各種アプリやゲームはもちろん、スマホやドローンなどなど、今や日常生活でも中国発のIT関連モノがマストアイテムに。そんな中、あまり情報が伝わってこないのが中国最新のAI事情。
現在、世界的には「ChatGPT」をはじめとする対話型、「Midjourney」に代表される画像生成型のAIが空前の大ブーム。圧倒的なIT力を誇る中国ではどのようなAIが登場しているのか?
中国の最新AIネタを、中国のIT事情に精通するジャーナリストの高口康太さんに解説してもらいますっ!
■ChatGPTは中国語も堪能!
――まず、お聞きしたいのはChatGPTについて。日本でもお昼の情報番組で特集されるほど、世代を超えたトピックスに! これ、中国でもブレイク中なんですか?
高口 中国では"非公式ブレイク"といった状態です。
――え!?
高口 ChatGPTは中国ではアカウントを作ることができません。なので、国外在住の中国人による、中国本土向けの"登録代行"や"アカウント転売"が行なわれています。
しかし、転売されたアカウントが使えないといったトラブルが多発し、大手ECではChatGPT関連の出品が禁止となる騒ぎが起きました。そんな中で、ChatGPTを利用した事件も発生しました。
――いったい何が?
高口 浙江(せっこう)省の杭州(ハンジョウ)市では慢性的な交通渋滞解消のため、ナンバープレートの種類によって走行禁止エリアを設けています。この走行禁止エリアを【来月より撤廃する】という内容の行政発表がSNSで拡散されました。
実はこれ、ChatGPTに生成させたフェイクニュースだったのです。通常、この手のフェイクニュースはスルーされますが、今回の場合は中国の行政機関や共産党がいかにも使いそうな四字熟語や言い回しを交えた文言が生成されたことで、誰もが"本物"だと信じて拡散されてしまったのです。
これにより一般市民レベルで、中国語も堪能なChatGPTをはじめとする生成AIがバズりました。ちなみに、偽行政発表を生成させたユーザーは「本物っぽい行政発表ができるか試しただけ」と言い訳していました(笑)。
――認知度が爆上がりの生成AIに対する、中国IT企業の注目度は?
高口 バブル状態です。アリババ、百度(バイドウ)、テンセント、シャオアイスなど超大手のIT企業が続々とChatGPTタイプのAIの開発を発表。すでに今春にはアリババと百度は新AIを発表しています。でも、中国的には実は2回目のAIブームなのです。
――1回目はどんなブームだったんですか?
高口 1回目は2015年にグーグル傘下企業のAIがプロ囲碁棋士を破ったのがきっかけでした。これによりAIを活用した顔認証をはじめとする各種防犯システムが注目され、AI開発ブームとなりました。
それこそ、マンションからの落下物を検知するシステムや、コンピューターと接続されたカメラが"街中の犯罪者を見つける"といったものまで開発され、なんでもAI推し状態。
当時、AIの先端技術はアメリカに集中していましたが、その主要エンジニアは中国人や中国系が多く、彼らを高給で中国企業に移籍させて開発を進めました。そしてAI関連の論文数はアメリカを追い抜くほど技術的に成長したのです。ただ、問題が発生しました。
――どんな問題ですか?
高口 AIまったく儲からない問題です(笑)。
――結局、金かよッ!
高口 AI開発は金がかかる割に防犯以外の使い道がなく、"収益化"が難しいとなってブームは終了。それこそ、ChatGPTのような対話型も"大喜利専用"という認識です。そんな中、昨年末からのChatGPTの世界的ブレイクで、「そーいえば、うちもAI強いでしょ!」と再び本気モードの爆速開発を行なっているのです。
■ビジネス用途最強の中国AI!
――では、春に発表された中国企業のAIはどんなスペックなんでしょうか?
高口 アリババの「通義千問(トンイーチェンウェン)」は文章、画像、アプリなどの生成機能が搭載された新AIです。
通義千問は海外で言うところの『Microsoft 365』や『グーグル ワークスペース』のようなビジネス系の有料グループウエアである『ディントーク』に実装され、今後は動画配信やECにも各種生成機能が実装される予定です。
このような有能AIが登場して、中国の大手広告代理店は各種資料作成の外注停止を発表しています。もう、文章やその関連イラストなどはAI任せでイケるという判断になってきました。
――アプリまで生成できるとか圧倒的じゃないですか!
高口 現状、ビジネス用途に絞ったことで、ChatGPTのようなフェイクニュース問題が発生するリスクも低く、何より収益化もちゃんとできる仕様になっています。
――これは各種問題を回避した有能仕様!
高口 そしてChatGPTに近いAIとして、百度の「アーニーボット」があります。こちらはチャットでの文章や画像生成が可能です。
――こっちは大喜利仕様の香りがぷんぷんしますね!
高口 私が「孫正義」を、お題にして画像生成をお願いしたところ、何を勘違いしたのか"謎の三国志風武将"を完成させました(笑)。さらに「安倍晋三」について解説を求めると、【思いつきません】と素っ気ない回答です。
――中国国内以外の話題だと、まだまだな雰囲気アリですね。
高口 共産党に関するセンシティブな質問には、【私はAIなので、そのような事柄は存じておりません】と丁寧に即答してくれました(笑)。中国政府的には、安全安心仕様のAIに仕上がっています。
――これは海外での活躍は厳しいかとッ!
高口 はい(笑)。ほかには対話型のAIを実装されたバーチャルヒューマンも爆速で進化しています。これまでも実在する人物をバーチャルヒューマン化していましたが、シャオアイス社の新システムは3分のスマホ撮影でバーチャルヒューマンが完成。もちろん、対話型のAIも実装されています。
――これ、完全に人じゃん! ところで、中国AIのスペックが急上昇すると、アメリカに規制されるというお約束パターン発動なのでは?
高口 すでに規制されています(笑)。ChatGPTのようなAIを運用するにはビッグデータを統括できる巨大なクラウド、それらを処理するGPUのふたつがマストです。現在、クラウドに関してはアリババや百度、テンセントなどの中国企業が世界的に大きなシェアを誇っています。
ところが、GPUとなると、アメリカのエヌビディア社の製品一択という状況で、同社製の最新モデル「H100」はすでに対中輸出禁止製品にリスト入りしています。なので、今後の開発は厳しくなりますね。
――中国政府によるAIの規制もあったりする?
高口 「生成AIサービス管理法」が施行予定です。草案には【AIが生成したコンテンツは社会主義の核心価値観を体現したものにする】【AIが生成したコンテンツは真実かつ正確でなければならない】などがあります。そして違反した場合は【3ヵ月以内にAIを訓練し直して対応する】となっており、大喜利用途は不可な内容です。
――では、有能スペックだけど、諸問題アリアリの中国AIが生き残る最適解は?
高口 対話型AIだと自由度の面でChatGPTにはかないません。ただ、『TikTok』や各種ゲームに画像や動画の生成機能が実装されれば、そのライセンス収益だけでも膨大なものになります。
このようなエンタメ特化型での活用法を模索しつつ、低スペックのGPUでも開発できる環境を実現することでしょう。
――とりあえずは、エンタメ用途での中国AIの大躍進に期待です!