KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル。日本を代表する大企業がNTT、自民党に対してかなり強めに物申し中の「NTT法廃止」問題。そもそもどんな法律なのかをはじめ、問題点や改善点など不明点多すぎ。とにかくわかりづらいNTT法を徹底解説です!
* * *
■実は身近な問題だったNTT法の廃止
今月に入って報道されることが多くなってきた「NTT法廃止」。政府がNTT法の廃止を目指しているらしいということですが、専門用語が多くてかなりわかりづらい状況。それこそ、NTT法で検索すると【NTT法とは】【NTT法 わかりやすく】と候補が表示されるほど!
世間からも関心は高まりつつあるけど、楽天モバイルの三木谷会長をはじめとする3キャリアのトップによるX(旧ツイッター)での反対意見の連続ポストばかりがトピックスになり、「NTT法の内容」「現状の問題点・改善点」など重要な事柄が忘れられがち。
快適な通信環境だけでなく、実は経済的にも国民に影響を与える可能性があるというNTT法。これを長年にわたって取材を続けるITジャーナリストの法林岳之(ほうりん・たかゆき)さんに解説してもらいます!
――まずは、「NTT法」の解説からお願いします。
法林 日本の通信事業は1885年の逓信(ていしん)省に始まり、1952年からは電電公社(日本電信電話公社)、それが85年に特殊会社として民営化されたNTT(日本電信電話株式会社)へと受け継がれました。
このときに【日本電信電話株式会社等に関する法律】としてNTT法が定められたのです。現在、法律の対象となるのはNTTグループを統括するNTT(持ち株)、NTT東日本、NTT西日本の3社となっています。
――NTT法が施行された理由とは?
法林 電電公社時代には多くの通信用のインフラが構築されました。例を挙げると、通信の中継などを担う局舎、電話線や光ファイバー網の伝達に使われる電柱・管路・洞道(とうどう)などがあります。これらの財源の多くは税金から捻出され、財務省の資産データでは25兆円もの資金が投入されています。
なので、民営化されてインフラ資産を受け継いだNTTには、これらを安定して管理・運営し続ける責務があります。そのために機能するのがNTT法なのです。
――だから三木谷さんはXで【国民の血税】を強調しているのですね。では、NTT法を廃止する理由は?
法林 NTT法では、NTTの株式の3分の1以上を政府(財務大臣)が保有することを定めています。政府としてはそのNTT法を廃止し、保有する株式をNTTへ売却することで防衛費の財源を確保しようとしたのです。
しかし、これがいつのまにか立ち消え、NTT法の廃止のみが先行。これに関しても3社は抗議している状態です。
――なぜNTTの株式を政府が保有しているのですか?
法林 税金で構築した通信インフラを使い、NTTが政府の許可なく利益だけを追求したビジネスを行なうことを防止するためです。さらにNTT法では、NTTが研究開発した成果などは、一般開示をする必要があります。
――NTTの不利要素が多すぎで、廃止しても国民からクレームがなさそうですけど!
法林 はい。いくら税金で構築されたインフラを運用する企業だとしても、研究データの開示などは特許関連の問題も多く、NTTにとっては足かせでしかありません。なので、KDDIをはじめとする3社も、NTTの会社運営に関して時代にそぐわない部分は法改正を主張しています。
――なら問題解決ですよね。
法林 いえ。NTT法が廃止され、NTTが自由に通信インフラの運用や価格設定を行なえるようになることを、3社は懸念しているのです。
現在の固定電話や光ファイバーを利用したインターネット回線はNTTが保有するインフラを使用しており、料金的にはKDDIやソフトバンクも同程度の価格で提供され公平性が保たれています。これはNTT法があるからです。
でも、NTT法が廃止されると、これらをNTTが政府の制限なく独占的に運用でき、現在のような価格は維持できなくなる恐れがあるというのが3社の主張なのです。
――ほかの3社も自前の通信インフラを構築すればよいのでは? それもあってSNS上では【限界利権バトル】と揶揄(やゆ)されていますし......。
法林 通信インフラの構築費用の25兆円は、現在の貨幣価値では約40兆円です。この金額を捻出できる企業はどこにもありません。
――スマホがあれば、固定電話や固定インターネットはほぼ利用しませんよね。
法林 いえ。スマートフォンは電波で接続しますが、基地局から先は光ファイバー網が使われています。コンビニでおにぎりを買った販売データはコンビニ各社本部に集められ、ここでも光ファイバー網によるインターネット回線を使います。
宅配便の配送管理やスタッフへの指示、製造、サービス業など、あらゆる業種において、広範囲で光ファイバーによる固定インターネット回線が活用されています。
実はこの部分が、各業種で値上げラッシュとなる可能性を秘めているのです。
■国家安全保障上にも問題がアリ!?
――各業種での値上げにつながる理由とは?
法林 先ほども言いましたが、固定インターネット回線に使用される光ファイバー網は【電柱・管路・洞道】に設置され、これらは電電公社からNTTに引き継がれた通信インフラです。
そして例えば、【管路の補修が必要】となれば、その費用が発生します。NTT法が廃止された場合、補修費用分を各種料金へ自由に上乗せすることも可能になります。固定インターネット回線の料金が上がることで、クラウドを利用する各業種の料金もアップするでしょう。
これは燃料費が高騰して、物の値段が上がるのと同じ構図です。もちろん、せっかく値下げされた携帯料金の値上げも考えられます。
――これは単純に【限界利権バトル】では片づけられない問題になっていますね。
法林 はい。それに収益化の難しい過疎地の通信環境の維持という問題もあります。国鉄民営化でできたJR各社はローカル路線の赤字が続き、多くの路線の運行が停止されました。これと同じようにNTT法が廃止されれば、NTTが利益優先で地方などの通信サービスを終了することも可能になります。
そして国家安全保障上の問題もあります。これまでは外資には出資規制がありましたが、NTT法廃止後はそれも可能。つまり、各国でサイバーテロが頻発する中、国内の最重要インフラを国外企業に握られてしまうことも考えられます。
――現在、NTT法の廃止は既定路線のようになっていますけど、これはどう着地させるのが正解でしょうか?
法林 一番わかりやすく、国民にも支持されるのは、NTTが「NTT法が廃止されても値上げはいっさい行ないません」と宣言することでしょう。しかし、そういった話はなく、それどころか政府、NTT、通信3社による会談も行なわれていません。まずは、関係各社による会談が必要です!
――とにかく国民が損しない、NTT法廃止でお願いします!
写真/西村尚己/アフロ 東洋経済新報社/アフロ 毎日新聞社/アフロ 時事通信社 法林岳之