坂口孝則さんがゼロから(元ネタなしで)Stable Diffusionに生成させた画像 坂口孝則さんがゼロから(元ネタなしで)Stable Diffusionに生成させた画像
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「生成系AI」について。

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第一子が生まれた喜びに近かった。以前から話題の「StableDiffusion(ステイブル・デイフュージョン)」で人物を生成してみた。いわゆる画像生成AIで、イラストからアニメ、風景画、人物まで指示通りに描いてくれるのだが、それにしてもネットに載っているほど簡単ではない。

私のPCでは満足に動かず、ブラウザから稼働できるようGoogle Colaboratoryにインストールしても、エラーが出た。また、与える指示=プロンプトは「呪文」と呼ばれるが、その不備でなかなか人間が出てこず、試行錯誤に時間がかかった。しかし動かせるようになると面白い。男性会社員から清純派アイドル、グラビア風写真まで作成できた。

ところで、人間っぽい写真が描画できて何が楽しいのか。Instagramには水着の女性の写真があふれているのに。実は理由があった。

私は本業がコンサルタントで、たまにセミナー講師を請け負う。中年のうちはいいが、シニアになるとお客が離れると聞いた。加齢しすぎて現場の実態がわからなくなると集客できないのはわかるが、セミナー会社いわく、内容が同じでも、高齢の講師の話は時代にキャッチアップしていない気がして受講生が聴く気になれないらしい。「おじいさんの話なんて聴きたくないでしょう」。ガーン。加齢は私の確実な未来だ。私が言いたいことをAIに話させる準備をすべきではないかと感じた。

既存の写真をもとにアバターを作ったり、そのアバターに話させたりする技術はすでにある。話す姿は完全に本物そっくり......とまではいかないものの、「D-ID」というサービスなどは本人に近く、かなりいい線だ。数年後にはビジネスの実用に耐える程度まで技術が進化するだろう。

ところで、伝説のエンジニアであるスティーブ・ウォズニアック氏や、「ChatGPT」で有名になったOpenAIの設立に参加したイーロン・マスク氏らが、生成系のAI技術などの急速な進化を懸念し、少なくとも半年ほど開発を停止するよう呼びかけた。

すでにOpenAIを抜けているマスク氏はライバル会社を設立予定と報じられているし、半年止めることになんの意味があるのかと訝(いぶか)しむ向きが多い。

しかし、原文を読むとだいぶ印象が変わる。人工知能が社会に何をもたらすか検討したり監視したりする公的な機関を作れ、と前向きな提案をしている。

技術はエロで進化する。ネットにはAIで作った美女コスプレイヤーやあられもない姿の女性があふれている。そのうちAIを使ったAVなどが登場するだろう。いや、すでに誰かが作っていると思う。これはAV出演強要の被害者を減らすかもしれない。ただ、テックジャイアントがそのような動画生成を許すだろうか。株価にも影響を及ぼすはずだ。

例えば、完全に架空の生成映像ならともかく、元ネタがあれば、流布された場合に被害者が出る。じゃあ個人利用はどうか? 架空ならさまざまな表現はどこまで許される? 自らの意思で性産業で働くひとびとの雇用に与える影響は? グラビアアイドルが自分の写真をもとに、他ポーズを量産したら? 整形した顔と生成系AIは究極的に何が違うのか?

まさに社会的なコンセンサス、基準が求められる。あっ、逆説的に人間味あふれる、おじいさん講師が人気の時代が来るのかな。

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