8月8日はタコの日! 今こそ、タコを見直そう!8月8日はタコの日! 今こそ、タコを見直そう!

「このタコ!」なんてののしり言葉もあるけどみんな、タコのことをナメちゃいないかい!?

タコと人類ははるか昔に祖先が分岐したかなり遠い種なのに、人間に負けないくらい賢いことが最新の研究で次々と判明し、動物研究者だけでなく、哲学者などからも注目を集めているんだとか。タコの日(8月8日)の今こそ、タコを見直そう!

■ヒトと程遠い種なのにヒトみたいに賢い!

タコは、われわれヒトとは極めて遠い種だ。進化の歴史で、ヒトとチンパンジーとの共通の祖先が分かれたのは約500万年前だが、ヒトとタコは系統的にかけ離れており、共通の祖先をたどるのは難しい。

遠い昔からタコは別の環境で進化してきたわけだが、実は高度な知性を持っていることがわかってきた。

タコの知性は、ヒトに近いチンパンジーやゴリラの知性とはワケが違う。なぜなら、タコはヒトとはまったく別の経路で進化してきたからだ。つまりこれは、われわれ霊長類とは別に、独立して知性を手に入れたことを意味する。

日本を代表するタコの研究者であり、近刊に『タコのはなし』(成山[せいざん]堂書店)がある池田譲(ゆずる)先生に話を聞きながら、最新の知見を踏まえた雑学をタコの足の数だけお届け!(ちなみに、生物学的には足じゃなくて腕らしいです)

池田 譲先生池田 譲先生

まずは、タコの学習能力の高さについて。

「例えばガラス瓶にマダコの好物であるカニを入れてコルクでふたをし、マダコに見せると、短い試行錯誤でふたを開けてカニを手に入れます。マダコがすむ環境にガラス瓶はないですから、初めて見た課題をしっかり理解し、解決できるということです」

池田先生によると、この行動は学習の一種だが、もっと高度な学習もできるという。

「マダコは、別の個体の行動を見るだけで学習することもあります。これは『観察学習』と呼ばれる高度な行動で、チンパンジーでも難しいのですが、マダコやイイダコにはできるんです。無脊椎動物で観察学習が確認されているのはタコだけです」

道具を使うことが確認されている動物はヒトを含め、いくつかの霊長類や鳥類などごくわずかだが、タコもそこに含まれるという。

「2009年の論文では、メジロダコというタコが道具を使うことが示されました。彼らは貝殻やココナツの殻を、身を守るシェルターとして使っていたんです。

貝殻の場合は2枚使って体を隠し、もっと大きいココナツの殻では盾のように身を守ります。ほかにも、マダコが自分の巣に石や砂を運ぶ様子が観察されたこともあります」

しかもメジロダコは、お気に入りの道具を持ち運ぶこともあるんだとか。

タコが道具を使う事例はいくつか報告されている。写真は、貝殻をシェルター代わりに使うメジロダコタコが道具を使う事例はいくつか報告されている。写真は、貝殻をシェルター代わりに使うメジロダコ

8本もの"足"を持つタコだが、二足歩行をすることがある。

「長時間の二足歩行は人間しかやらないのですが、いくつかのタコは二足で『歩く』様子が観察されています。どうも天敵の目を避けてそっと移動するための手段らしいのですが、真意はわかりません」

「タコは、ヒトとよく似た精緻な目を持っており、われわれと同様に視覚に頼って生活しています。その上、ヒトの目に存在する、モノが見えない『盲点』もありません」

ただし、ヒトのように色を見分けることはできず、明るさやコントラストしか知覚できないそうだ。

これだけ賢いのだから、案の定、脳はとても大きい。

「脊椎を持たない動物としては例外的に、タコの脳は体に対してとても大きいのが特徴です。体重に対する脳の重量を見ると、タコの脳の大きさは脊椎動物のうち高等とされる哺乳類や鳥類と、下等とされる魚類や爬虫(はちゅう)類の中間に位置します」

タコはヒトと同じように脳を使って試行錯誤をしたり、道具の使い方を考えたりしているのだが、大きな違いもある。それは、8本ある腕で「考えている」点だ。

「タコの腕には刺激を受け取る細胞がたくさんあり、また、情報を伝える神経細胞の数は、脳よりも腕のほうが多い。タコの腕は単なる腕ではなく、非常に敏感なセンサーでもあるということです。

それだけではなく、それぞれの腕のつけ根には『腕間交連(わんかんこうれん)』という神経が交差する所があり、脳とは別にここでも情報処理をしているようです。これを小さな脳だと考える研究者もいるくらいです」

