OpenAIが開発したChatGPT。わずか2ヵ月と史上最速でアクティブユーザー数が1億人を突破したOpenAIが開発したChatGPT。わずか2ヵ月と史上最速でアクティブユーザー数が1億人を突破した

少し前に爆発的に盛り上がり、そして人知れず下火となった「AI失業論」が再びを熱気を帯び始めた! だが、その真実味を探るのに欠かせないのはミクロな視点。そこでAIの専門家だけでなく、労働現場に精通するジャーナリストにも取材。あおりゼロのリアルな予測がこれだ!

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■AI失業論、どこまでホント?

2014年前後のAIブームは、異様な熱気を帯びていた。当時はマイケル・オズボーン教授の「10~20年後、雇用の47%がAIに奪われる」という言説がまことしやかに語られていたわけだが、約10年を経た今、実際にはそこまでの失業を生むことはなかった。

しかし、である。ChatGPTをはじめとする生成AIは作文や画像作成をかなりの精度でこなすことができ、従来のAIとは一線を画すといわれる。こうした背景から、ChatGPTの開発元であるOpenAIは「8割の労働者に影響がある」と発表し、AI失業論が再び盛り上がりを見せているのだ。

その現実味を追うべく、まずはAIの急激な進化について、東京大学・松尾 豊研究室発のAIスタートアップ、ELYZAの曽根岡侑也(そねおか・ゆうや)CEOに解説してもらった。

「少し前までは言葉を扱うAIは使い物にならなかったのですが、5年ほど前に登場した『大規模言語モデル』という事前に言語を学習させる技術で一気に変わりました。あらかじめAIに言語を学ばせることで、ほんの少しのデータを与えるだけでも人間のような自然な文章を作れるようになったのです。

例えばChatGPTに文章の要約を頼むと見事にやってくれますが、5年前に同じことをやらせようとしたところで、数万パターンの要約を用意しても使いものにはなりませんでした。大規模言語モデルによって、AIの能力は飛躍的に上がり始めたんです」

曽根岡氏はAIによる仕事への影響を危惧する。

「特に大規模言語モデルの影響を受けるのは、文章を扱うホワイトカラーの人々。OpenAIの研究でも、金融機関や保険会社、弁護士など、給与が高く、高学歴の人が就く職業ほど影響を受けると言っています。実際、GPT-4は弁護士になるための司法試験の模試で上位10%に入る成績を取りました」

一方で曽根岡氏は、巷(ちまた)の議論は少し単純化されすぎているとも指摘する。

「よく『どの職業なら生き残れそうか』と職業単位で語られますが、ひとつの職業は細かいタスクの集合体なので、『どの業務ならAIに頼めるか』という視点で議論したほうがいいと思いますね。

AIは最後に人間がチェックする類いのタスクに向くので、ブレーンストーミングや文書、資料のたたき台作り、要約などには優位性を発揮するでしょう。

一方、平気でウソをついてしまうので、リサーチなどで使う際には注意が必要です。ただ、AIによって社会全体がどう変わるかは、私たちAIの専門家ではよくわからないのが現状ですね」

■仕事単位ではなくタスク単位で考える

労働現場への取材を続けるジャーナリストで、著書に『10年後に食える仕事 食えない仕事』(東洋経済新報社)などがある渡邉正裕(わたなべ・まさひろ)氏は、失業リスクは恐れるほどではないという。

「ホワイトカラーがAIの影響を避けられないのは間違いないのですが、話はそう単純ではないと思います。というのも、AIが代われるタスクはいっぱいありますが、現実の仕事は複雑で、特定のタスクだけで成り立っていることはまずないからです。

