直井裕太なおい・ゆうた
ライター。尊敬する文化人は杉作J太郎。目標とするファウンダーは近藤社長。LINEより微信。生活費の支払いは人民元という国境を越えるヒモおじさん。ガチ中華はブームじゃなくって、主食です。
ウクライナ侵攻でのドローン飛行用のネット回線、そして能登半島地震では損傷した基地局の代替として注目される衛星通信システム。これまでは米スペースXのStarlinkの一強だったが、ライバルたちも新衛星の打ち上げに大成功。その新技術や国内4キャリアの動向を紹介です!
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能登半島地震では通信インフラが遮断された地域での緊急回線として、被災者だけでなく自衛隊やDMAT(災害派遣医療チーム)にも活用される、スペースXの衛星通信システム「Starlink(以下、スターリンク)」。
2022年のロシアによるウクライナ侵攻で世界的に注目され、日本では23年に離島を含む全地域をカバーするサービスを開始。地上の基地局と連携し、スマホやWi-Fiを安定して利用できるのはスターリンク一択な状況だったが、昨年末からは大手ITや通信企業が続々と衛星を打ち上げてスターリンクを猛追。
そんな中、これらの企業と国内キャリアとの提携も活発化。衛星通信の最新事情を、長年にわたって通信業界を取材するITジャーナリストの法林岳之(ほうりん・たかゆき)さんに解説してもらいます。
――衛星通信は、いつぐらいからスタートしたものなのでしょうか?
法林 一般的に衛星を利用した通信が最初に注目されたのは1963年11月の「ケネディ米大統領暗殺事件」です。このときに使用されたのは「リレー1号」と呼ばれる通信衛星で、地球を3時間で周回する衛星でした。
その後、放送用の静止衛星が打ち上げられ、日本では赤道上空の高度約3万6000㎞から、BSやスカパー!などの衛星放送が提供され、これは通信にも利用されるようになりました。
一方で、近年の衛星通信でスマホやWi-Fiを利用するのに使われるのは、高度550㎞付近を軌道する低軌道衛星です。こちらは低高度から電波を届けられ、同一軌道上に衛星を配備する「衛星コンステレーション」を行なうことで安定した電波を広範囲に送信できるのが特徴となっています。
――一般ユーザーが利用できるインターネットや携帯電話の衛星通信の誕生は?
法林 日本国内で本格的な衛星インターネット通信がスタートしたのは99年です。衛星放送技術や受信アンテナを転用したNTTサテライトコミュニケーションズの「Mega Wave」は、当時のインターネットとしては高速な下り最大1Mbpsの通信速度を実現。
しかし、放送用の静止衛星は天候によって通信が不安定になることも多く、1年ちょっとでサービスが終了してしまったのです。
そして携帯電話の衛星通信もこの時期に登場しています。99年にイリジウムが日本国内でのサービスを開始。イリジウムは現在、衛星通信の主力となっている低軌道衛星を使用したサービスでしたが、月額1万600円~(今年1月現在の月額)という高額な料金もあり、特定用途にしか普及しませんでした。
――でも、低軌道衛星だから通信は安定しているのでは?
法林 衛星を一列に連ねて運用する衛星コンステレーションで安定した電波を発信するためには、多くの低軌道衛星が必要です。イリジウムが運用している低軌道衛星は66基前後。一方、スペースXが手がけるスターリンクの衛星数は5000基前後。通信の安定性では比較にならない数字なのです。
――スターリンク、圧倒的じゃないですか! これに対抗するのは、どのようなITや通信企業があるのですか?
法林 まずアマゾンには、子会社である宇宙開発企業Project Kuiper(以下、プロジェクトカイパー)があります。同社もスターリンクと同じように低軌道衛星を利用しており、昨年の10月にはその打ち上げに成功。今後6年間で3200基の低軌道衛星を打ち上げる予定となっています。
国内では昨年11月に、NTT、NTTドコモ、NTTコミュニケーションズ、スカパーJSATと協業していくことが発表されました。
――この協業により、日本では通信衛星がどんな活用を?
