友達とのやりとりから、レストランの検索、闇バイトの応募までインスタが主流に友達とのやりとりから、レストランの検索、闇バイトの応募までインスタが主流に

10代が手を染めるニュースが後を絶たない「闇バイト」。逮捕者も出ており社会問題化しているが、どのように若者が集められているのか。どうして怪しい誘いに乗ってしまうのか。SNSと若者の関係性を調べていったら、10代が闇バイトに巻き込まれているその理由が見えてきた――。

■ほかのアプリを開く必要がない

若者が「闇バイト」で逮捕される事例が相次いでいる。その多くは20歳前後で、10代の逮捕者も少なくない。彼らのほとんどはSNSを通じて闇バイトに応募したと語るが、今や全世代がSNSをやっているのにもかかわらず、なぜこうした事件に関与するのは若者ばかりなのか。今の若者とSNSの関係とは?

「今の10代はスマホネイティブ世代で、小学生の頃からスマホを持っていたという人も珍しくなく、中学生の頃にはもう持っていたという人が大半なんです」

そう話すのは10代のネット利用に詳しいITジャーナリストで成蹊大学客員教授の高橋暁子(あきこ)氏だ。2018年度にNTTドコモモバイル社会研究所が行なった調査によると、当時の小学4~6年生のスマホ所有率は17%で、中学生のスマホ所有率は59%。ちなみに、22年度にはそれぞれ37%と76%に増加している。そんな彼らのSNS事情は?

「買い与えられた際に、家族との連絡用としてLINEをインストールします。大人にとってのメールアドレスや電話番号のようなもので、皆持っている。10代の間でも利用率はほぼ100%です。小中学生の間、友人との連絡はLINEで事足りるのですが、高校生になると一気にInstagram(以下、インスタ)が主流になります」

総務省情報通信政策研究所が21年に行なった調査によると、インスタの利用率が最も高いのは20代で78.6%が利用していると回答したが、次に高いのは10代で72.3%だった。30代が57.1%、40代が50.3%であることからも、若者の利用率の高さがわかる。

「新入生が半数を占める大学の講義で『コミュニケーションで最も利用しているSNSはなんですか?』とアンケートを取ったところ、インスタの利用者が圧倒的に多かったんです。

多くの学生にとって、LINEは家族との連絡用アプリと化しています。あとは、バイト先の店長とのシフトのやりとりなど、同年代というよりも年上の人との連絡に使われているようです」

Instagramは、2010年にリリースされた写真共有SNS。その後、ストーリーズやライブ配信、通話機能なども追加され、若年層を中心に世界で10億人以上が利用している。2012年にFacebookによって買収され、現在はMeta(旧Facebook)の傘下にあるInstagramは、2010年にリリースされた写真共有SNS。その後、ストーリーズやライブ配信、通話機能なども追加され、若年層を中心に世界で10億人以上が利用している。2012年にFacebookによって買収され、現在はMeta(旧Facebook)の傘下にある

では、インスタはどのように使われているのか?

「インスタのメインとなる機能は写真や動画の投稿です。なんとなく"キラキラな投稿をするアプリ"というイメージがあると思いますが、実は主に使われるのは"ストーリーズ"という機能なんです」

ストーリーズとは24時間で自動的に消去される投稿ができる機能。半永久的に残る投稿で共有するほどでもない、日常の瞬間をシェアする場としてメインの機能となりつつある。

「また、インスタの特徴はDMに直結できること。例えば、ストーリーズで友人たちがリアルタイムで、どこで何をしているのかを見て、コメントを送ったり、遊びに誘ったりがアプリ上でできるのです。

つまり、LINEをわざわざ開く必要がなく完結できちゃう。大人でも、LINEだけつながっていて電話番号やメールアドレスは知らないという知人がいたりしますよね。若者の間ではそれが、LINEからインスタになっているってだけです」

利用アプリの世代差は、当然、見ているものの世代差にもつながる。

「同じ講義で、ニュースサイトやニュースアプリを見るかアンケートを取ったところ、LINE NEWSもYahoo!ニュースも3割程度。自身のSNSに流れてくるニュースだけを見ているという人が多いんです。

ニュースサイトでさえ、自分の興味ある情報しか見ないじゃないですか。クリックしないと詳細もわからないし。でも、若者はもっと顕著。SNSに流れてくるのは友人がシェアしたものが中心ですから、本当に限られた情報しか得ていないんです」

■Googleにも勝る信頼度の高さ

私生活をシェアしたり、メッセージのやりとりをしたり、インスタはひとつのアプリにしては十分すぎる多機能ぶりだが、もうひとつ重要な要素がある。

「インスタは若者にとって"信頼度の高い検索エンジン"でもあるんです。もちろんGoogleなども利用しますが、それは言葉の意味など、知りたいことが明確なとき。

例えば、近くでおいしくて人気のあるレストランを調べるとなったときに、大人はGoogleなどで検索して、ヒットした『食べログ』や『ぐるなび』などのウェブサイトを閲覧すると思いますが、若者はインスタを活用するんです。

インスタは地名で検索すれば、ハッシュタグでその地域の人気のお店がわかりますし、各店舗の内装や人気メニューもビジュアルで一覧できる。インスタに電話番号を載せている飲食店も多いので予約もできる上、現在地からの道順も出てくるので、ほかのアプリを立ち上げる必要はありません。

ビジュアルで見るほうが、テキスト情報の多いGoogleよりも使い勝手がいいんです。検索エンジンとして信頼度が高いので、バイトの情報などもインスタで検索するんです」

10代のユーザーにも副業やアルバイトに誘うDMが届く。闇バイトにつながるものもあるというが、インスタでアルバイトを探す人は珍しくなく、利用者によっては警戒心が薄い場合も10代のユーザーにも副業やアルバイトに誘うDMが届く。闇バイトにつながるものもあるというが、インスタでアルバイトを探す人は珍しくなく、利用者によっては警戒心が薄い場合も

そこを狙ったのが闇バイトだ。

「先述したように、ニュースを見ている人が限られているので、闇バイトのニュースを知らないという人も中にはいます。そのため、高収入に目がくらんで飛び込んじゃう。

インスタで怪しいバイトのハッシュタグを調べたりすると、『口座なしでも大丈夫』という文句も出てくるんです。これってつまり親に言わなくても、バイト禁止の高校でもできる、ということです。

今だとPayPayなどの、個人間送金ができるキャッシュレス決済アプリもありますから、親にも知られずにスマホの中だけで完結できちゃう。この世代は、中高生の頃からフリマアプリでお小遣い稼ぎしているという人も少なくありません。スマホでお金を儲けることへの警戒心も薄いんですよ」

10代のインフラになりつつあるインスタ。信頼度が高いからこそ、注意も必要だ。