タコに認知課題を解かせている様子。タコは視覚のほかに触覚も頼りにして周囲を認知していることがわかってきている(撮影/川島菫)タコに認知課題を解かせている様子。タコは視覚のほかに触覚も頼りにして周囲を認知していることがわかってきている(撮影/川島菫)

つまり、ヒトのように脳で一括して情報を処理するのではなく、腕が独立して情報処理をすることもあるということだ。池田先生は、前者を中央集権スタイル、後者を地方自治スタイルにたとえる。情報の処理体制が根本的に違うのだ。

長らく一匹狼だと思われてきたタコだが、つい最近の研究により、社会性があることがわかってきた。

「いくつかの種のタコで、同種のタコが複数個体、同じ場所で過ごすのが観察されています。例えばオーストラリアの海では、タコが集めた貝殻の下にある穴で数個体が一緒に暮らし、交接したりケンカしたりするのが観察されている。そのような巣を『オクトポリス』(タコ都市)と呼ぶ研究者もいます」

オクトポリスでのタコは、ちょっかいを出し合ったり、腕を伸ばしてほかの個体に触れるのが観察されている。タコにもコミュニケーションがあるのだ。

「2018年には、やはり単独性だと思われていたカリフォルニアツースポットタコに麻薬のMDMAを与えると社交的になる、という衝撃的な論文も発表されました。この研究は、普段は単独で過ごすカリフォルニアツースポットタコにも、脳内には社会性を保つための神経基盤が残っていることを示しています」

タコもハイになると友達が欲しくなるのだろうか?

「社会性とも関わるのですが、タコは、体の色やパターンをコミュニケーションに使っている可能性があります。タコは体色を変えられるのですが、これは捕食者から身を隠す擬態のほかに、同種個体とのコミュニケーションにも使われているようなのです。

例えばシドニーダコは胴にある外套(がいとう)膜を立てて自分を大きく見せながら体色を暗くすることがあるのですが、これは威嚇です」

タコの体色には、ヒトの言語や、あるいは表情のような機能があるのかもしれない。

「これはまだまだ研究を続けている最中ですが、もしかすると、タコは『鏡像自己認知』ができるかもしれません」

鏡像自己認知とは、鏡に映った自分を認識することだ。これができる動物は非常に数が少なく、ヒトなどいくつかの霊長類やイルカ、ゾウなどでしか見つかっていない。ヒトの赤ん坊やイヌ、カラスも鏡像認知はできないといわれている。

「私はタコを対象に鏡像自己認知の研究を続けていますが、個体によっては鏡に興味を示し、動かそうとしたりします。タコにも鏡像自己認知の能力が認められる日が来るかもしれません。あと、鏡への関心の強さに個体差があるのも面白いですね。タコにも性格の違いがあるのかもしれません」

* * *

タコは、知性に関して人類の"先輩"かもしれないと池田先生は言う。

「知性というとヒトの専売特許のように思われがちですが、進化の歴史全体を眺めると、知性を獲得したのはタコのほうがずっと先かもしれません。

つまり、ヒトは遅れて、タコとは別に知性を手に入れたことになります。タコがヒトのような知性を持つのではなく、ヒトがタコのような知性を持てた、というわけです」

だが、もしかすると、タコの知性は命と引き換えだったかもしれない。

「タコの祖先は貝の祖先から進化したのですが、貝が長い寿命を誇るのに、タコは半年から数年程度の寿命しかありません。一般的には脳が大きい動物は寿命も長いのですが、タコは違うんです。

これは想像ですが、私は、タコの知性は寿命と引き換えに手に入れられたものかもしれないと思うんです。タコは進化の過程で身を守る貝殻を捨て、代わりに知性で身を守ることにした。しかし脳はとてもコストがかかる器官ですから、寿命が短くなってしまったのかもしれません」

タコの日に、どこまでもユニークなタコの知性に思いをはせるのも悪くない。

●池田 譲(いけだ・ゆずる)
琉球大学理学部教授。イカやタコといった頭足類の行動を研究する。『イカの心を探る』(NHK出版)、『タコの知性』(朝日新聞出版)など著書多数

■『タコのはなし-その意外な素顔-』
成山堂書店 2420円(税込)
タコの進化の過程、獲物の捕獲方法、暮らしの様子、脳の秘密、8本の腕の役割など、さまざまな角度からタコの魅力に迫る一冊。写真やカラー図版も充実

★『“本”人襲撃!』は毎週火曜日更新!★