例えば、会議の議事録作りはAIに任せられるかもしれないけれど、議事録だけとっている社員なんていませんよね」

渡邉氏によると、AIに奪われやすい仕事は、頭脳労働で、かつ人よりも機械が強いジャンルだという。ということは、その反対の仕事が奪われにくいということになる。

同氏の見解に基づき、ある仕事がどれだけAIに奪われやすいかを5段階で評価してもらった。やはり奪われにくいのは、介護職や作業員などの肉体を使う仕事だ。

渡邉正裕氏の取材を基に編集部が作成。「仕事が代替されるか否か」の数値なので、業務にAIが活用できるかはまた別の話。例えばライターなら構成や企画をAIに任せることで生産性が上がるので、代替される可能性は低くなっている。また、例えばひと口に「営業マン」といっても、ルート営業と提案型営業では事情が異なる。数値はあくまで参考値としてご覧ください渡邉正裕氏の取材を基に編集部が作成。「仕事が代替されるか否か」の数値なので、業務にAIが活用できるかはまた別の話。例えばライターなら構成や企画をAIに任せることで生産性が上がるので、代替される可能性は低くなっている。また、例えばひと口に「営業マン」といっても、ルート営業と提案型営業では事情が異なる。数値はあくまで参考値としてご覧ください

「頭脳労働ではなく身体を必要とする仕事は、AIの脅威とはほぼ無縁です。もちろんガスの検針員やレストランの配膳係など、ロボットで代替できる仕事は減っていきますが、完全な機械化が難しい看護師や美容師、タクシードライバーの仕事は残るでしょう。客との対話や臨機応変な対応はAIには難しいからです」

より具体的には、

・人間が作業することに、客が価値を感じる仕事(客と接する仕事全般)

・おもてなし系サービス業、職人(ホテルマンや料理人など)

・臨機応変な対応が必要(警察、介護福祉士、CAなど)

・同時進行の作業が多く機械化が困難(大半の肉体労働)

といった仕事はAIでは代替できない。

他方、AIを生かすことで労働の質をより上げられる職種もある。その筆頭が、提案型の営業職だ。

ルート営業やローラー営業と違って、営業先の課題や潜在ニーズをとらえ、適切な提案を行なう際にはAIが役立つ。例えば財務情報を与えて、「想定しうる課題を10個挙げて」といった注文はAIが得意とするところだからだ。

また、コンサルタントなら論点の整理や資料作りをAIに任せて生産性を上げられるし、作家やコピーライターならアイデアをChatGPTに出させる、といった使い方もできる。AIをうまく使うことで付加価値がつけられる、裏を返せば他者と差がつく職種はかなり多いのだ。

では逆に、AIに代替される可能性が高い仕事はなんだろうか? その代表例が、SEO(検索エンジン最適化)記事を書くウェブライターだろう。

AIの脅威にさらされる仕事の特徴は「人間を相手にせず、単純作業のみをひたすら繰り返す」(渡邉氏)が挙げられるが、取材をせず記事を書くウェブライターはまさに当てはまるからだ。

フリーでウェブメディアのディレクターをしている30代の男性はこう語る。

「SEO記事は盛り込むべきキーワードや推奨されるフォーマットがはっきり決まっているため、AIに書かせやすい。私はライターさんに原稿を発注することが多いのですが、正直ChatGPTのほうが作業も速いし文章もうまいので、恐らく今後SEO記事を得意とするウェブライターは一掃されると思いますよ。

これまでもライターさんに執筆依頼をする際にもかなり細かいところまで指示を出していたので、ChatGPTの指示文を考える手間はあまり気になりません」

■人間がヒマになることはない

とはいえ、よく考えると人間とコミュニケーションを取らず単純作業のみで完結する仕事は極めて少ないわけで、先のウェブライターの事例は全体から見れば少数だろう。

また、「そういうウェブライターはお小遣い稼ぎに片手間でやっている人も多く、ほかに仕事を見つけるはず」(前出のウェブメディアディレクター)ということもあり、社会に与える影響はさほど大きくないかもしれない。

「同様に、税理士の帳簿作成や、放射線科医がレントゲンを見て病態を診断する読影などは対人コミュニケーションが不要なので、AIに取って代わられるでしょう。ただ、これらはあくまでタスクであって、仕事の全体ではありませんから、丸ごとAIに奪われるとは限りません」(渡邉氏)

一方、ホワイトカラーのうち、経理や秘書、事務職などはAI化されてしまうリスクが高い。ただし、AIの浸透は必ずしも、そういう人々が行き場を失うことを意味するわけではないという。AIによって新しい仕事が増える可能性も十分あるためだ。

