11月17日(現地時間)から始まったサム・アルトマンさんの解任を発端とするOpenAIのお家騒動。IT業界のトップであるマイクロソフトをも巻き込むドタバタ劇はなぜ発生したのか? マイクロソフトとOpenAIの関係、AIを主軸として大躍進する両社のIT業界における立ち位置などを徹底解説します!
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■OpenAIがMS(マイクロソフト)と組む理由とは?
今年ブレイクした生成AIで圧倒的な知名度を誇る「ChatGPT」シリーズ。先月、その開発企業であるOpenAIで内紛が勃発。同社の主要エンジニアで、CEOであるサム・アルトマンさんが解任され、即マイクロソフト入りするかと思ったら、OpenAIへ復帰。
11月17日から始まった今回の〝アルトマン騒動〟から見えてくる、OpenAIとマイクロソフトとの関係。そして両社の圧倒的な技術力で進化するWindows、ビジネス展開とは?
『できるWindows 11 2024年 改訂3版 Copilot対応』(インプレス/12月6日発売)の著者であるITジャーナリストの法林岳之(ほうりん・たかゆき)さんに解説してもらいます!
――まずは〝アルトマンさん騒動〟ですけど、どうしてあんな事態に?
法林 発端となったのは、OpenAIの創業者であるサム・アルトマン氏と、同社のチーフサイエンティストであるイリヤ・サツキーバー氏の対立です。
アルトマン氏はAIをより大きなビジネスにしたい急進路線。一方で、サツキーバー氏はAIの【安全性と法整備】を優先すべきと主張していた人物です。そういった対立があり、アルトマン氏はOpenAIを解任となりました。ここまでが11月17日までの話です。
ただ、解任理由に関しては、OpenAIの暫定CEOに就いたエメット・シア氏が「AIの安全性の議論だけではない」という趣旨の発言をしており、ほかにも解任理由があったものと考えられます。
――ここからマイクロソフトが登場しましたよね。
法林 はい。11月19日にはアルトマン氏と、彼を慕うAIのトップエンジニアたちをマイクロソフトが受け入れることを同社のサティア・ナデラCEOが発表。しかし、その後にサツキーバー氏ほか、アルトマン氏を解任したスタッフたちが謝罪。内紛発生から5日後に、アルトマン氏らのOpenAIへの復帰が発表されました。
――OpenAIとマイクロソフトにはどんな関係があるのでしょうか?
法林 マイクロソフトは誰にでも簡単に扱える生成AIとして、Windows 11のアップデートで新AI機能である「Copilot」を12月1日から正式実装しました。起動して即AIが扱えて文章から画像まで生成できる、AIを前面に押し出した史上初のOSといえるでしょう。
マイクロソフトがこのようなOSを開発できるのは、これまでOpenAIに対して1.3兆円以上の出資を行ない、技術提携もあったからです。このような関係性があり、今回の解任騒動でもアルトマン氏とスタッフたちの一時的な受け入れを行ないました。
――ということは、マイクロソフトもAI開発に関するスタンス的には【安全性・法整備優先】より、【ビジネス優先】なのですか?
法林 いえ、慎重派です。Copilotが生成した作品に関しても、利用した【ソース】が表示されます。そして、もしビジネス優先だったらアルトマン氏らを全力で引き留めていたでしょう。それこそ、アルトマン氏らのマイクロソフト入りが発表されると、同社の株価は過去最高値を記録したほどでしたから。
――引き留めることはできませんでしたが、アルトマンさんとの関係はさらに深くなったでしょうし、マイクロソフト的にはラッキーでしたね。では、そもそもOpenAIがマイクロソフトをパートナーに選んだ理由は?
法林 マイクロソフトが所有するデータセンター、そこで運用されるクラウドの存在です。AIの開発にはユーザーがネットで検索した事柄をはじめ、動画や画像、各種資料などビッグデータが必要です。
アルトマン氏と、彼の開発チームが満足する開発環境を提供できるのは、世界中に展開する超巨大なデータセンターで運用されるクラウドを持つマイクロソフトぐらいしかなかったのです。
アマゾンやGoogleも巨大なデータセンターを持っていますが、世界規模かつOSや各種システムと連携できるとなると、やはりマイクロソフトが上です。
――Appleはどうなんでしょう。自前のOSがスマホやPCにもありますし!
法林 Appleは自前のクラウドを運用するデータセンターを所有していませんので、現状ではOpenAIが望む開発環境を提供することができません。
■ゲームコンテンツもMSの時代が到来!
――そもそもなんですが、マイクロソフトって、OSのWindowsとビジネスアプリのOfficeだけじゃないんですか?
法林 もちろん、現在でもOSやアプリの事業をやっています。しかし、もともとクラウド部門を統括していたサティア・ナデラ氏が2014年にマイクロソフトのCEOに就任以降は、事業の中心をクラウド(Azure)に据えています。
現在、クラウドには世界中の政府や企業がデータを集積しています。身近なところだと、マイナカードやLINEの個人情報の保存からサービス運用、Netflixや各種ECだってクラウドなしでは機能しません。
現在、マイクロソフトは世界中に展開し、安全性を重視したクラウドを政府や企業に貸し出すことで、収益を得ているのです。現在ではクラウド事業の収益が10兆円を超えるほどになっています。
――ある意味、土地であるクラウドを政府や企業に貸している感じですかね?
法林 はい。地主です。そして、そこから出てくるビッグデータという資産はマイクロソフトが利用できます。これがAI開発の燃料となっているのです。
――なるほど! リアルな土地から原油が出たら地主の所有物になるのと一緒じゃないですか!
法林 もちろん個人データ、各種秘匿データは扱いが別ですが、基本はマイクロソフトが運用できることになります。そういったクラウド環境と、OpenAIとの協業があって、Windows内でも生成AIが利用できる環境が実現したのです。
――そんな中、マイクロソフトはゲーム部門もお強いとか?
法林 もともと『マインクラフト』や『Halo』といった世界的なIPがありつつ、今年は約10兆円で「アクティビジョン・ブリザード」の買収が完了しました。
――それって、世界中の若者から大人気の『Call of Duty』や『World of Warcraft』のメーカーだし! でも、あんまりおじさん向けのコンテンツじゃない気も......。
法林 もともと、マイクロソフトには『ソリティア』シリーズがあり、今回の買収でパズルゲームの『上海』の権利も獲得しています。そして、ゲーム配信、オンラインゲームでのプレイ環境にもマイクロソフトのクラウド技術が生かされているのです。
――では最後に、マイクロソフトとOpenAIのAIには、今後どんなことを期待していますか?
法林 世界中の政府や企業で議論される〝AIの安全性問題〟は、WindowsにCopilotが実装されたことで、より活発化します。
子供でも簡単にAIを扱える時代になり、「AIで生成されたディープフェイクの危険性」といった教育が絶対に必要です。こういった教育面でも両社にはリーダー的な存在になってほしいですね。
――ユーザー的には安全性・法整備を優先したAI進化でお願いしたいです!