法林 プロジェクトカイパーはスターリンクと同じようにアンテナ端末があれば衛星からの電波を受信できます。そして、スターリンクが実測で下り100Mbps前後の速度に対し、プロジェクトカイパーは100Gbpsと高速。このような技術を生かし、山間部や島嶼部など日本ならではの通信環境を整えるのがNTTドコモの考える利用目的です。
また、こういった地域での建設機械の遠隔操作などにも活用でき、アマゾンのクラウドサービスであるAWSと連携してAIを用いた運用ができるのも特徴です。もちろん、能登半島地震のような災害用としても申し分ないでしょう。
――KDDIは能登半島地震でスペースXのスターリンクを積極的に提供していましたよね。
法林 はい。KDDIは能登半島地震前からスターリンクを基地局や無線Wi-Fiスポットとして活用を進めており、国内では最も衛星通信に長たけたキャリアでしょう。スペースXは今年1月3日に次世代の衛星の打ち上げに成功し、これにより今後は、スマホと衛星との直接通信が可能になります。
――直接通信とは、どういったシステムなのですか?
法林 これまでのスターリンクは衛星からの電波を、地上のスターリンク端末と連携して基地局、無線Wi-Fiスポットに変換していました。次世代衛星ではスターリンク端末は必要なく、市販のスマホと衛星による直接通信が行なえ、SMSの発信などが可能となります。
これに近いシステムとしては、Appleが22年発売のiPhone 14シリーズから実装する「衛星経由の緊急SOS」機能があります。ただし、北米とヨーロッパ、オセアニアの一部のみ対応で、日本では実装の時期すら発表されていません。
一方、スペースXとKDDIは24年度の早い時期に、衛星とスマホの直接通信をユーザーに提供することを発表済みです。
将来的にはスマホのデータ通信・通話も可能にする計画で、現在は各社共にスマホと衛星の直接通信が技術開発の中心になっています。
――では、ここからはソフトバンクや楽天モバイルの衛星通信事情もチェックしてみましょう。
法林 ソフトバンクが力を入れているのはHAPS(High Altitude Platform Station)技術です。高度20㎞前後の成層圏を飛行する無人航空機に基地局システムを搭載し、地上半径100㎞のエリアをカバーするという技術です。
同社の子会社が開発した機体は翼長78mという超巨大な航空機で、これを数ヵ月間も成層圏に滞在させ、電波を発信し続けます。HAPSに関してはNTTドコモも研究していますが、すでに飛行・通信実験にも成功しているソフトバンクが先行しています。
――これ、本気ですごいやつじゃないですか!
法林 日本で運用するとなると、あまりにも巨大な航空機のため、滑走路などの運用施設の確保が問題になってくるでしょう。なので、アフリカやアメリカなど広大な土地のある地域での運用試験が繰り返されています。
その一方、ソフトバンクはイギリスの宇宙開発企業OneWebとも提携し、衛星通信網の構築にも取り組んでいます。OneWebはスペースXと同様のサービスを行なっており、現在600基以上の低軌道衛星を運用しています。
――楽天モバイルの技術は?
法林 楽天モバイルはキャリアとして正式サービスを開始した20年に、アメリカの宇宙開発スタートアップ企業のAST SpaceMobile(以下、AST)と提携し、同社の低軌道衛星BlueWalker 3で実験を行なっています。
すでに市販のスマホと衛星との「データ通信・音声通話」両方の直接通信に成功しており、実は世界初の快挙となります。
ASTは規模的にはまだ小さいですが、Googleや各国の通信大手が続々と投資と技術支援をしており、今後の期待は大きいです。
――では、キャリアが衛星通信に力を入れる理由とは?
法林 全ユーザーが衛星を利用した直接通信を常時接続するのは、設備やコスト面で難しいでしょう。ただ、災害時に衛星通信を無料開放することのメリットが大きい。被災地に無料開放することで、救助・救命作業はより効率化します。それもあってキャリアは衛星通信の技術開発、その実用化を急いでいるのです。
――より災害に強い通信インフラが誕生するなら、これは大歓迎です!
写真/AST SpaceMobile Project Kuiper SpaceX KDDI ソフトバンク AFP/アフロ ロイター/アフロ 法林岳之
ライター。尊敬する文化人は杉作J太郎。目標とするファウンダーは近藤社長。LINEより微信。生活費の支払いは人民元という国境を越えるヒモおじさん。ガチ中華はブームじゃなくって、主食です。