「例えば、弁護士のタスクはAIでもやれるものが多いので、そこだけ見るとAIは脅威です。でも、考えてもみてください。弁護士がタスクをAIに任せるようになると案件相談の相場が下がり、弁護士に依頼するハードルが低くなりますよね。すると仕事の総量が増えますから、弁護士はむしろ忙しくなるかもしれない。

このようにAIが市場を広げる現象は医療などさまざまな分野で見られるでしょうし、『AIを管理する仕事』のように新しい職業も生まれます。要するに、幸か不幸かはともかく、人間がヒマになることはないんです」

渡邉氏は、AIの活用によって企業の収益が増える可能性が高いとも言う。

「AIは人を使うより安上がりですから、企業は儲かります。すると、賃金も上がるかもしれません。これからの日本は労働人口が急激に減りますから、仕事にも就きやすくなるかも。

ともかく、日本に関しては、AIによる失業リスクは騒がれているほど大きくないと思います。それよりも、AIを使いこなせるかどうかで差がついてしまう心配をしたほうがいいでしょう」

■みんなAIをどう使っている?

ここからは、タスクごとにAI利用の実態を見ていこう。

なお、『週刊プレイボーイ』本誌が500人を対象に実施したアンケートでは、4人中3人は仕事でAIを「まったく活用していない」と回答。AIを「とても活用している」と答えた人はわずか4.2%にとどまった。急激な進歩に目を奪われるが、実際に利用している人はまだごく一部のようだ。

なお、活用している業界は情報通信業が最も多く、次いで金融系が多かった。

生成AIを積極的に活用している人は全体の1割余りにとどまった。最も多かったのはリサーチ。ただしChatGPTは事実と異なる回答をする場合があるので、リサーチに使う際は要注意生成AIを積極的に活用している人は全体の1割余りにとどまった。最も多かったのはリサーチ。ただしChatGPTは事実と異なる回答をする場合があるので、リサーチに使う際は要注意

まずは、「生成AIを仕事に活用する」と答えた人のうち、25%が利用しているというプログラミング。プログラマーの30代男性は、AIによって圧倒的に効率化できただけではなく、業務の質まで上がったと語る。

「あるサービスを作りたいときに、経験がないタイプのものでもChatGPTにテンプレートを作らせるとすごくスムーズに開発ができました。作業効率の面もそうですが、大きいのは脳のリソースを節約できる点。おかげで仕事のスピードは体感で7、8倍も上がりました。

初めて触れるジャンルに対する腰の重さもなくなるので、業務の幅も広げられそうです」

このほか、「書いたコードを送るとエラーを直してくれるので、疲れたときに頼っている」(データアナリスト、20代男性)などの声もあった。

続いては、18%が使っているというアイデア出し。東京都でITコンサルティング業を営む30代男性はこう言う。

「今はまだいろいろと試している最中ですが、主に仕事の相談やアイデア出しの相手になってもらっています。クライアントの課題について整理してもらったり、どうすべきか意見を聞いたり。今後はさまざまなアプリと連携させて、1年ほどかけて私の仕事を丸ごとChatGPTに任せられる体制を作ろうと思っています」

ChatGPTを活用している人々が口をそろえて語ったのは、「自分の仕事が丸々代替されるとは思わず、むしろ本質的な仕事に集中できるようになった」ということだ。前出のウェブメディアのディレクターはこう言う。

「ウェブ記事をたくさん作っている僕が言うのも変ですが、たくさんクリックされることだけを目標にしたウェブの文章作りってむなしいんですよ。検索に引っかかりやすい文言や特定の商品に誘導するためのストーリーなどを機械的に組み合わせるだけで、全然創造性を生かす余地がないんです。

逆に、AIは人に会ってインタビューすることができませんが、こういう仕事のほうが本質的だと感じます。記事作成という仕事に限らず、人間にしかできない業務に集中できるのは歓迎すべきではないでしょうか」

強い危機感を覚えている人は2割弱と、意外と楽観的な結果に。まったく代替されないと感じる人も4割弱に上った強い危機感を覚えている人は2割弱と、意外と楽観的な結果に。まったく代替されないと感じる人も4割弱に上った

AIは人間に取って代わる存在ではなく、あくまでエクセルやワードのような便利ツール。過剰に恐れないようにしつつ、自分の仕事内容を見直して、AIに頼めない業務のスキルを磨いていくのがよさそうだ。