これ以上の進歩にはリスクも指摘されているChatGPTなどの生成AIだが、人類は果たして使いこなすことができるのだろうか? これ以上の進歩にはリスクも指摘されているChatGPTなどの生成AIだが、人類は果たして使いこなすことができるのだろうか?
対話型AI(人工知能)の「ChatGPT」があらゆる業界で話題となっている。3月29日に行なわれた衆院内閣委員会では、野党がChatGPTに作成させた質問に岸田総理が答弁するという一幕もあった。

一方で、イーロン・マスクをはじめとする起業家や科学者ら数百人が、これ以上の技術進歩が人類にとってのリスクになる可能性を指摘し、AI技術の開発を一時停止するよう求める公開書簡を公表している。果たしてChatGPTは脅威なのか希望なのか、未来予測の専門家で経営戦略コンサルタントの鈴木貴博が説く。

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オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授が「AIの導入によって日本の労働人口の49%の仕事が10~20年後になくなる」というレポートを発表したのが2015年。そこから数えれば、仕事消滅がおきると予測された2025年まであとわずかだ。

この10年間でAIは段階的に技術の壁を突破することで発展してきた。その最新の成果が「誰でも使える対話型AI」のChatGPTの出現だ。日本語版はまだ性能が追いついていないが、英語版のこの数か月での進化は目覚ましい。

なにしろ、ちょっとした調査レポートなら自動で書いてくれるし、問題解決の話相手としても論理的かつかなり完璧に相談にのってくれる。私は経営戦略コンサルタントだが、私のスキルの一部はChatGPTの方がうまくできるように感じる。

実際に最近、ChatGPTに相談してビジネスを始めた人物が話題になっている。手持ちのわずかな資金で何ができるか相談したところ「エコな商品をアフィリエイトで販売するサイトを立ち上げろ」とか「この名前のサイトドメインをまず買え」と言った具合に具体的なアドバイスが返ってきたという。面白いことにその通りに行動したらわずか数日で起業したばかりのビジネスの価値が100万円を超えたそうだ。

今、ビジネスの現場では急速にAIが使える領域が広がっている。ゲームのキャラ制作ではAIを用いることで、あっという間に10,000ものキャラクター案が産みだされるし、ITの現場では人間よりも正確にプログラムのコーディングやデバック作業をこなしてくれる。

いわゆる「頭脳労働」と言われる仕事領域のかなりの部分で、これから先、AIがわれわれの仕事を肩代わりしてくれるようになるのは間違いない。仕事が大幅にはかどるのは会社にとってはいいことだが、中で働く人間は大きな不安と混乱の渦に放り込まれるだろう。

■ChatGPTが創造する未来

ただ、AIがもたらすのはそのようなマイナスばかりではない。当然のことながら新しいテクノロジーは世界を進化させ新しいビジネスチャンスを生み出すことになる。具体的な例をひとつ挙げて未来の機会を吟味してみよう。

ChatGPTによる最大のブレークスルーは、AIとの対話が意味のある深いものになった点だ。まだ会話を入力して返事が返ってくるまでのタイムラグは若干長いが、それもすぐに改善されるだろう。

そうなるとおひとり様でもAIが話し相手になってくれる。これは友人との人間関係から暇つぶしまで日常のコミュニケーションシーンを劇的に変化させる。

そして、その話し相手にキャラという要素が加わることで新たなビジネスが生まれ始めている。モデルで女優の冨永愛さんのAIのデジタルツインが三菱地所レジデンスと広告契約を結んでいる。冨永愛さんの人間としての特徴を学習して誕生した3D-CGの双子(ツイン)の仮想人格である。

それで何ができるのかというと、従来の広告とは違って、顧客ひとりひとりにあわせて冨永愛さんが出演する10,000種類の違う広告を瞬時に生成することが可能になったのだ。

ChatGPTに、自身が人類の脅威になる可能性について質問してみたところ、「使う人々の行動に依存する」との答えが返ってきた ChatGPTに、自身が人類の脅威になる可能性について質問してみたところ、「使う人々の行動に依存する」との答えが返ってきた
彼女を生んだのはサイバーエージェントの研究組織だが、その技術にChatGPTの能力をコラボさせれば、そう遠くない未来には「話し相手になってくれるタレントのデジタルツイン」が誕生するようになる。

それはいずれ友達に囲まれて生活するよりも快適な時間を提供してくれるようになるかもしれない。

なにしろ、テレビで見かけるタレントの多くがAIアプリとしてスマホにダウンロードできるようになる。ヒマなときはAIバカリズムさんがずっと話しかけてくれるし、知らないことはAI羽鳥慎一さんが解説してくれる。朝はAI水卜麻美アナが起こしてくれるし、道を外れそうなときはAI金八先生が親身に相談に乗ってくれる世界が来るのだ。

未来のビジネスチャンスとして面白い点は、商品としての売り物が画一的ではないことだ。別にタレントではなく普通の楽しい友人キャラでもいい。

数千もの人格がユーザーの人気を争い、ひとりひとりの消費者が数十人のキャラを買いそろえるようになる。つまり新たに生まれる市場はビジネスとしての裾野が広いのである。

この例に限らず今、ChatGPTを活用したビジネスアイデアは現在進行系で世界中で無数に生まれている。そしてそのチャンスをつかんで成功できるのは、誰よりも早くChatGPTに魅入られて使い始めた、好奇心の強い人間なのかもしれない。

●鈴木貴博 
経営戦略コンサルタント、百年コンサルティング株式会社代表。東京大学工学部物理工学科卒。ボストンコンサルティンググループなどを経て2003年に独立。未来予測を専門とするフューチャリストとしても活動。近著に『日本経済 復活の書 ―2040年、世界一になる未来を予言する』 (PHPビジネス新書)