管。これは、TikTokが集積したデータを中国企業には触らせない処置です。

2017年、バイトダンスはアメリカ進出するにあたって、当時すでに一定のファンを獲得していたショート動画アプリ「musical.ly」を買収。翌年にはmusical.lyの機能をTikTokに統合した 2017年、バイトダンスはアメリカ進出するにあたって、当時すでに一定のファンを獲得していたショート動画アプリ「musical.ly」を買収。翌年にはmusical.lyの機能をTikTokに統合した

――それでも空前のTikTok禁止ブームですよね?

高口 バイトダンスは17年に、アメリカの人気ショート動画アプリ『musical.ly』を買収。この買収が「不正が行なわれた可能性がある」として19年からアメリカの政府機関であるCFIUS(対米外国投資委員会)の調査対象となり、【musical.ly買収の無効】【TikTokの北米事業の売却】を勧告されました。

さらに、アメリカ司法省は「バイトダンスがジャーナリストの位置情報を無断で取得した」という件を問題視。これが事実と認められたのを契機に、TikTok禁止がアメリカの政府機関だけでなく、世界的に広がっているのです。

――もう、全面禁止待ったナシな状況じゃないですか!

高口 はい。バイトダンスの着地点としては、ライセンス料などの収益が発生する形での〝アメリカ企業への売却〟がベストです。しかし、中国政府は「先進的なIT技術を海外へ流出させない」と売却にクギを刺している状況です。なので、TikTokの完全消滅も十分にありえます。

■若者に人気のアプリはほぼほぼ中国製!

米中両国から串刺しというTikTokのハードモードが続く一方、実は、アメリカや世界には中国企業が運営するアプリが氾濫中だという。

高口 スマホゲームに関しては昨年の世界的な収益のベストスリーが中国企業です。

そしてアメリカでは流通総額が3兆円を超えるEC『SHEIN』に続いて、超格安のアパレル・日用品ECの『Temu』が台頭。その母体は中国の大手EC『多多』で、今年2月のスーパーボウルにTemuのCMを配信し、アメリカのダウンロードランキングでSHEINと首位を争うほど成長しました。

『SHEIN』 アメリカでの流通総額が3兆円を突破した中国発の越境EC。10代から30代の世代に特に人気で、もはやライバルはAmazonのみ! 昨年は日本でも大ブレイクして定番化 『SHEIN』 アメリカでの流通総額が3兆円を突破した中国発の越境EC。10代から30代の世代に特に人気で、もはやライバルはAmazonのみ! 昨年は日本でも大ブレイクして定番化

『Temu』 SHEINを猛追中のEC。今年2月、スーパーボウルにCMを配信して一気に知名度アップ。安かろう悪かろう路線だが、SHEINをしのぐ爆安価格で全米を超侵食する人気ECに! 『Temu』 SHEINを猛追中のEC。今年2月、スーパーボウルにCMを配信して一気に知名度アップ。安かろう悪かろう路線だが、SHEINをしのぐ爆安価格で全米を超侵食する人気ECに!

――エンタメやSNS系で人気なのは?

高口 バイトダンスの動画編集アプリ『CapCut』です。ユーザーは動画編集に使用するテンプレートを制作して公開でき、収益化もできます。TikTokやインスタとの親和性も高く、若者を中心に月間アクティブユーザーは1億人を超えました。

そしてSNSは『Lemon8』です。インスタ寄りの使用感のSNSアプリで、まずは東南アジアでブレイク。そして日本、アメリカでも勢力を拡大中です。実は、Lemon8もバイトダンスのアプリなんです。

『CapCut』 豊富なテンプレート、丁寧な解説のチュートリアルが実装され、縦横問わず動画の簡単編集が可能。月間アクティブユーザーが1億人を突破した、バイトダンスの次期主力アプリ 『CapCut』 豊富なテンプレート、丁寧な解説のチュートリアルが実装され、縦横問わず動画の簡単編集が可能。月間アクティブユーザーが1億人を突破した、バイトダンスの次期主力アプリ

『Lemon8』 ファッション、メイク、旅行、グルメなどがカテゴライズされ、そこに動画を投稿できるSNSアプリ。インスタ的な使いこなしができ、すでにZ世代を中心にブレイクしている 『Lemon8』 ファッション、メイク、旅行、グルメなどがカテゴライズされ、そこに動画を投稿できるSNSアプリ。インスタ的な使いこなしができ、すでにZ世代を中心にブレイクしている

――TikTok消滅でも、バイトダンス無双継続!

高口 さらにスラック系の統合ビジネスアプリ『Lark』もバイトダンスの運営です。

――それ、ヤクルトの村上選手がCMやってるやつ!! つーか、ビジネスアプリとかTikTok以上に流出アウトな情報だらけで、アメリカ視点だと禁止なのでは?

高口 ビジネスアプリやECは、SNSのように「人為的に世論を操作できる可能性がある」という部分がありません。一方、Lemon8やCapCutは、今後の勢い次第ではTikTokの二の舞いになりかねません。そして近年、注目されているのが〝アプリ内の中国問題〟です。

――中国製アプリとは違う?

高口 例えば、Aというアメリカ製アプリがあり、その一部に中国製プログラムを使用していたとします。このような場合、〝アプリをすべて利用禁止するのか?〟という問題です。仮にインフラや製造業のアプリを利用禁止にした場合、その機能が完全停止することになります。

――オールアメリカンでアプリ開発すればいいのでは?

高口 それは難しいです。プログラム開発の最大プラットフォーム「ギットハブ」に登録している開発者数の1位がアメリカ、2位が中国。中国抜きではアプリ開発も行なえない状況です。

一方で、今年アメリカでは政府機関と契約する企業に対し、〝使用するアプリの一覧表を提出〟させる大統領令も公布され、この内容次第で今後は〝アプリ内の中国プログラムもNG〟という事態も考えられるようになってきました。

――おじさん視点だと若者用のSNS禁止はノーダメージですけど、お仕事アプリの禁止は勘弁してくださいッ!