直井裕太なおい・ゆうた
ライター。尊敬する文化人は杉作J太郎。目標とするファウンダーは近藤社長。LINEより微信。生活費の支払いは人民元という国境を越えるヒモおじさん。ガチ中華はブームじゃなくって、主食です。
現在、不動産や金融などでの"バブル崩壊"が連日伝えられる中国。その一方、バブル真っただ中で世界のシェアを独占しつつある市場が! それがバッテリーをはじめとする蓄電池だ。圧倒的に強い中国の蓄電池技術、さらに突如登場した"謎の原子力電池"も紹介です!
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EV(電気自動車)や、それに関連する充電ステーションなどの給電インフラ、そして太陽光発電などの利用者が急増中の日本。だが実は、それらに使用される蓄電池関連の技術だけでなく、製品そのものも中国製が多いという。
そんな中、1月8日には中国のIT企業から"原子力電池を2025年に発売予定"という驚きのリリースも! 原子力電池のスペックから、近年の中国企業による蓄電池関連の大躍進っぷりを、中国IT関連に精通するジャーナリストの高口康太さんに解説してもらいます!
――まずは中国メーカーから発表された原子力電池についてお聞きします。これ、どんな用途に使われるのですか?
高口 原子力電池は1960年代から宇宙開発用として実用化され、人工衛星の電源供給用途として利用されていました。
医療部門でも心臓のペースメーカー用電源として研究されていた時期があります。宇宙開発に使われていた原子力電池の技術を転用し、スマホやドローンに内蔵できるサイズまで小型化したのが、今回中国メーカーが発表した製品です。
充電せずに50年間も電力供給をし続けられる世界初の〝民生品原子力電池〟となります。そのインパクトもあり、日本や欧米のネットでは話題になりました。
――これは世界的な大発明じゃないですか!
高口 普通ならそうなりますが、現状では原子力電池を発表した会社に関して謎が多すぎます。このプレスリリースを発表したのは2021年に創業された「北京貝塔伏特新能科技有限公司(ベータボルトテクノロジー)」というスタートアップ企業です。
これまで、今回のリリース以外に目立った発表もなく、活動内容も公開されていません。おそらくロシア人と思われる社長の名前は公開されていますが、組織図なども不明という......。
――でも、公式HPには【医療・軍事・宇宙開発】という活動項目も紹介されていますから、原子力電池との親和性の高い企業ですよね。
高口 はい。ただし、項目はありますが、その先がまったく表示されません。つまり詳細な活動内容がまったく不明なのです。これは〝中国のスタートアップ企業あるある〟なんですけど(笑)。
――え!?
高口 中国のスタートアップ企業には、資金調達のためにとりあえずインパクトの強いリリースを流す企業が多くあります。
ベータボルトテクノロジー社がそれをやっているとは言い切れませんが、現在中国で最も活気があり儲かっているジャンルである蓄電池市場では、こういった手法のリリースが多いのも事実。それもあってか、今回の原子力電池に関して中国のネットニュース、SNSもいまいち盛り上がっていないという。
――ダメじゃん! 最近の中国報道だと〝◯◯バブル崩壊〟といったものが多いですけど、蓄電池市場はそんなに好景気なんですか?
高口 はい。これまで中国の輸出商材は【アパレル・日用品・家電】が主力で、中国では「老三様」と呼ばれています。家電にはスマホをはじめとする各種ガジェットも含まれ、これを扱っていれば間違いのない商品だったのです。
しかし、中国国内の人件費がアップしアパレルや日用品は価格勝負が苦しい。スマホやドローンなどはアメリカからの経済制裁もあってこれまでのようにビジネス展開するのが難しくなってきました。
それに代わる商材として登場したのが【太陽光パネル・EV・バッテリー】です。これらは「新三様」と呼ばれ、中国では流行語にもなっているほどです。
――新三様はどれぐらいの経済規模なんですか?
高口 EV、各種バッテリー共に世界シェアで50%以上を誇っており、太陽光パネルに関しては90%以上のシェアで、関連製品を含めた輸出額は7兆円を超えています。
――圧倒的じゃないですか! 中国国内でこれら新三様が台頭したきっかけとは?
高口 08年に地球温暖化防止に技術・経済面で積極的に取り組む「グリーン・ニューディール」がアメリカで発表され、世界的に再生可能エネルギーに対する関心が高まりました。各国が石油に代わる新エネルギーを模索する中、中国は全力で太陽光発電の研究・開発を行なったのです。
当初は太陽光の蓄電に使うバッテリー容量も低く、停電が頻発する不安定な電力というイメージでした。しかし、蓄電用バッテリー、太陽光パネルの研究を推し進め、現在では大サプライチェーンを構築したのです。
――バッテリー以外にもすごい技術がある?
高口 製品開発だけでなく、例えば停電が発生した場合にも、ほかの地域から即電力を供給できる電力インフラ網も整備されました。
なので、海外のように家庭や地域だけの小規模な太陽光発電ではなく太陽光発電所も至る所に増設され、平地どころか海にまで発電所を建設しているほどです。この太陽光発電インフラを海外へ丸ごと売り込むことも可能なのです。
このように太陽光関連が発展した理由は、中国政府の補助金、そして海外で生活していた蓄電池技術に強い〝中華系エンジニア〟を大量に引き抜いたことが大きいです。
――では、EVはどのように発展したのですか?
高口 中国では15年が〝EV元年〟と呼ばれています。ここから政府はEV、EV関連技術を開発する企業に対して補助金を配るようになり、多くのスタートアップ企業が登場しました。ただ、中には一台もEVを製造することなく、消滅した会社も多く存在します。
――その〝中国EVメーカーの倒産〟って最近よく報道されていますよね。
高口 これは、ある意味で国策なんです。多くのスタートアップ企業同士を競わせ新技術を生み出させ、その技術を勝ち残った企業が買収して吸収していく。家電やスマホ、ゲームメーカーでも行なわれてきた手法です。
それもあって世界最大のEVバッテリーのメーカー・CATLが躍進し、EVメーカーのBYDも車体とバッテリーで世界的なシェアを高めているのです。もちろん太陽光パネル関連で培った技術も、EVに生かされています。CATLはフォードやテスラにもバッテリーの技術供与をしており、技術・製造力で圧倒的です。
――太陽光パネルで得た蓄電技術がつながってるし!
高口 それが新三様の特徴でもあります。さらにEVに関しては、ファーウェイやシャオミといったスマホや家電を手がけるメーカーも参入。
彼らは車載OSや半導体を開発でき、これはIT関連に強い中国メーカーならではです。そして両社ともスマホ、車載OSの統合を今年から行ない、スマホや家電開発で培った技術も転用されています。
――このほかにも技術転用はあるのですか?
高口 能登半島地震で活躍しているポータブル電源。これの蓄電技術や内蔵される半導体はEVからの転用が多くあります。このように【開発→転用】を繰り返し、新技術が生み出されている状態なので、近い将来に給電寿命50年の原子力電池の発売もありえるかもしれませんね(笑)。
――ただし、絶対に安全第一のやつでお願いします!
ライター。尊敬する文化人は杉作J太郎。目標とするファウンダーは近藤社長。LINEより微信。生活費の支払いは人民元という国境を越えるヒモおじさん。ガチ中華はブームじゃなくって、主食です。